おかえり
ネオ元帥
おかえり
ワイワイガヤガヤ
祥「………。」
ワイワイガヤガヤ
祥「……。」
ワイワイガヤガヤ
ハァ…。高校つまんねーなぁ…。何か刺激的なことは無いかなぁ。それこそ、美少女が転校してくるとか。まぁそんなラブコメみたいな話、あるわけn…。
先生「はい、じゃあHR始めるぞー。まずその前に転校生を紹介する。」
ワイワイガヤガヤ
マジかよ。まぁ流石に来るのが女で、更に美少女である確率なんてたかが知れてる。来るわけないか…。
先生「それじゃあ紹介する。じゃあ、来てくれ。」
その女を見た瞬間、俺の頭に電撃が走った。
少女「はじめまして。神上京です。A高校から来ました。よろしくお願いします」
ロングの髪にモデル顔負けのスタイル、幼さもありながらも大人のような美しさも兼ね備えた顔。そして極め付けは宝塚にいそうな鋭く冷たい目つき。女優に居てもおかしくないくらいの容姿で、俺は初めて一目惚れというものをした。
ザワザワ
A高校って言ったら都内でもトップクラスの高校じゃん。
なんでこんな片田舎の普通高校に来たんだ…?
親の転勤とかじゃね?
クラスから小言が溢れ出す。
京「…」
無言で俺の方を睨む。
祥「…!?」
鋭い眼光が俺に向いた。俺は石像のように固まった。
それにつられてか、クラス全員の視線が俺に向く。
ザワザワ
あいつ何かしたのか?
さぁ。でもあいつボッチで目つきも悪いし一目惚れするような容姿では無いからたまたま目が合っただけだろ。
また小言が湧く。
先生「それじゃ席は…、祥の隣で良いか?」
えぇ…。複雑だなぁ。可愛いしスタイル良いけど、睨まれたから絶対俺のこと嫌ってるんだろうな…。
京「こんにちは」
祥「こ,こんにちは…」
京「これから宜しくね!」
敵意剥き出しの目はなくなり戸惑った。先程のはなんだったんだろう…。
祥「はぁ…」
なんだかなぁ。これからどうなるのだろうか…。
先生「それじゃあH Rを始める」
京「…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
放課後
祥「やっと学校終わった〜」
京「祥くん、一緒に帰ろ?私、最近引っ越してきたばかりでこの辺のこと、全く知らないの。よかったらこの辺の案内してくれない?」
ラブコメでよくある転校生を案内する展開じゃん…。あれ、この子ひょっとして俺のこと…、イヤイヤ、それはない。
この年頃の男とは案外単純で、ちょっと話したりしただけで自分に脈があるのではないかと考えてしまう。
それから俺は近くの場所、といってもこれと言っても観光スポットや大型店舗が無く、コンビニが数軒と小さな電気屋、パチンコ屋と言ったなんとも殺風景な地域だったので案内はあっという間に終わった。
京「結構歩いたね。この近くの公園あるけどそこで休憩しようよ」
あれ…?ここら辺のこと知らないんじゃなかったんだよな?でもなんで公園のことは知ってるんだ?
祥「う,うん…」
俺は少々疑問に思いながらも返事をした。
その公園は俺が昔からよく遊んでいた場所で小学生の頃は放課後毎日友達と遊んだり、春には家族と花見をしたり、落ち込んだ時はこの公演のブランコに座って感傷に浸りながら音楽を聴いたりと、思い出を語ると晩飯の時間になってしまう。
季節はもう春が終わり、じめじめした梅雨本番。夏が近づいている。なので、割と日の入りは遅い。時間ももう6時だと言うのに外はまだ明るい。
京「この公園、昔来たことがあるんだよね」
彼女は唐突に語った。
京「お父さんとお母さんと、3人で花見しに行ったんだ。ずっと前だけどね」
祥「うちの家族と一緒だね」
意外な過去に俺は驚いた。桜の名所など世の中には腐るほどある。まして、この公園の桜はお世辞にもそれらに匹敵すらしない。何故此処に来たことがあるのか疑問に思った。
京「良い場所だよね。ここは私の思い出の場所なの。私と家族の…」
と言うと彼女はそれ以降しばらく口を開かなかった。
家族と何かあったのだろうか?そう思ったが、今日知り合ったばかりの人に家庭の事情を聞いてどうすると言う結論に至り、ここは口を噤んだ。
数分の後、彼女はようやく口を開いて表情が明るくなって開口一番
京「ねえ、君のこと、知りたいな。君のこれまでを教えてよ!」
これまた唐突な質問に多少戸惑ったが俺はこれまでの人生を淡々と話した。
台風の時期に産まれたこと、幼稚園の頃は毎日虫取りに遊具遊びに没頭していたこと、小学校では沢山の友達がいて,休み時間や放課後なんかにはここで毎日のように遊んでいたこと、中学で部活の野球やって、毎日楽しく充実した日々を過ごしていたが、ろくに勉強しなかったので高校受験に失敗して今の高校にいること、大学受験はそんな悔しい思いをしたくなかったので塾に通っていること、それでも成績が悪く、迷走していること、7歳上の兄がいること、その兄が天才で,研究員として活躍していることなど、洗いざらい話した。後半は身内の話になったが。
話終わる頃には周りは暗くなっていた。
京「ありがとう。なかなか面白かったよ」
