第46話 新しい出会い
そして、今日。
午前中は、圭の父親・優と、午後は、圭の母親・美里との対面だ。
父親と圭のマンションで会ったあと、圭の運転する車に乗って、圭の母親たちが住んでいる家に向かう。
昼食は、圭の母の家でその家族と一緒に取ることになっている。
「大丈夫だよ。そんなに緊張しなくても」
緊張している佳也子に、圭が言う。
「かあちゃん、て、にぎってるから。だいじょうぶ」
想太が、佳也子の手を握る。あたたかな柔らかい手。小さなぬくもりが、佳也子をほっとさせる。
反対側の手を、今度は、圭が握る。
「行こう」
初めて会う圭の母親は、圭とよく似たきれいな人だった。柔らかな眼差しで、佳也子たちを迎え入れた。
玄関で挨拶をして、リビングに案内される。
リビングのソファで、圭の母の横に座ったのは、彼女の夫・卓也と、圭の妹・このみだ。彼女は、高1で、今は、圭のファンでもあるらしい。
ファン代表が言う。
「お兄ちゃん、結婚するんだ? アイドルなのに、大丈夫なの?」
「事務所には、了解してもらったよ。正式に発表するのは、ツアーが終わってからだから、それまでは、誰にも内緒にね」
「わかってるけど」
どことなく不機嫌そうに見えるのは、気のせいか。
圭の母親とその夫は、特に、そんな娘をたしなめるでもなく、
「いい人に会えて、よかったね。おめでとう」と夫の方が言い、
「それにしても、……想太くん? ほんとに、圭の小さい頃にそっくりね。写真みせてもらったとき、似てるとは思ってたけど、ほんとに、実物はより一層似てるわ。……可愛い。抱っこさせて」と母親は、笑顔で言った。
想太を抱っこしながら、そのふわふわの髪をなでる。
「想太くん、なかよくしてね」
「うん」
想太が、満面の笑顔でうなずく。
その笑顔につられて、不機嫌そうだった圭の妹も笑顔に変わり、
「……ほんと可愛い。こっち来て。お姉ちゃんにも抱っこさせて」
とことこ歩いて自分のところに来る想太に、目を細めている。
「う~ん。柔らかくていい匂い。ちっちゃいこって、こんな美味しそうな匂いするんだね」
「……おまえ、まさか、食う気か? 想ちゃん、このお姉ちゃん、想ちゃんをおいしそうだって」
圭が、ふざけて言う。
一瞬、想太が困ったような顔になる。
それを見て、このみも吹き出し、みんなで大笑いになった。想太も一緒に笑って、このみにぎゅっと抱きつきながら言う。
「よかった……ほんとにたべない?」
「もう。食べないけど、チューしちゃう」
想太のほっぺにチューをして、このみが笑う。
どこか、圭と似た雰囲気を持つ彼女が、想太も好きになったらしい。
食事の間も、このみが、
「はい。あ~ん」と口に入れてくれるおかずを喜んで食べている。
このみの方は、餌付けしちゃう、と笑いながら、嬉しそうだ。
そして、佳也子に言う。
「私、お兄ちゃんのファン代表だから、すぐには、おめでとうって言えないかもだけど。でも、お兄ちゃんのこんな嬉しそうな姿見たら、反対なんて、する気が起きないよ」
「ありがとう」佳也子が言うと、
「あ、反対はしないけど、まだ大賛成とは言ってないからね」
このみの言葉は、一見きつそうにも響くけれど、親しみのこもった笑顔が佳也子をホッとさせてくれる。
(この子とは、なんだか仲良くなれそうな気がするな)
いつのまにか、人懐こい想太は、彼女を、名前で呼んでいる。
「このみちゃん、はい、あ~ん」
「あ~ん」
今度は、逆に想太が、このみを餌付け?している。
想太のつまんだおかずを口に入れてもらいながら、このみが言う。
「その呼び方、採用!」
「佳也子さんも、そう呼んでね」
「了解。このみちゃん」
佳也子の緊張は、すっかりどこかへ行ってしまった。なごやかな空気の中、食事は進んだ。
「また、いつでも、来てくださいね」
「いつでも、気軽に立ち寄ってください」
美里と卓也が口々に言い、このみは、
「来なくても、こっちから行くから!」と笑った。
「ありがとうございました。またぜひ、お会いしたいです」
「じゃあ、またくるよ」
「ありがとう。またくるね」
来たときとはちがう、温かな言葉と笑顔を交わしながら、佳也子たちは、帰途につく。
圭の運転する車の中で、佳也子はこのみからのメッセージを受け取った。
『お兄ちゃんをよろしく。ファン代表』
『ありがとう。その言葉、とても嬉しいです。』
佳也子も返す。
素敵な一日だった。
佳也子の心が温かくなる。
続けて、このみから、何枚も写真が送られてくる。
想太を抱っこしたこのみが、想太と2人でピースしている写真。そしていつのまに撮ったのか、圭と佳也子の2人が目を合わせて楽しそうに笑っている写真。家族みんなで撮った笑顔の写真。
どの写真にも笑顔がいっぱいだ。
「新しい家族が増えたよ。圭くん」
佳也子が声をかけると、圭がほほ笑んだ。
佳也子は思う。
圭に出会ってから、佳也子の周りに、どんどん新しい出会いが増えていく。そして、そのどれもが、佳也子を幸せな気分にしてくれる。
「圭くん」
運転する横顔に、斜め後ろから、佳也子は言う。
「会えてよかった。圭くんに出会ってから、私、どんどん世界が広がっていくみたい。……ありがとう」
圭の頬に、優しい笑みが浮かぶ。
「俺もだよ。家族で過ごして、あんなに笑ったの、初めてだったよ。ありがとう。……すごく嬉しかった」
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