第8話 VS甲冑兜

 夕暮れ時が近い。

 これはリアルの話で、早く町に戻りたかった。


 アキラはクマに追われ、しぶしぶ遠回りをしていると、急に何かが飛んできた。

 アキラは武器を取り、じっとしていると、


「うわぁ!」


 まさかの虫だった。

 そう、虫が飛んできたんだ。

 でも少しおかしい。あの虫は、全身に緑色の甲冑を着こんでいる。

 カブトムシのようだけど、甲殻が武者みたいだった。


「よ、鎧を着ているみたい」


 勢いよく飛んできた虫を、叩き切ろうとした。

 だけど、小さな虫を叩き切る技量はアキラにはなく、簡単に躱されてしまっていた。


 シュン!


 叩き切る音だけが、虚空に消える。

 何て虚しい音だ。

 ハエ叩きに失敗した時のような、虚しい気分になった。


「うわぁ! 全然当たらない!」


 でもそんなの初めからわかっていた。

 だけどそれも仕方ない。

 ハエなんて、あのプラスチックでふにゃふにゃなフライ返しじゃ、倒せるわけないんだもん。それとおんなじことだ。


 でも、アキラは楽しんでいた。

 せっかく剣を使う機会が貰えたんだもん。

 ここで練習タイムと行きましょう。


「そりゃ! あ、ああ。このっ!」


 悲しい声だけが、虚しく。また、澄んだ空気の合間を抜けていた。

 辛いとは思わない。

 こんな単純作業、結構楽しい。


「こんどこそ、絶対当てるぞ!」


 でも、カブトムシは避けてばっかりで、全然攻撃してこない。

 ごくまれに旋回してくるけど、敵意メーターが低いのかな。

 アキラは首を傾げる。

 でも、時々危ないこともあった。


 カブトムシが軌道を変えて、自慢の角を突き出して、襲い来る。


「うわぁ!」


 ブーン!ブーン!——


 なにこれ!? どんだけふかしてるの。

 車の排気音にも似たうるさい音だった。

 見れば超高速で羽を動かしていた。

 羽音が木々を震わせて、耳が痛くて塞ぎたくなった。


「こんなの食らったら、絶対痛いよ! こうなったら」


 剣を放り投げはしなかった。

 しかし試したいこともある。アキラはスライムから、奪った【半液状化】を駆使して、プリンプルンのスライム体質になった。


「おりゃ!」


 アキラはカブトムシを包む。

 青い液体で包まれたカブトムシは、動けなくて苦しそう。

 だけど、そんなカブトムシに、全く容赦しない。


「捕まえた! せーのっ!」


 アキラはお腹だけ、半液状化して、そのまま剣で叩きつける。

 剣の刃は硬くて駄目。

 だからこそ、平の部分で叩きつけて、羽ごと粉砕した。

 可哀そうだけど、HPはゼロになりました。


「あー、なんか可哀そうなことしちゃった」


 めちゃ、罪悪感マックス。

 濃くて苦くて渋いお茶を飲んだ時みたいな、感じで顔が歪む。

 すると、嬉しいことにレベルアップの軽快な音が鳴った。


「やった。またレベルアップだ……あれれ?」


 さらにおまけにスキルを獲得していた。

 今度は何だろ。もしかして、カブトムシの角かな?


 頭から角が生えた女の子。

 流石に、ドラゴンじゃなくて、カブトムシはね。

 けど、いざ確認したら全然違った。


 固有スキル:【キメラハント】

『新しいスキルを略奪しました。甲冑兜:【甲蟲】』


 何だろ。急に悪寒がした。

 アキラは身震いしてから、スキルのポップアウトを切ると、次にでも使ってみることにした。

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