VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ゆう

第1話 放課後の道案内

 学校が終わって放課後になった。


立花明輝たちばなあきらは、親友でテニス部の加竜烈火かりゅうれっかと分かれて、今日も一人で帰っていた。


「うーん。家に帰ってもやることないなー」


 明輝は部活なんてやってない。

 中学の時は手芸部だったけど、高校に入って早一か月そこそこ。

 完全に暇を持て余していた。


「せめて何かやってればなー」


 昔から何でもそこそこできた。

 だけどこれと言って目立った特技はないし、バイトもしていない。

 完全に極潰し状態だった。


「まぁいっか。とりあえずスーパーで卵を買って帰って。後は、確かジャガイモが安かったよね」


 とりあえず今晩の夕飯を考えることにした。

 家に帰っても自分以外誰もいないから、考えるのは楽だ。

 昔から親は自由奔放な人で、なかなか家に帰ってこない。

 仲が悪いわけじゃないけど、仕事の都合とかもある。


 だからこうして一人で過ごすことの方が圧倒的に多いんだけど、それでも退屈を持て余すだけで、他には特に思わなかった。

 流石に暇ではあるので、今日も家事をやって宿題して、ぬいぐるみとか作ったり、絵本を描いたりして過ごそうかな。


 そう思っていた。

 今何処にでもいるような、ちょっとエンジョイできていないけどほんとはエンジョイしたい系の、普通の女の子だった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 近くのスーパーに寄った帰りだった。

 もやしが一袋、なんと30円を切って買える激安スーパーだった。


「ほんと安く買えてよかったよ。卵十個入りで、198円なんて。もしかして私、めちゃくちゃ運良かった?」


 こんなに安く買えるなんて本当に運がいい。

 日本の経済も少しずつだけど回復しているからかな。

 もしかして、今から二十年前に起きた大地震で、日本も全国的に開拓したからかもしれない。

 そのおかげでかなり便利な世の中になっていた。


 その中でも特に……あれ?


「困りましたね」


 何やら困っている女性がいた。

 黒いスーツを着ていて、腕に付けた端末をじっと見ている。

 だけど顔を顰めていて、何処か調子が悪そうだった。


「如何したんだろ。何かあったのかな?」


 明輝は心配になった。

 そこで意を決して聞いてみることにした。

 大丈夫。明輝は初対面の人とも話ができる。


「まさかこんな時に……弱りましたね」

「あの、どうかしたんですか?」


 スーパーで買ったものをエコバックに詰めてやって来た少女を前にして、立ち尽くしていた女性は冷静になった。

 それから、特に恥じることもなく、困っていることを話す。


「それがですね。ナビが効かない場所で、困っているんです」

「ナビですか? えーっと、あっ! ここならすぐそこですよ」


 明輝は女性の端末に表示されていたこの辺りの地図を見た。

 如何やら接触不良か何かで映りがかなり悪い。

 それにしてもかなり高そうな、最新仕様の端末だったことに驚いた。


「そうですか。では、道なりを」

「大丈夫ですよ。このビルならここから近いので、案内します」

「いいんですか? そんなに重たそうなものを持っているにも拘らず」

「大丈夫です。これぐらい鍛えてますから!」


 ニカッと笑ってみせた。

 女性は明輝の真摯な対応を無碍にすることはできず、甘えることにしました。


「えーっと、この通りを左に曲がって。ここの大通り、上の歩道橋を渡って右に行くんです」

「なるほど。ここで一旦戻るのですね。道理で迷いそうになるわけです」

「後はここを道なりに進んで、二つ目の交差点を左に曲がれば。はいっ、着きましたよ」

「ありがとうございます。とても助かりました」

「いいですよ」


 教え方がとても丁寧だった。

 それだけじゃない。女性が驚いていたのは、今どきここまでしてくれる高校生がいたことに驚いていた。

 それに加えて、自分の身分も関係ない。

 そんな分け隔てないところにぐっと惹かれた。


「それじゃあ私はこれで」

「あっ、待ってください。貴女、お名前は?」


 女性は尋ねた。

 するとくるっと振り返り、


「立花明輝です」

「明輝。少年のような、元気な名前ですね」

「ありがとうございます。えーっと」

「私は、エルです。それではまたどこかで。このご恩は一生忘れません」

「はぁ、はぁー?」


 首を傾げてしまった。

 しかしエルは微笑む姿を忘れずに、ずっと興味を抱いて見ていた。

 それから、


「そうです。彼女に何かプレゼントを……そうですね。あの制服は確か御鷹の……そうです、アレにしましょう」


 くすりと笑みを浮かべた。

 それから思い立ったように、巨大なビルの中に入って行く。

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