淡々とした口調だった。周りが暗くてどんな表情だったのかは見えなかったが多分笑ってはいなかったと思う。
祥「ごめんね。あんまり面白みのない話で…」
京「そんなことないよ!まぁたしかに強烈に印象に残るようなところは無かったけど…」
祥「じゃ,じゃあ京さんの話も…聞かせてくれないかな?」
俺は勇気を振り絞って言ってみた。
京「んーー。良いけどまた今度ね。今日はもう暗いし、これ以上ここに居ると…」
何故か言葉が詰まる京。
京「いや,君の家族も心配するし、今日は解散しよ!」
半ば強引だったがまぁ時間も時間なだけあるし、その場で解散した。時刻は7時半を過ぎていた。帰宅後、本来は塾の授業があった日なのだがサボったこと、受験生なのに塾をサボると言う意識の低さについて親からとやかく言われた。ただでさえバカなのに高い金払って塾に行かせてもらっている親には申し訳ないとは思っている。思っているだけであって行動はしない。昔からそうだ。
祥「あーあ。1日無駄にした…。いやでも可愛い子と仲良くなったんだから良いか。明日も話してくれるかな…?」
俺は今日の興奮と明日からの彼女との日々を想像してなかなか寝付けなかった。
次の日
京「おはよう!祥君」
祥「お,おはよう神上さん」
初見でかなり睨み、睨まれる間柄だったが、もうすっかり仲良くなっていた。
京「昨日はありがとう。この町のことはあの公園以外知らなかったから、その周りの場所を知れて良かった」
祥「いえいえこちらこそ気分転換になって良かったよ。あ、そう言えば昨日言ってた…」
京「そのことなんだけど、今日、放課後にうちに来てほしいの…」
急に大声で言ったのでクラスメイトが昨日同様に俺に視線を集めた。
ザワザワ
あの二人、もうそんな関係になったのか?
早くねw?
あんな奴のどこが良いんだろ。
まぁそうなりますよねぇ…。とは思ったが、そんな軽い女には見えないな。こりゃ何か裏がありそうだ。
祥「分かった。特に予定もないし、行くよ…」
京「ほんと…?やった。じゃあまた放課後にね!」
その日の授業は放課後彼女の家で起こりそうなことを想像して全く集中出来なかった。
祥「いや,まさかねぇ…」
流石にそこまでは行かないだろうとは思っている。
キーン コーン カーン コーン
ようやく終礼も終わって其々が帰路につく時間となった。
京「祥君一緒に帰ろ!」
相変わらず俺に対してはフレンドリーな京。
他のクラスメイトには普通に接している。特別なのは俺だけのようだ。昔から他人から特別扱いされたことのない俺にとって、これは嬉しいことだ。親も愛してくれないわけではないが、優秀な兄の方ばかりを特別扱いしていて俺にはあんまりって所だった…。
そんなことを考えながら彼女の家を彼女と目指していると俺の家と100メートルも離れてないアパートであることが判明した。
京「近所だね!実は知ってたんだー。祥君の家。君を驚かせたかったから黙ってた」
これはもう側から見たらのカップルの会話だ。
俺は戸惑いながらも小さく頷いた。
それを見て彼女は明るい表情のままバックから家の鍵を出し、家を開けた。
京「さあ、どうぞ。少し散らかってるけど…」
祥「お邪魔します」
女子の家など初めてで多少戸惑ってはいたものの、それと同時にある違和感を感じた。親がいない。勿論共働きとかで家に居ないというのは考えられる。今では日本の共働き世代は約6割以上にも上ると言われてるくらいだからなんら不思議はないのだが、明らかにおかしい。
祥「あの…失礼ながらご両親は…?」
その質問をした途端、先程の明るい表情から一変して、転入当日の目になって俺を睨み、表情も暗くなっていた。
京「そうだね。そのことも含めて今から話すよ。昨日言わなかった事を。でもその前に、私の部屋に入ってよ!」
祥「え!?いいの…?いやだって普通女子の部屋に男子を入れるのって…」
この時かなり焦った。同年代の女の子の部屋など人生で一度たりとも入ったことがなかったからだ。一生縁のない場所だとすら思った。
京「そんな昔のような価値観もってたんだ〜。でも、信頼してるから大丈夫。気にしないよ?」
少しだけ明るくなった気がした。
そして彼女の部屋に入った。入ってみると、よく漫画やアニメであるようなヒロインの部屋と言うよりは勉強机と本棚と椅子、シングルベットと家族写真?の入った写真立てというかなりシンプルな部屋だった。
京「それじゃあそこのベットにでも座ってて。お茶でも注いでくるから」
お言葉に甘えて、ベットに座っていた。彼女が部屋から出て俺は違和感の正体を探るべく部屋を少し物色してみた。すぐに気づいた。この部屋、この家自体、親が生活した形跡がない。部屋はともかく家にも親の靴も、服を入れる箪笥もなく食器棚にも一人分くらいの食器しか無かった。そして極め付けは家族写真だ。両親と小学校低学年だろうか?の3人が笑顔で映る写真…だと思ったが、父親の顔が無かった。ここで言う無かったはカオナシとかそう言うものではなく、のっぺらぼうの無かったではない。カッターか何かで切り取られていた。そこでこの家庭の事情をなんとなく察してしまった。
