第六章 魔獣少女、最後の戦い

第45話 魔獣少女の総括、オーディン

 オーディンの正体は、アキさんだったのか。


 カラスの翼を携え、背中に三叉の槍を背負っている。

 魔獣少女になると、オーディンは八咫烏ヤタガラスの化身になるのか。


「二人は死んだんですか?」


 倒れている二人に視線を向けて、わたしはバロール先輩に尋ねる。


『いや、息はあるぜ。落ち着け。オレサマの二の舞いになるぜ』

「ええ。わかっています」


 目の前にいる魔獣少女は、間違いなく八咫烏オーディンだ。


「やはり最後まで生き残ったのは、お前だったか。バロール」


 アキさんの声帯を借りて、オーディンが話し始めた。

 その声は、アキさんのものではない。もっと老人めいた声色だ。


『テメエが、オーディンだな?』

「そうだ。忌々しい魔獣少女め。ヘカトンケイルほどの達人を殺したほどの者がいるのだ。おとなしくしていればよかったものを」

『あいにく、オレサマはダチを殺されてノンキでいられるほど、性格がデキていないのでね』


 二人の会話は続いているが、わたしは尋ねたいことがある。


「どうして、アキさんに憑依したのです?」

「彼女に望まれたからだ」


 ユキちゃんは、もって一ヶ月の命だったそうだ。


 そこへオーディンがアキさんをそそのかし、魔獣少女にしたという。


「高校生じゃなくても、魔獣少女になれるんですか?」

「二〇に満たなければ、大学生だろうと魔獣少女になれる。よって力を貸した。『我の野望に加担せよ』と念を押して」

「バロール先輩のお友だちを殺した理由は?」

「あやつが、九尾の狐ヘカトンケイル『魔獣少女の戦いから、地球を解放する』と抜かしたからよ。もう一息で、地球を我が物にできたものを!」


 オーディンは、格下のヘカトンケイルに負けたことをずっと恨んでいたという。彼が欲したのは、地球だ。


「実体化し、地球のオナゴと交配して、半神による神話の時代を再構築する予定だったのに!」


 聞くに耐えぬ、ゲスな望みである。


「もしかして、ユキちゃんを狙ったのもあなたでは?」

「そこに気づくとは、さすがバロールの化身よ」


 わたしの目が、ずっと訴えていた。ユキちゃんの中に巣食う病の破片と、オーディンの放つ瘴気の色が等しい。


「再度ユキちゃんを人質にとって、魔獣少女狩りをさせていたのでは?」

「左様だ。アキは、見事な戦いぶりだった。妹のために必死で戦う彼女は、すばらしい逸材よ。妹を弱らせているのが我だと気づかぬのに」


 イヴキさんの元で働かせていたのも、警察の捜査や魔獣少女の目線を、加瀬カセイヴキさんに向けさせるためだった。


「ユキちゃんを弱らせて、どうするつもりだったんです? 殺すつもりなら、人思いに殺すことだってできたはず」

「殺すわけがない。我が子を宿すに相応しき、貴重な母体なのでな」


 言葉を聞けば聞くほど、わたしにコイツへの殺意が湧いてくる。


『聞いたな。ヒトエ。人思いに殺っちまえ』

「はい。ですがアキさんの命が」

『大丈夫だ。アキならそこにいる』


 倒れている中に、アキさんの姿もあった。


『やつは、アキの姿を借りているだけだ。ある程度は実体化できるまで、パワーが上がったんだろう』


 バロール先輩は、魔獣少女の力を奪ってしまう。どのみち魔獣の姿で戦うしかないのだ。アキさんの身体を人質に取る作戦も、わたしには通用しない。


「だが、面白くない。これはどうかな?」


 背中に背負っていたヤリが、ひとりでに動く。


 イヴキさんはよけたが、巫女二人はそうはいかない。


 スカディとケツアルカトルを、ヤリは一撃で突き刺した。


 巫女二人のパワーが失われ、オーディンへと流れていく。


「まだまだ」


 オーディンの姿が、アキさんからユキちゃんへと変わった。


 ユキちゃんの顔になったオーディンが、不敵に笑う。


「ヒヒ。これで貴様はワシに攻撃できま――」


 自分でも知らない間に、わたしはオーディンの顔面に拳を叩き込んでいた。


 ユキちゃんの顔でオーディンが笑ったのが、許せなかったから。

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