碑文の世界


 人狼の碑文に記されたプロトコルを元にVRMMO《ルーガルーオンライン》は始動した。碑文に記された七体の人狼が統べる獣界で迷い込んだ人間(PC)は剣と魔法で立ち向かう事となる。七体の人狼の先にはラスボスである『獣王』が君臨し。PCはその世界『人外獣理』で各々自由に生きて来た。ある日、人外獣理第一番が攻略班によって倒されたという報告を受けるまでは。その一報にルーガルーオンラインは大騒ぎになった。人外獣理第一番、速さを求める人狼。獣王の側近にして、第一から第七までの人狼の第二位に値する。それがルーガルーオンライン開始一周年を迎える手前で攻略された。それは人々を人外獣理狩りに誘うには十分であり、一気にゲームは活気づいた。その頃からだった。PCの噂が広まったのは。

 曰く、人狼化したPCは操作不能に陥るのだという。

 曰く、人狼化したPCは現実で意識不明に陥るのだという。

 曰く、人狼化したPCは他PCを襲い、襲われたPCは意識不明に陥るのだという。

 それは人外獣理第一番の呪いだとPC間で話題で持ち切りになった。一人のPC「メメント」はその謎を解明するために、攻略ギルド「七教狩人」に入る事になる。

 そこでギルドリーダー「リュウドウ」に導かれ、人外獣理第二番を狩る事になるメメント。そこでリュウドウが人外獣理第一番の力を使うところを目撃する。多重加速バフ。バグのようなログの流れ、力を操る人外獣理第二番を葬る。するとその人狼の死骸から「呪い」がまき散らされる。そう人外獣理とは代替わりする「呪い」だったのだ。著者「リミュエル=エンゲル」の叙事詩の一部が言霊と化し、ゲームの制作者「マリア=イグニス」のプログラムでその意志は電子化された。リュウドウはそれを利用して、恋人の精神を電子の海からサルベージする事を思いついた。死んだ人間の精神を電子化する計画はルーガルーオンラインが始まる前から実用段階にあった。その第一例がリュウドウの恋人だった。メメントは彼を止めるため。単独で人外獣理を狩る事にする。そこで「人狼の碑文」の著者、リミュエルの電子化された魂に触れたメメントは人外獣理を簒奪する「第零番」を会得する。そして第三番と第四番を撃破し、リュウドウと対等になる。そして激突するかに思われた二人は、先に第五番、第六番をそれぞれ狩り、残る第七番と獣王を狩る準備を始める。

 獣王の玉座で二人は激突する。

 第七番は人狼の群れを従え、獣王は静観する。

 疾駆し、剛力を駆使し、海を制し、空を制し、毒を用い、生命を増やし、人狼を操り、三者は激突する。それはルーガルーオンラインの根底プログラムにダメージを与え、世界は崩壊していく。リュウドウは崩壊する世界で恋人の魂を探す。その隙にメメントはリュウドウを刺し、人外獣理を統合する。そして獣王の下へと挑み、一刀の下に切り伏せる。そしてルーガルーオンラインをつなぎ合わせるために、人外獣理を第一番から第七番を詠唱する。そして最後の一文を追加する。


 黎明よ、黎明よ、黎明よ。

 人間の理を此処に敷く。

 獣王よ、私は人の心を望みます。

 

 ――叶えよう。その望み。


 こうして人外獣理はリセットされ、ルーガルーオンラインは一時停止され、一年後、大幅アップデートの下に復活したのだった。

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