足音がする。俺はすぐにベットに座ってバックから本を取り出して読んでいた。
京「お待たせ。コーヒーしかなかったけど良いかな?」
祥「良いよ。俺、コーヒーは好きだし」
京「やっぱり変わらないね…」
祥「え?」
京「いや、何でもないから!」
なんとなく今の言葉が引っかかる。まぁいい。
コーヒーを飲みながら少し今の学校生活についてだったりを前の学校だったりを話した後、彼女から
京「そろそろ本題に移ろうと思うの。今から言うのは、誰にも言わないで欲しいし、かなり重い話だから聞きたくなければここで言って?」
真剣な表情になる京。相当大切な話なのだろうと思い聞かないのも手だとは思ったが、ここまで誘ってくれておいて聞かないのも夢見心地が悪い。
祥「どんな話でも聞くよ。それに俺には友達という友達はいないから誰にも話さないよ」
京「ありがとう。じゃあ話すね。実は私、親から虐待されてたの…」
京「わたし、親から虐待されてたの」
虐待、俺はようやく納得が行った気がした。そりゃこんな家になるわな。写真から見るに、主犯は父親で間違えないだろう。
京「君も分かると思うけど、主犯は父。ほんと、あの人は…あいつだけは許せない。あいつがいたから母さんは…」
彼女は半泣きになりながらそう言った。俺はどうすることもできない…。
京「まずは両親についてだね。両親は大学生の頃に同じ学部で講義の時たまたま隣になって話していくうちに仲良くなって4年間付き合い、大学卒業後に父の就職が決まりその後プロポーズをしてトントン拍子で結婚した。父は昔はとても優しくて真面目だったけど、なんでも一人で抱え込んでしまうような人だった。一方で母はとても明るく活発でクラスの中心にいるようなみんなから好かれる人だった。顔もとても美人で学生時代はよくモテたらしいけど、父が初恋だったとか。父も顔はそこそこ良く身長も高かったけど目つきが鋭くてそれがネックで付き合った人は母だけだったとか。タイプの違う2人だったからなのか、結婚してからずっと夫婦円満で近所でも有名なおしどり夫婦だったんだと。結婚して4年後、私が産まれた。京って名前は数字の単位の京から来てて、全世界、全宇宙から愛される人になって欲しいっていうなんとも暑苦しいような意味なんだよね笑笑。母が付けたんだけど父も快諾して京ってなったの。物心ついた時には毎年春に、父の実家の近くにあるあの公園で3人で花見に行ってたの。ほんと、あの頃は幸せだったなぁ…。両親の仲も良好だったし、2人の愛情をたっぷり受けて育てられたし…。でも事件は起きた。ある日、父は会社をクビになったの。理由は同僚に裏切られてしまったとかで…。詳しくはよく分からない。で、それから父は変わってしまった。人間不信になってしまい、朝からコーヒーを飲んでいたけどそれがお酒に変わり、アルコールに溺れて初めは母へ罵倒と暴言だったが次第に悪化していき物を投げたり殴る蹴るの暴力になっていった。それでも母は父に対して優しく接していた。収入がなかったのでパートにも出ていた。だがそれがダメだったのかも知れない。その事が余計に父の自尊心を傷つけ余計に荒れてしまった。ある日、当時小学校6年生の私にも手をあげてしまった…。ただでさえ母を毎日のように殴る蹴る罵声を浴びせると散々で怖かったのに遂に自分にまで来てしまって本気で怖かった。周りに逃げるような場所もなく日々、怯えながら生きていた。母は私に手をあげる父をなんとか止めようとしたが、男女の力の差は大きい。簡単に振り払われ2人とも殴られる。地獄のような日々だった。それから少しして母は自殺した。遺書には、私への謝罪の言葉とどうか父を責めないであげてほしいという内容だった。どこまで甘いんだこの母は…と思ってた。葬式には父母の親族だけで行われた。勿論父は欠席で。あれほど母は父を愛していたのに。もうこの頃になると父への怒りは限界を超えていた。殺してやる何回思ったことか。寝込みを包丁で滅多刺しにして襲ってやろうと何回も計画したがいざ実行してあとは刺すだけどなると脳裏に優しかった頃の父を思い出してどうしても実現には至らなかったの…」
ここらで俺は何を言えば良いのか分からないままただ一言
祥「大変だったんだね…。ごめん。こんな言葉しかかけられなくて…」
京「いいの。誰も悪くないんだ。裏切った同僚の人も実は裏切らなければ会社自体が倒産してしまってたかも知れないって聞いた。それを知っていればとは思ったけど…。でも過ぎたことは仕方ないよね」
苦笑いをしている彼女の目は死んでいた。
祥「こんなこと聞いていいのか分からないけど聞かせてほしい。お父様はどうなったの?」
京「父は…あのあと更に悪化して何度も警察沙汰になった。私を施設に入れようと言う話にもなったが結局は父の兄が保護する形で幕を下ろした。その後、父も病死した。死因は末期癌だったそうだ。そりゃ、私もご飯は不栄養なものばかりを渡していたし、お酒も言われた通り渡してた。早く死んでくれと思いながら…。
やっと死んでくれて私は心底喜んだの。でも死ぬ直前に書いたであろう遺書が見つかったの。そこにはこんなことが書いてあった」
