予告状という名のラブレター ②
時刻は8時25分。
すこし遅いかな程度だが。新学期ならでは、早々に一年間一人で過ごすかどうかの瀬戸際の時間。
あの後私たちはすぐに教室へと向かった。
昇降口前、劇場のセットさながらの大階段を上がり、右に上がって2つ目の教室へ。
ここは2-B、予告でも示されたクラスだ。
木造旧校舎に続く渡り廊下のちょうど境目に位置する教室で、石製木製の境、廊下に奇妙なラインが横に走っていた。
──そして今、特に何事もなくこうして席へと着いている。
「家入さん。この前は本当にありがとうございました」
座ってすぐ話しかけてきたのは優等生の
本人の謙遜はそこそこで、自分をあまり卑下し過ぎない性格からいらぬ反感を買うこともなく。彼女のお茶目さ、たまに調子に乗るところがまた憎めないのだ。
「大したことじゃないさ。あのペン、見つかってよかった」
「いえ……大したことなんです。あれは祖父から貰った大切なペンで、私いくら探しても見つからなかったのに、あんなにあっさり見つけてしまうなんて……。やっぱり家入さんには探偵の、そういう才能があるんですよ、きっと」
普段寡黙な赤崎は、その瞳からキラキラと光るものを感じる。熱、とでもいうのか。
……才能という部分は否定しない。むしろ100%と言っていい。ただ、私は推理など欠片もしていないため、彼女は気が付かないだろうが恥ずかしさでどうにもいたたまれない。
「あー駄目だよ、赤崎さん。変におだてると調子に乗っちゃうよ」
失礼極まりない言葉とともに、渡井は隣に席着く。
「なんだとぉー、私がいつ調子に乗ったってんだよ。いつでも私は冷静沈着美人だろうがてめぇ」
「えー。それはほら、自分にラブレターが来るとか思っちゃうトコとかさ」
「…………」
やっぱり腹立つなコイツ。
思わず、黙ったまま両の手で襟元を掴み上げていた。
丁度良く渡井は座っているから、襟元がとても掴みやすい。
「ちょ……秒で矛盾してるし!! あの…と、とりあえずさ。胸ぐらをつかむのやめよ?」
「……ふーん。ところで渡井、犯罪ってバレなきゃどうってことないんだぜ。これ、知ってたか?」
言って片手を離し、笑顔のまま手の形をパーからグーへ。
「いやそれ探偵の娘が言っていいことじゃないでしょうが!!」
「──手紙をもらったの、家入さん?」
不意に、赤崎の顔が私と渡井の間に割って入ってきた。
「ひゃっ……、え? ああいや、そういうわけじゃなくって」
あっぶねぇー。もう少しで殴り飛ばすところだった……。
「そうそう。赤い手紙でさぁ、予告みたいな──」
「ワーターラーイー??」
「あ……」
口が滑ったことに気が付いたようで、咄嗟に渡井は口を押える。
『あ……』じゃないんだわ。ほぼ全部言っちゃってるのよ。
渡井はすべてを話しはしなかったが、残念ながら聡明な赤崎の前では無意味である。彼女は話の4分の1さえあれば、あとは推測でどうにかなるタイプだ。
「えと、じゃあつまり、今までの全部盗まれてたってこと? その男に?」
「……男かどうかはさておいて、全部予告通りにはなったな」
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