世界の十字路13~五色の花と山の弓使い~

時雨青葉

プロローグ

静寂を乱す客

 ここは静かでいい場所だ。



 空気は澄んで、風は穏やか。

 天候が荒れることも滅多になく、通年過ごしやすい気候をしている。



 そして何より、一切客が訪れることがないのが心地よくてたまらない。



 いつ何をしようと自由。

 誰に文句を言われるでもない。



 この自慢の工房に引きこもって、自分の胸に衝動が湧き上がってくる瞬間をのんびりと待つ。

 一度腕が震えれば、あとは衝動のままに、作りたいものを作り上げるだけだ。



 今日も、気の向くままに時間を過ごすだけのはずだった。

 それなのに……



 ささやかな瞑想の時間を邪魔する、ノックの音。



「やあ、久しぶりだね。」



 こちらの答えを待たずに工房の中へと入ってきた不躾ぶしつけな客は、全く悪びれた様子もなくそんなことを口にする。



 ああ、最悪だ。



 気分は瞬く間に急降下。



 彼が再びここへ訪れたということは、例の件が次のステージへと進んだのだろう。



 それが創世への道なのか、あるいは終焉への道なのか。

 それは分からないけれど。



 どちらにせよ言えるのは、この来客が自分にとって、この上なく面倒であるということだ。



「……僕はもう、協力するつもりはないって言ったはずなんだけどね。」



 そんな苦言をぼやきながらも、ひとまずは急に押しかけてきた彼に向き合うしかなかった。


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