京へ
俺はもう死ぬ。お前にとっても母さんを殺したも同然の俺が死ぬのは良いことだろう。俺が酒を飲んでいたのは病気になって苦しみながら死にたかったからだ。でも母さんはなんとか俺を更生させようと頑張った。それが無理だったとして次はパートに出てしまった。養ってやろうって策か。正直呆れた。こんなクズで無能で最低な旦那を何故捨てないのか?と。ほんと、どこまでお人好しで優しくて世話焼きで俺を愛してくれるんだか…。でも俺はその行動を素直に受け入れられず、逆に俺を惨めにしないでほしいと言うことで余計キツく、暴力もたくさんした。京、お前にも何回も手をあげた。父親として、いや、人間として最低な人だった。許さなくていい。いや,許されてはいけないんだ。だから俺は死のうとした。でも先に母が逝ってしまった。そこからはもう何もかもどうでも良くなってしまった。ひたすらに酒と暴力で人として終わっていたと思う。いや、とっくの前から俺は人ではない何か別の生物になってたのだ。そんなある日俺が寝ている時にお前は包丁を持って俺の部屋へ入ったな。思い詰めてた顔をしていた。やっと、殺してくれる…でもお前は俺を殺してくれなかった…。こんな人間にお前ら母娘はまだ見逃そうとするのか?俺は絶縁していた兄に頼んでお前を預けた。これ以上ここにいて貰っては俺はもう俺でなくなる。お前が兄の家に行ってやっと俺はこれまでの人生を向き直す時間ができた。余命半年という期限つきだが。その期限も前にお迎えがきそうだ。俺はもう2週間ほど水だけの生活をしている。飯を買う金も外へ出る気もない。このまま病気に苦しみ飢えに苦しみ死ぬだろう。最後に俺から京へ最後の、父親としてではなく、1人の死にかけのクズ男の頼みを聞いてほしい。兄はタイムマシンの研究をしている。どうかそれが完成したら過去に行って母さんと出会わない運命にしてほしい。
いっそ殺してほしい。この世界で俺は母さんを幸せにできなかったのだから…プロポーズで君を幸せにすると言っておいて俺は何もできなかった。母さんを俺から解放してほしい。頼む…。お前もこんな人間が親なのは嫌だろ?だからどうか。頼む…。そもそもお前は…。これはまぁ兄さんから聞けることだろう。頼んだぞ。
ここで遺書は終わっていた。いつのまにか俺は泣いていた。
京「ごめんね。結構重い話でしょ笑笑」
俺は今までにないくらい大号泣していた。彼女の境遇に対しての同情だけではない。平凡な人生しか送ってなかった自分は幸せだったと再確認してしまった自分に対しての怒り。この感情をどこに当てればいいか分からなくなった。分からなくなって…爆発してしまった。
祥「俺が…俺が守るよ…。君を。君には幸せになってほしい。なんでも言ってくれ。俺ができることならなんでもする」
我ながら柄じゃない事を口に出していた。だが本心であったことに間違いはない。
京「優しいのね。でも良いの。こうやって聞いてくれただけでも…。じゃあ、お願いってほどでも無いんだけど晩御飯作るから一緒に食べてくれない?」
俺は今日も塾をサボって来ていたがまぁ今日も仕方ないってことでお言葉に甘えて晩飯を食べて帰った。帰路の途中、色々なことが脳裏をよぎった。食事中の彼女は至って普通で特に変わりなかった。帰る時もまた明日ね!って送ってくれた。これからどう接すればいいのか悩んだ。
次の日
昨日もまた塾をサボったことに対して親からの檄が飛んだ。いつものように流したが、はっきり言って俺の成績は悪い。志望校は一丁前に難関国立大学を志望している。しかし志望しているだけであって行動はしていない。塾もただ行って授業を聞くだけで終わればすぐ帰る。自習なんてやったことすらない。もう半分くらい勉強は諦めていた。どうせ俺には良いところなんて何一つないし、努力したって昔の部活みたいに結果は出ないんだから…。そういう思考なのだ。
京「あ!祥くんおはよう!」
昨日のことが嘘のように今日は一際明るくなった京が話しかけて来た。
祥「おはよう」
もうすっかり慣れていた。それからは特に会話という会話もなく1日が終わるのだが、放課後、流石に3日連続休むのはまずいと思い終礼と同時に教室を出て塾へ行った。
幸い、塾では2日間の無断欠席についてのお咎めはなかった。そのかわり話すらしてくれないという対応をされた。先生方も諦めたらしい。俺のやる気のなさに…。
その日の帰路、自分の生き方を見直し、自分がいかにどうしようもない人間で人生に絶望してしまいこのまま橋から身を投げて死んでしまおうとすら考えるほど追い込まれていた。結局思いとどまって家へ帰った。ここまでがテンプレ。いつものことだ。
家では兄が久しぶりに帰っていた。研究が忙しいとかで滅多に帰ってこないのだが。
兄「よう!祥。元気か?」
祥「まぁね。兄さんこそ、研究の進捗はどう?」
兄「あー。ちょっと機密事項だから詳しくは言えないんだよな…」
祥「何?そんなにやばい研究なの?」
兄「国からの要請でね。たとえ家族であっても話しちゃダメなんだと。だから悪りぃな」
兄はいつもこんな感じでとてもフランクな感じで俺に対しても優しい。
兄「お前ももう受験生かぁ。どこいくんだ?」
祥「〇〇大学の法学部って所かな。今の成績じゃダメだけど…。」
兄「あー良いなあの大学。立地もいいし雰囲気もいいしお前にはピッタリだ。成績もこれから上げていけ!お前は俺の弟なんだからやればできるんだ。頑張れよ。どうせなら俺が教えてやろうか?」
祥「大丈夫だよ。兄さんも研究頑張ってね!」
兄と別れ自部屋に戻った俺はバックを壁に投げふて寝をした。兄のことを俺は心底嫌っていた。昔から勉強も運動もなんでもできる人気者の兄に対して内気で無口で目つきの悪い俺はほんとに兄弟?って沢山の人から言われた。もちろん兄はそういうことを言う輩に「俺の弟をバカにするな。こいつにだっていいところはある」と反論してくれてはいた。でも親は俺より兄さんに愛情をたっぷり注いでいた。俺は蚊帳の外で心の底で兄さえいなければ俺はこんなに惨めな思いをしないでいいに…。って思った。
高校に入った頃兄は大学進学のためにここを離れて名門大学に入った。ようやく兄が消えたと思ったら親は成績の悪い俺を可愛がるはずもなく事あるごとに兄と俺を比較しては嫌味を言っていた。この頃になると俺はもうどうでも良くなってた。どうせ何も変わらない。結局俺は兄の下位互換、いや、それ以下であったと…。それから高校生活はまるで中身のないつまらない生活だった。高校も普通のところを受けて行っていた。申し訳程度に塾には行っていたが特に上りはしなかった。
気づけば朝日が出ていた。どうやら考えているうちに寝落ちをしちいたらしい。制服のまま寝てしまっていた。
時間はまだ余裕があるが今日は早く家から離れたい気分で朝飯も食わず家を出た。教室に着くと俺は驚いた。京が1人黙々と勉強していたのだ。
京「あ、おはよう。今日は早いね。どうしたの?勉強にでも目覚めちゃった?」
祥「ご冗談を。俺にはそんな気はないよ」
京「ふーん。でも君が受けたい大学、結構難しいじゃん」
毎年東大京大を大量に輩出している高校から転入している貴方からしたらその程度は余裕だろと言いたかったがここは口を継ぐんだ。もしかしたら彼女は勉強に着いてけなくてこっちに来たのかもしれないし。
祥「あのぉ、京さんは高校で大体何番くらいだったの?」
京「えーっと、大体一桁だったかな。あーでも2回くらい十番台になっちゃったけど」
前言撤回。彼女は天才だった。謎は深まるばかり。
京「ねぇ。わたしもそのだいがくにいきたいの。だから、これから毎日私と勉強しない?」
祥「え?いいの?」
京「うん。1人より2人の方が捗るタイプだから」
祥「邪魔にならない?」
京「邪魔になんてなるもんか。むしろ大歓迎だよ」
祥「じゃぁ、お言葉に甘えて…」
その日から2人は真面目に勉強を始めた。まぁ彼女にとっては勉強なんてお遊び程度なのだろうが。そこからまた2人の日常が始まる。
あれから2ヶ月ほど経った。勉強付けの夏休みも終わりかけになっていた。俺たちは毎日学校の図書室か市立図書館に行って塾の授業が始まる前まで勉強をして、授業が終わったら京の家に行き、そこでも勉強をすると言う日々を過ごした。さすが名門高校の上位なだけあって、その実力は伊達ではなく、俺が手も足も出ないような問題も難なく解いてしまう。そして教え方がとても上手だ。多分塾の先生よりも教え方が上手い。頭が良いから教え方が良いのか、教え方が良いから頭が良いのか。鶏が先か、卵が先かと似てる気もするな。まぁどうでもいい。とにかくそのおかげで塾の模試で成績が上がり、判定もC寄りのDになった。京はと言うと、余裕でA判定。でしょうねとは思う。今は京の家で世界史の勉強をしている
京「そういえば、世界史っていろんな嘘かほんとかわからない、いわば都市伝説みたいな話がたくさんあって面白いんだよね。
例えば20世紀初期の写真に現代人のような格好をした人が写ってたり、大昔に現代のものがあったり、タイムトラベルって本当にあるんじゃないかなって思ってワクワクするの。祥君はどう?」
そんなことを考えながら勉強したことはなかった。余裕がなければそんな考えには至らない。
祥「そうだね…。面白いとは思うけど、殆どが捏造なんじゃないかなって見てる。今の技術だと、いくらでも写真を合成できるし、それっぽい模型を作ることだって可能かと…」
京「えーロマンがないなぁ祥は〜。未来では可能かもしれないのに…」
もう京は最近ではこんなフランクな口調で話すようになっていた。そしていつの間にか呼び捨てにもなっていてなんだかこそばゆい。
京「あ,そういえば未来で思い出した。祥って将来何になりたいの?」
突然の質問に戸惑った。別に夢がないわけではない。将来は安定を目指して公務員を希望していた。しかし、特別な能力のある京に夢を聞かれてあまりに平凡な答えを返したくない、なんともつまらないプライドが口を塞いだ。
少しの沈黙ののち、
祥「んー。まだ決めてない。でも家族とかは欲しいかな。みんなが笑って過ごせる家庭を築きたいな」
