馬小屋事件

仕事初日を終えてー日記

 ○月○日――


 家にて。

 仕事初日で疲れたが、明日もあるので、書けることは書いておく。


 まず。

 髪を洗うのに、水が足りない。水瓶が小さすぎる。

 ライ麦パンは、何日も経つと、石のようだ。堅くなって歯が立たない。

 既成の上衣は、今ひとつ体になじまない。幅が少し大きくて、長さが少し足りない。

 日々の暮らしというものは、どうも面倒くさい。 


 教師は私を入れて三人。

 最年長を受け持つ学校長のラインヴェール。文字や計算を教える私と、子供のお守役の女性・シア。

 シアは、椎の村から出た事のない普通の女性だ。ラインヴェールを尊敬して、そのまま教師になったという。

 ムテの五歳といえば、成長にばらつきがあり、まだ赤子もいたりするので、シアがいて助かった。彼女がいなければ、私はおむつ替えまでしなければならなかった。

 ただ問題は……。

 ラインヴェールの話によると、彼女はまだ若いせいか、精神的にムラがあり、傷つくと突発的に休むことがあるそうだ。傷つけないように気をつけねば。


 初日、準備が足りなかったと思う。

 自分が、文字を覚えたばかりの時のことなど覚えていないから、どうやって教えればいいのか、まったく見当がつかない。

 子供たちに、難しいと泣かれ、無視され、途中で遊びだされる始末。どうにか、勉強に集中させるようにしなければ。

 ラインヴェールに相談したが、彼も年少組を教えたことはないから、一緒に悩んでしまった。


 マリは……。

 こなかった。


 登校拒否を起こしているのだ。

 予想はしていたものの、あの子に会えるのを楽しみにしていたので、寂しい。

 どうしようか?

 一度、家を訪ねてみようか?

 

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