第33話 再会は突然に

ぼーっと役所の前に突っ立っていた洛陽の集の二人の前に、シラハが召喚したケライノが通りを走って現れる。

勢いよく飛びつくと、その勢いで二人は地面に倒れこんだ。


「くっそ!」

「なんなんだあいつ!!」


そう言いながら援軍を呼び、刀を片手に逃げ回るケライノを追いかけている。

門番をしていた二人と数人は追いかけてその場を離れたが、これでいいというわけではない。

下っ端ではないそこそこの知恵を持った人は役所から離れることはなく、いざという時に備え役所の中を歩き回っている。

それに今はいないようだが、ユキムラがいつ帰ってくるとも限らない。

作戦は速やかに遂行しなければ。

タイミングを見計らって、シラハは屋根の上から外の窓際に近くにあった樹木を利用しながら移動し、外から中を覗きこんだ。

覗き込んだ時捕えられた奥さんと目が合うが、すぐに口に人差し指を当て何も言わないように合図を出す。

奥さんもその合図を見て、シラハが自分を助けに来てくれた人だと感づいたようだ。

アルキュオネを配置後、エレクトラに薬剤を運ばせ役所の中に噴射、催涙ガスで相手の動きを鈍くした。


「敵襲!敵襲!!」


役所の中が慌てふためいている間にシラハは窓から侵入すると、手際よく縛られていたタナカさんの縄をほどき抱え上げ窓から外へと脱出した。

近くの路地裏まで連れていくと、近所の人に経緯を話し少し匿ってもらえるよう依頼する。

今はケライノを追いかけているサムライや、催涙ガスによる白い煙で役所の周りは騒然としている。

あまりうかつに行動せず、陽が落ちるのを待って迎えに来た旦那さんと一緒に移動した方がいいだろう。

奥さんを任せた後、シラハはすぐにシズハ達のところへ向かった。

しかし役所にもう一度近づき走っている最中…


「きゃああぁぁっ!!」


甲高い悲鳴が向かう先から聞こえてきた。

シズハやフウの声ではなさそうだが、嫌な予感がする。

大通りには人混みができており、それを避けるように少し高い塀の上からシラハは状況を確認した。


「誰だァ?俺のだーいじな住処を荒らしてくれたのはよォ…?早く出てきな…、今ならまだこの女が傷がつかないで済むぜぇ?」

「…く…ぁ…」


そう言うのはユキムラという人物だろう。

片手には刃物、もう片方にはあろうことかシズハが苦しそうに捕らえられている。

店先でただの観光客として一時的に滞在していただけなのだが、運悪くユキムラが帰ってきた方向であり、見慣れない容姿だった事もあり疑われたらしい。

シズハがやったというよりは、シズハの仲間がいるに違いないと考えたようだ。

それを見たシラハは自分の中に湧き上がる怒りをコントロールすることをやめた。

人混みの中からユキムラが持っていた刃物をめがけて魔力を込めた石を投げる。

勢いよく見事に命中した石は刃物を砕きその手から落下した。


「———っ!?」


それを見た周りの洛陽の集がユキムラを守ろうと周りを警戒、刀を構え戦闘態勢になる。

人混みにいた人が気付く程魔力のオーラを放つシラハは人混みに通り道を作り、その間を凄い速さで走り洛陽の集の集団へと突っ込んでいく。

10人以上いた洛陽の集は、目で追うのが大変なほどシラハの動きに翻弄され、圧倒的な戦力を見せつけながらどんどん切り捨てていった。

シラハが一人でも任務を任された理由が目の前でわかる状態になっている。

バタバタと倒れていく自分の部下たちを前に、ユキムラはなすすべがない。

しかし、これならどうだと秘密兵器である銃を懐から出そうとした瞬間だった。

シラハはその行為を見逃す事はない。

下から上へと持ち出そうとした右手をめがけて切りかかり、出された銃は宙を舞う。

剣がかすったユキムラの頬からは血が流れ、宙に舞った銃はシラハの手へと収まると、その銃口はユキムラへと向けられた。