また柄でもないことを言った。でもこれも本音だ。俺の家庭は偽りの愛でできていてる。片方は優遇され、劣等種には人権無し。彼女ほどの家庭と比べたら生ぬるいどころの話ではないが、どこか足りないと感じていた。だからもし結婚して子供ができたらそんな思いをしないような家にしたい。それが夢だ。
京「へぇー…」
京は少しだけ顔をしかめたが、またすぐに戻って
京「見つかると良いね。良い人が」
そこから少し気まずかった。別に付き合っていたわけでもないのになんともいえない気持ちになった。気づけば時刻はもう夜の10時を回っていた。
祥「じゃぁ時間だから帰るね。また明日!」
京「じゃあね」
今日も暗い夜道を歩く。家まで100メートルしかないというのにやけに長く感じる。何故だろうか?思春期特有の謎の思考が発生する。考えるだけ無駄なのに…。
それからも夏休みが終わって二学期が始まり文化祭が終わってクリスマスも終わる。受験生にとってクリスマスは何それ美味しいの?ってなる。てか元々クリスマスなんてケーキ食って終わる日って思いながら生きていた。
あっという間に新年が明けた。年末に行われた最後の塾の模試ではなんとA判定になっていた。もうワンランク上も目指そうかとも思ったが、今更変えるのも柄ではないのでそのままにした。
初詣は京と2人で近くの神社に行った。おみくじは俺が中吉で京は大吉。まぁこれといった事もなくただただその後も勉強を続けた。
そういえば言い忘れていたが、彼女は父の兄に預けられていたのだが、その兄は研究機関で働いているらしく家には全く帰らない。なんなら引っ越ししていこう一度も会っていないとのこと。しかし、金だけはあるらしく毎月20万ほど生活費を送られてくるとのこと。なので普通に生きていけるらしい。どんな人なのかと聞いたら、普通の人だと言う。彼女にとっての普通は俺にとっては異常なのだろう。いつか会って見たい。
時はさらに経ち、俺たちは共通テストを受けた。志望校のボーダーラインを余裕で超えて、二次試験も難なく解けて、2人とも合格が決まった。
京「やったね!祥。これで私たち大学生だね!」
祥「そうだね…。やっと勉強から解放されて」
京「ちゃんとやるんだよ?」
祥「はい…。圧がすごいなぁ。まぁせっかく行けたんだし、ここでも色々学んで将来の夢でも探そうかな」
京「よろしい、精進しなさい!」
大学生になってからも特にかわったことはない。唯一変わったのは住む場所。県外なので一人暮らしを始めた。なお、隣には京が住んでいる。この頃から俺は京に対して意識し始めていた。前までは雲の上のような存在で自分には釣り合わないって思っていたが関わるにつれて自信が出てきて今では対等な人間として見れている。入学して数回目の講義があった。京は用事があるらしく今日は1人だった。
??「あの…隣良いですか?」
祥「あ、どうぞ」
俺はその人の顔を見て衝撃を受けた。うる覚えではあったが京の母の顔は覚えていた。その人と全く同じ顔なのだ。
両「私、神上両と言います。貴方は…」
祥「俺は上城祥って言います」
両「かみ違いですねw」
祥「そうですねw」
苗字が彼女と同じ…。
両「何処からいらしたんですか?」
祥「えっと…ーーーーー」
そのあとはお互いの出身地や趣味などを話したのち、講義が終わってからも食堂でともに過ごし連絡先も交換して別れたとても明るい人だ。まるで…。
ここで疑惑から確信に変わった。
その日の夜、俺は京の家に行き、いつも通り談笑をしたのちにこう言った。
祥「君は未来から来たんだね?」
京「…」
祥「もう一度言う。君は、未来から来たんだね?」
京「うん…。そうだよ祥。いや、お父さん」
予想していたとはいえ、実際言われるとかなり驚く。
京「いつから分かったの?」
祥「疑問を持ったのは初対面の時から。あの時期に転校してる時点で訳ありなんだろう。で、その人が俺に絡んできて脈アリとかそう言うものではないのだろうと思っていた。家庭環境を伝えたり、時折未来とかタイムトラベルとかの話をしてるので、変だなと思ってた。確信に変わったのは今日だ。君の母さん。神上両を見た時だ。前、君の部屋にあった家族写真の時の顔と変わらなかったのでこの人で間違いないって思った。まず親戚だったとしたら入学当初に挨拶くらいはあるはず。でもそれがない。つまり本人。じゃぁ京は?未来の人って考えられる」
語彙力皆無の考察を淡々と話した。
京「正解。じゃあ、どうやって来たか分かる?」
祥「それまではわからない」
京「じゃあ理由は?」
祥「…俺を殺すため?恨みを晴らすため…?」
京「半分正解で半分間違い。どうやって来たかも含めて話そう。
