汗っかき
ぐらにゅー島
第1話
汗をかいた。
夏は暑い。
体育の後の着替えの時間は、更衣室の中がもわっとする。
隣で着替える友達が、体操服を脱ぐ。
「ごめん、汗臭いっしょ?」
アハハ、と気まずそうに笑う。
「ううん、臭くないよ。」
なんで臭いって言うんだろう?
汗に匂いは無いらしい。
汗が、アカとか皮脂と混じって匂いがするんだって。
…いい匂いだと思うんだけどなぁ。
ふと、気がつくと更衣室は違う匂いに変わった。
オレンジ色だった空気が、水色に変わる。
「…何してるの?」
友達が、汗拭きシートを使っていた。
「ん?これいい匂いでしょ!一枚いる?」
ふと、周りを見渡すとみんな制汗剤やら、シートやら使っている。
「私は、いらないかな。」
そっかー、と言うと彼女は自分の身体を拭き始める。
「なんで、汗、拭いちゃうの?」
私は、なんとなく彼女に尋ねる。
「…? 臭くなっちゃうから?皆んなやってるし、女子力だよー!」
不思議そうに彼女は首を傾げたが、笑って応えてくれた。
「ふーん。」
変なの。臭いなんて、誰が決めた?
一生懸命頑張るから、汗をかく。
それなら、汗は文字どうり努力の結晶になる。
努力の結果を、臭いなんて言って拭き取ってしまっていいのかな?
汗拭きシートの石鹸の匂いで、彼女は汗の匂いを上書き保存する。
それはとても簡単なことで。なんだか少し、寂しい。
「じゃーん!見て見て!期間限定の匂いなんだって!」
彼女は、体操服の入っているナップザックからさっきとは違う制汗剤を出す。
「そうなんだ。」
なんでそんなに沢山買うんだろう。
そんなに自分を隠したいの?
汗を拭くことは、努力を上塗りしてしまうようで。
なんだか、あんまり好きじゃないなって。
「バイト代で買ったんだよ?めっちゃかわいい…!」
彼女はニコニコしているけど。
その笑顔の裏に、何を隠しているのかな?
「あれ、バイトって料理屋だっけ?」
「ん?そうだよー!毎日暑くて汗かいちゃう。嫌になっちゃうよねぇ…。」
なんだか難しそうな顔をして、彼女は呟く。
汗かいて、努力して働いて。
働いたお金で汗ふきシートを買って。
それを使うためにまた働いて汗をかく。
なんのために、頑張ってるんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます