第19話  エール

 最近、圭たちのグループの活躍がこれまで以上に、目立っているような気がするのは、気のせいか。もしかしたら、前以上に佳也子が気にかけているせいかもしれないけれど。


 雑誌などで見ていると、いつも、メンバーの誰かが、ドラマや映画に出演しているし、雑誌のコーナーに行くと、HSTのメンバーがグループ全員で、表紙を飾っている。圭も、爽やかな笑顔でポーズをつけている。


 いつ撮った写真なのかはわからないけれど、少し、ほっぺたの肉が落ちているような気もする。 忙しくて、大変なのかもしれないな。

 最近は、電話は少ない。たいていは、短いメールが届く。

 ライブツアーが終わって、ドラマの撮影が本格的に始まったらしい。


(どうしてるのかなあ)と思っていたら、その夜遅くに、圭からのメールが届いた。


『撮影で、名古屋に来ています。

前に話してたこと、結構いい感じに

実現してる』


『ほんと? 撮影は、楽しい?』


『めっちゃ楽しい。地方ロケとかも多いから、移動とかけっこう大変なんだけど、その土地の名物もいっぱい食べられるし』


「忙しいのに、そんな時間とれるん?」


『それがさ、ドラマの中で、グルメの食べ歩きシーンとかもあるんだよ~。いいでしょ』


『そっか~。ラッキーですね。

じゃあ、ピアノに謎解きにグルメに、

めっちゃ見どころいっぱいのドラマになりますね』


『そうそう』


『ピアノ演奏、慣れました?』


『うん。技術的にはまだまだ。でもね、

はじめのうちは、ピアノ弾くシーン、

かなりドキドキして不安いっぱいだった。

でも、今は、さあ、弾くぞ~嬉しいって、

なんかすごく幸せな気持ちが湧いてきて、

知らないうちに、顔が笑ってたりする』


『そうなんやあ。いいね』


『うん。やから、忙しいけど、めっちゃ楽しい。あ、ちょっと待って。今一瞬だけ、電話していい?』


『もちろん』


 すぐに電話が鳴る。

「もしもし、あ~やっと久しぶりに声聞けた。時間遅いから、ちょこっとメールだけってつもりだったんだけど。元気? 想ちゃんも先生も元気?」

「みんな、元気ですよ~。圭くんこそ、ちょっと痩せてませんか」

「え? なんで?」

「雑誌の表紙で、少しほっぺのお肉が落ちてたような……」

「あ~。そうか。あれか。あのときは、ツアーの合間だったから、確かにちょっと痩せてたかも。でも今ね、美味しいもんばっか食べてるから、逆にちょっと太ったかも」

「じゃあ、ドラマ見てチェックしましょう。楽しみ」

「へへ。よろしく。想ちゃんと英子先生にもよろしくね」

「了解です。じゃ」

「おやすみなさい」「おやすみなさい」

 そう言った二人の声が重なる。


 少しして、モフモフしたヒヨコが『おやすみなさい』とお布団にもぐりこむイラストが届く。 佳也子も同じヒヨコを返す。


 久しぶりに声が聞けた。

 ほっと穏やかな気持ちになる。


 ピアノに向かう圭の嬉しそうな笑顔が浮かぶ。

 きっと、とても素敵な音を出してるんだろうな。


 圭は圭の場所で、

 佳也子は佳也子の場所で。


『がんばれ』という代わりに、

佳也子は、圭に、

『応援してるよ』

心の中でエールを送る。




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