まず、私は貴方のお兄さんから引き取られたと言ったけど、あの後お兄さんから色々なことを教えてもらった。特に勉強は楽しいもので無駄なことが全くない素晴らしい物だった。そのまま中学受験で前の高校の中等部に入ってずっと楽しく勉強してたわ。友達も沢山できたし、部活にも入って毎日が充実していた…。でも、一つだけ足りないものがあったの。愛情よ。引き取ってくれたとはいえ、伯父さんも研究機関で働いているので前のようには構ってくれなくなった。友達の家に泊まると言うほどの関係性のある人も居なかった。広く浅い関係ばかりだったのだと、今なら思う。誰からの愛も受けずに生活していると、だんだん孤独感に苛まれて死にたくなる。学校が嫌になったことはないが、この世の中が嫌になり、高校2年のある日、私は自殺を試みた。母さんと同じ、飛び降り自殺を。だけど私は高所恐怖症でアパートの3階まで行くのがやっとだった。そこから身を投げ、運良く両足の骨折で済んだ。伯父さんからはこっぴどく叱られたけど、今まで思っていたことを全部吐き出すと、伯父さんは黙り込み、部屋から出て行った。
数ヶ月後、退院して病院を後にした。学校も今までの貯金があり進級も余裕だった。その週の土曜日、何の予定も無かったので、伯父に誘われ生まれてはじめてドライブに同行した。ついた場所は昔、両親と3人で花見をした場所だった。皮肉にも、その日は桜満開で花見日和だった」
伯父「京、お前に言わなければならないことがある」
伯父さんはいつにもなく重い口調でそう言った
京「良いよ。どんな話でも私、驚かないから…」
伯父さんは心なしかとても悲しい表情を見せた。
伯父「お前がこうなったのは俺の責任だ。京…。実はお前の父はあいつじゃない。俺なんだ…。
私は絶句した。何故伯父が?意味がわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。わからないと言う単語で頭がいっぱいだった。
京「ど、どういうこと…?」
伯父「あの2人が新婚だった頃、俺の職場の近くに住んでたんで、よく飯を食べに来てた。でも、弟は仕事が忙しくて真夜中とかに帰るのが多かった。ある日、お前の母さんと酒を飲んでる時、酔った勢いでそのまま………。その一回だけだった。俺は罪悪感からもうお前ら家族に近づかないと両さんに告げて、それ以降は行かなかった。でも…彼女が孕んだのはあいつじゃなくて俺の方だった…。それからはお察しだ。お前が産まれて数年後、2人で真実を告げた。そしたら弟は…。弟はあぁなった。会社の人間が裏切ったんじゃない。誰より信頼するべき家族に裏切られたんだ。俺が、お前ら家族をめちゃくちゃにしたんだ。俺は、俺は、俺は…」
伯父は泣き崩れ、見事な土下座を作った。私は無我夢中で伯父を蹴り、罵倒し、殴り…。それはまるで昔の父のように、否。育ての父のように…。
京「貴方がいなければ…家族はあんなにめちゃくちゃにならなかった」
恐ろしく冷静な声で言った私。
伯父「だから、一つだけ提案がある…」
このタイミングで弁解でもしようとしているのかこの男は?と、心底軽蔑したが、提案は意外なものであった。
伯父「俺は、国の研究機関で極秘に開発されているタイムマシンを作っている。いや、作った。嘘だと思うなら、来てくれ」
半信半疑ながらもついていった。
予想通り大きな研究所だ。今日は定休日で警備の人以外いないとのこと。
入る時は知り合いに社会見学させに来たと言ったところ警備員は
快諾して笑顔で見送ってくれた。
着いた。ここがタイムマシンの場所のようだ。
叔父「これが、俺の人生の半分をかけて作ったタイムマシンだ」
タイムマシン。ドラえもんに出てくるようなマント状のものではなく、小さな個室。もしもボックスみたいな感じだった。
伯父「言いたいことは、分かるだろ?」
京「うん…」
伯父「過去に戻って、弟を幸せに導いてやってほしい。本来なら俺がいくべきなのだろうが、生憎、ここの責任者として全てを見届けたい。最後まで最低な父、いや、伯父ですまない。いっそ、過去に戻って俺を殺してしまっても構わない。俺はそれくらいの大罪を犯したのだから…」
京「いいの。伯父さんは伯父さんでこの十数年苦しんだんでしょ?許しはしないけど、これ以上責めもしない。だから殺さない。でも,昔のお父さん、どんな人だったんだろ…」
叔父「あいつは良くも悪くも寡黙で静かなやつだった…。俺のせいで両親にもろくに相手してもらえず、友達からも馬鹿にされていた。大学受験は俺が教えてやって〇〇大学に合格するんだが、それ以降は結婚するまで音信不通。多分、俺のこと嫌ってたんだろうな…。まぁそれはともかく、今から行くんだろ?なら過去の俺にこの手紙を渡しといてくれ。これを見せれば過去の俺がなんとか養ってくれる。それから昔の俺は女に興味がなかったから同棲なんてしないぞ。だから問題ない」
京「わかった。じゃあ行ってくる。お父さんの遺書の頼みを実行してくる」
伯父からもらった手紙を持って腹括ってその個室に入った。伯父がスイッチを押す。写真を撮る時のような光が輝いた後、気づけば私は電話ボックスというものの中に座っていた。
ここは、父が私と同じ高校3年の頃の時代のようだ。
過去に着いた私は早速昔の伯父の元へ向かった。さっきの研究所の前で何やらおにぎりを貪っていた。
京「あの…、これをどうぞ…」
伯父「ん?」
伯父はなんの躊躇もなく読んだ。そして数分ののち、読み終えた伯父はその場で泣き崩れ、いつか見たであろう、見事な土下座をした。やはりこの人はあの伯父だったと改めて実感した。
