スレンダリーウィズ

エリー.ファー

スレンダリーウィズ

 彼女のことを思い出すと胸が苦しくなるんです。

 あれだけ美しい人はいませんよ。

 もう、二度と会うことはないでしょう。

 え。

 実際に会ったことはないですよ。

 あぁ、そうか。それなら二回目もないだろう、という意味ですね。

 なるほど、なるほど。

 そういうことじゃないんです。

 その彼女っていうのは、私の頭の中に生まれた架空の女性なんです。

 だから、凄く綺麗なんです。

 女性の良い所だけが表現されていて、女性の汚い所、人間の駄目なところはすべて現れないようになっているんです。

 ね、凄くいいでしょう。

 僕はね、彼女の美しさを他の人にも勧めたんです。だって、独り占めするなんて発想としておかしいじゃないですか。見て、聞いて、話して、感じてもらった方が、彼女も幸せだと思ったんです。

 もちろん、彼女には了解をとりました。

 彼女は、いつだって太陽のような役割を背負っています。どんなことでも真剣に取り組みますし、常に笑顔を絶やしません。

 だから、僕も彼女のことを好きになってしまったんですけどね。

 そしたら、彼女、多くの人に出会ったことで、世界をもっと知りたくなったみたいで勉強を始めたんですよ。最初は、三角関数も分からなかったのに、いつの間にか数列も理解していました。国語も同じような感じで、公民も歴史もそう、教養も身に着けたいと習い事も始めたんです。

 驚きました。

 大学受験にも挑戦すると宣言しました。

 第二志望の大学に通うことになって、大学生になれたことをとても喜んでいましたよ。

 僕も一緒に喜んで、お祝いにご飯を食べに行ったことも覚えています。そうやって、色々な人と関わって、悲しんだり、強くなったり、苦しんだり、勇ましくなったり、より魅力的になったり。

 僕は忘れていたんですよ。

 重要なことです。

 彼女にも人生があるんです。何かの目標に向かって進み続けることによって、自分の在り方を見つめなおしたり、そこから生まれる未来に胸をときめかせたり、春が来て、夏が通り過ぎ、秋を見ているうちに、冬を知り、また春が来る時間の流れを感じて自分を知ったり。

 僕は。

 決して、彼女のことを馬鹿にしていたわけではありません。むしろ、学ぶべきところがたくさんあるとすら思っていました。でも、彼女の存在価値はそれ以上でした。

 僕の知る世界に彼女は存在していて、彼女の知る世界に僕も存在している。でも、お互いが知らない世界があることを知っていて、そこでも役割がある。当たり前ではありますが、寂しくて希望に溢れた現実が生まれたんです。

 僕も、何かを始めようかと思ったくらいです。彼女の姿を見て、そこに過去の自分を重ね合わせてしまったのかもしれません。

 それが、愛だし。

 それが、恋だし。

 それが、絆だと思うんです。

 まるで、大切にできない。何もかも失わないと分からない。絶望と背中合わせでしか希望を感じることができない。僕は、そんな寂しい人間になる未来に進んでいたのかもしれません。

 彼女は、僕に色々なことを教えてくれました。僕も彼女に教えられるような立場になりたいと思います。

 あぁ、何かに挑戦したくなってきたな。

 ふふっ。

 これが、ポジティブってことなんでしょうね。

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