「その手を離せ…お前の汚い手で触っていい相手じゃない」

「へっ…へへ…」


ユキムラから解放されたシズハがシラハの後ろへと移動する。

後退りしたユキムラがシラハに背を向け走り出すところで、次に視界に入ったのはフウだった。

フウの手を掴むと自分の後ろになるように引っ張り走らせて逃げている。


「わっ!!ちょ…何を!!」


そんなフウの言葉に一切耳を貸さず、力強く握られたフウの腕はユキムラの手の痕がついてしまうほどだった。

なんの抵抗もできず連れられていくフウ。


「フウ!旦那様、フウさんがっ!」

「わかっている…ただシズハを置いては行けない」

「それなら私も一緒に…!」


それがとても危険な事はわかっているが、他にどうしたらいいのかわからない。

シズハを危険なめに合わせたくない気持ちと、フウを助けに行かなければならないという気持ちの葛藤がシラハの中で起こっていた。


「痛…い…!離して…、離してよ…!」


あまりにも強い力で握られた腕に、フウの目には涙が滲んでいた。

このままユキムラに連れていかれたらどうなるのだろう。

もしかしたら痛い目に合うのではないか、殺されてしまうのではないか…、そんな不安がフウを襲う。

こんな時にフウマがいたら…その想いがつい口から出てしまう。


「フ…ウマ…」


泣きそうになりながら連れていかれるフウとユキムラの前を、一瞬何かが横切った。


「ぐはぁっ!!」


何かが横切ったのと同時に吹っ飛ばされていくユキムラ。

その衝撃で地面を勢いよく転がり壁にぶつかると意識を失ったようだ。

直ぐにユキムラを吹っ飛ばした人物がいる事に気付き見上げるフウは、自分を大事そうに抱きかかえている人を見て言葉を失った。

忘れもしない、黒髪に藍色の瞳のポニーテール、紛れもなくフウマだった。

それは昔と変わらずに、久しぶりの再会の喜びと昔の思い出を一気に蘇らせてくれた。


「久しぶりだね…カエデ」

「あ…あぁ…うっ…」


なんと言葉をかけたらいいのだろう、夢をみているのだろうか?

感情の高ぶりに名前すら呼ぶことが出来ないフウだが、久しぶりの再会を続けるには場所が悪かった。

そしてフウマの後ろにもう1人、知っている人物がいた。

シズハの城によく遊びに来ていたソラの想い人、テツだった。

そしてシズハもその姿を見て驚きシラハの後ろにまた隠れると、シラハの袖を強く握った。

フウを抱きかかえたフウマはゆっくりとシズハとシラハの方へと歩き言う。


「ここは話をするのに適していない…、君たちが泊まっているところまで案内してもらえるかな?」


きっとお互いに言いたいことは山ほどあるだろう。

ただ今は場所を変えなくては…。

先に、助け出した奥さんの事が気になり一時的に匿ってもらったところに行くと、旦那さんがすでに迎えにきていたようだ。

それならと一行はキヨタダの家へと戻る。

すっかり暗くなってしまっていたが、仕事を終えたキヨタダが出迎えた時の人数に驚いていたのは言うまでもない。

シラハとフウマが対面した静まりかえる部屋で、キヨタダから出されたお茶からは湯気がゆらゆらと昇っていく。


「久しぶりだねシラハ。君と会うのは4年ぶりかな」

「そうだな」

「え?知り合い…だったの?」

「まだ私がこのナゴミ国から追放される前、サムライの戦闘力の強さを学ぶためにシラハが留学してきていたのです。一時的にでしたがとても強い相手で、対等に渡り合える人は少なかったのですよ、シズハ姫様。でも驚きました、まさかシラハと一緒に行動しているなんて。それにカエデまで…、何がどうなっているのか説明してくれるよね?シラハ」

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