伯父に全てを話した後、彼の家から近いアパートの一室を貸してくれ、父さんと同じ高校にも入れてくれた。
そして君。いやお父さんに会ったんだ。紹介された時私はお父さんを睨んだ。それは昔の恨みの念とかがあったから。でも実際話してみると、やっぱり良い人だった。お母さんが惚れた理由も頷ける。でも学校じゃ全くモテないかったんだろうねね?まぁそれはいいか。ここに来た理由の一つに、お父さんを幸せにしたい。そう思ったから。今までは何度も想像の中でお父さんを殺してきた。でも、あの話を聞いて、誰を恨めばいいのかもわからなくなった。少なくとも、貴方を憎むことができなくなった。だから母さんと合わない世界線にしようとした。でも…やっぱり会ってしまった。私が居た世界とは違う大学だったのに…。運命には逆らえないみたいだね…」
俺は終始無言でその話を聞いていた。話のスケールがデカすぎて全く理解が追いつかない。
祥「わからない…。何を言ってるのか…全く…」
不覚にも俺は女の子の前で泣いていた。
京「ごめんお父さん…。こんなに苦しめちゃって」
祥「でも…だけどこれだけは言える。俺は君のことが好きだ。あの母さんとか言ってる人よりも君の方が好きだ」
俺はまた柄でもない本心を伝えてしまった。でも後悔はしてない。
京「実の娘に告白ってw……ごめん。実際は違ったね。お父さんが嫌いだった訳じゃない。優しいし、気遣いできるし、年頃のくせに襲わないチキン野郎だしw」
祥「言い過ぎw」
京「それに…。それに、私、もうすぐ消えるの。過去を変えた代償というのは大きくてその人の存在自体が消されてしまう。奇跡でもない限り生まれ変わらないってこと。ほら、もう手が薄くなってきてる」
俺は彼女の手を見た。ほんとに透明になり始めており、これから消えるのだなと悟った。俺にできることは…何もない。無力さを痛感した。
京「最後にひとつだけ、やって欲しいことがあるの。頭を撫でてほしい」
俺は京に、血は繋がってないが実の娘に、好きになった女の子の頭を撫でた。飼い猫にするくらいわしゃわしゃと。
京「ちょ、やりすぎだよお父さん…虐待だよw?」
祥「うるさいw未来の俺よりマシだろw…」
口では笑っているがお互い泣いている。
京「お父さん…。また会えるかな?」
祥「会えるさ。例え存在がなくなって俺の記憶からもみんなの記憶から無くなっても、何故だか会える気がする。怖がらずに行ってこい!」
京「初めて親らしいこと言った〜。うん。じゃあね。またいつか会おうね。それから、結婚したらお母さんとの時間も大切にしなよ!じゃあね。お父さn…」
抱きついていたはずの体も、撫でていたはずの頭も一瞬ののち消えた。
気づけば自室に居た。
祥「あれ?おれ、なんでこんなに泣いてるんだっけ?」
ピロン
あ、さっきの人からの連絡だ
両「明日、2人でカラオケでも行きませんか?」
二十数年後
あれから色々なことがあった。大学で仲良くなった女子と付き合い、同棲し、大学卒業後就職も決まり、それと同時に結婚して、4年後に子供ができた。女の子だ。俺は昔、母親か祖母か忘れたが、女性から、結婚したらその相手との時間を大切にしろと言われたので毎日定時に帰れるような市役所の職員になった。そのおかげか、近所でも評判のおしどり夫婦になった。兄は研究が忙しく、近くなのにずっと研究室で寝泊まりしてある。たまには来てもいいぞと言っても頑なに拒む。
それから、その女の子の名前は全宇宙の人から愛されるように、数の単位の京にした。なぜかしっくり来たのでこの名前に快諾した。毎年春は地元の公園で花見をしていた。そして、色々大変なこともあったけど家族に支えられ、何とか楽しく幸せな家庭を築いていた。気がつけば彼女はすくすく育ち、もう20歳になっていた。成人式も終わり、3人でお祝いに家でホームパーティーしていたところふと気になったことを言った。昔、京から「お父さんから殴られる夢を見たと」言って泣いてくることがあった。あれはなんだたのだろうと聞くと、
京「ん?なんの話?私、生まれてこの方一度もお父さんにもお母さんにも殴られたことないじゃん。ひょっとして、お父さん、もう歳…?」
祥「まだまだ現役じゃ!全く、そんなことばっかり言ってると、せっかく母さんに似て美人さんなのに婚期逃してしまうぞ?」
両「まぁ貴方ったら…」
祥「まぁ事実だし…」
2人揃って赤面した。ほんと、いくつになってもこのバカップルぶりは見ててこちらが恥ずかしくなるからヤメロ〜。というような眼差しを向ける京。
京「はぁ…。じゃあそろそろ寝るね。成人式出て疲れちゃった。それから、ラブラブなのは良いけど営みも程々にね」
2人「は、はぁい。…。おやすみ」
京「じゃあおやすみ〜」
京は部屋に戻り飾ってあった家族写真を眺める。
京「ただいま、お父さん。お母さん」
それには満開の桜と3人の満開の笑顔が写っていた。
おかえり ネオ元帥 @mesia00
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