4月3日の水曜日Ⅰ

 教室に戻ると、赤崎は手紙のことをなど知りもしないために、朗らかな笑みを浮かべ、人の群れの輪の中心に彼女はいた。そういえばまだ4月3日。早くにも赤崎は、このクラスの中での立ち位置を確立しつつあるようだ。

「赤崎ー、ちょっといい?」

 会話に水を差すのも気が引けたが、なるべく早く伝えておかねばなるまい。なにしろ内容が内容。子供のイタズラからのステップアップが極端で、0か1かしかないのかと、そう言いたくなるような冗談は、思わず笑い飛ばしてしまうくらいの突飛さだが。一応、念のために伝えておく方がいい。

 

 赤崎は私の呼びかける声にすぐ気が付き、またあとでね、とそう言って会話すぱりとを切り上げ、足早にこちらに応じてくれた。

「おはよう家入さん、渡井君。ふふん、分かるわよ。予告状の話でしょう? ああ、言わなくてもいいわ、その顔を見ただけで分かるもの。

 それで今度は誰が被害者? あとさっき旧校舎の美術室に行ったの見たけれど、それも関係してるの?」

 話しつつ、推理しつつといった感じで、それらが入り混じって話す赤崎。その顔は友達と話しているときよりも、一層笑顔が本物? というかすごく楽しそうに見えたので、推理小説好きというのは生半可なものではないのかもしれない。

「正解。でも今度のはだいぶ趣向が違うけどな」

 言って、手紙を見せてみる。狂文となった例のアレ。


 「……んん??」

  赤崎はしばし手紙を凝視したかと思ったら、そのままかちりと固まってしまった。『何を言っているんだコイツは』みたいな反応。

 無理もない、理解に苦しむ文を見せられて、誰がどう見てもハッタリだと分かるのにも関わらず、間をおいて自信満々に突き付けられた狂文は、悔しいが少しでも期待してしまった自分がバカみたいになる。

 そして。逡巡ののち赤崎がやっとこさ絞り出した声が「……んん??」というわずかな疑問形だった。

「こいつと真面目に取り合うのが馬鹿らしくなってきただろ? 赤崎。

 あ、いや殺害予告が出てるのに馬鹿らしいは違うかもしれないけど。これをどう受け止めるにしても、信じるに値しない八百の性質の悪い冗談だってのは変わらないし、だからもちろん赤崎が死ぬことなんて無いからな」

 私たち3人。(正確には私一人だけだが)ただひたすらに人の気持ちを弄ぶだけの、不愉快なゲームにつき合わされたという結末。そのあまりの幕引きの雑さに、ご都合主義でも何でもいいから、とにかくもっとまともな締め方をしてほしいと、心の中で切に思うばかりである。

「……はあ、がっかりね。あきれたわ」

 赤崎も同じ意見だったのか、大きなため息とともに、吐き捨てるように赤崎はそう言った。

「あれだけ期待させておいて、取るに足りないこの程度だったなんてね。こんなものミステリーと名乗ってもいいのかしら。謎も何もかも、犯人すらも投げっぱなしで終わらせるとか、ひどすぎね。過去への冒涜よ冒涜!! 

 できるなら配役を変えて書き直しをしたいところだわ、優秀すぎて役不足が過ぎたのよ」

 「うーん。あれだね、サキちゃんには敵わないってそう思ったのかもしれないね」

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