第20話 悪気のない計画

その日の夜、シズハとシラハは出会ってから初めて別々の部屋で過ごすことになる。

出会ってから1週間ほどとは言え、出会ってから隣で寝ていた人がいないと変な感じだ。

それほどお互いの存在が心地よく、相性がいいという証拠なのだろう。

同じ敷地内にいる相手に、心の中でおやすみと言いながら2人は眠りについた。


次の日、朝早くから作業員達が持ち場につくため動き回っている。

シズハは朝の食事の用意を手伝い、シラハは作業をするため身軽な服装に着替えた。

作業員達が朝の食事をとる時間は少ない。

10分もあればそこにいる人は全て入れ替わっているような状態だ。

シラハもその人達の中に混ざり、ジャスティーニと共に朝食を済ませると早々に現場へと向かった。

泊まっている場所から、ラブルに戻るような方角へ作業場所への道は続いている。

近くの作業員は自分の足で向かい、遠くの作業員は馬車で送迎をしているようだ。

シラハはジャスティーニと共に馬車に乗せられ、それなりに距離があるところに連れていかれるらしい。

作業場へ向かう途中シラハがジャスティーニに仕事の内容を尋ねると、知らないで参加したのかと驚かれてしまった。


「ここにいる皆で水道を作るんだ」

「水道?」

「そうだ、あのキンネは町と町の距離が遠いから水の確保が大変で、天候によっては水の値段がものすごく高くなることがある。生きていくために必要な物だから皆仕方なく購入するんだけど、それがここ最近値上げが酷くてね。だから、あそこをよく利用する人達や出資者の協力もあって、ようやくキンネにも水道を通そうって事になって、今俺達が雇われてるわけだ」

「なるほど、それでその水源とやらがどこかにあって、そこからキンネまで引っ張るって事だな?」

「そう言う事」


ジャスティーニの話によると3分の2ほど水道は作り終えており、その水源から水を出すための山を掘り進める作業が難航しているらしい。

地層が硬く人の手で掘り進めるにしても、今まで掘ってきた水道の半分以下しか一日で進められないのだという。


「それなら、俺は役に立てるかもしれない」

「え?何か策でもあるの?」

「まぁ…とりあえず作業場について実際に見て見ないと確証はないが、少し技術は提供できると思う」

「へぇ…なるほど、筋肉量が少ないところは頭脳でカバーするってことね」


実はシラハが乗った馬車の後を、ケライノが必要な道具を持たせた状態で追尾しており、何かあっても対応ができるよう準備をしてあった。

まさかキンネからラブルにほぼ戻る事になるとは思わなかったが、ラブルの目と鼻の先、シラハ達が調査した地底湖のある洞窟の周辺から水道を繋げようとしているのは間違いなさそうだ。

作業場に着くと現場を仕切っている管理者であるキースという男性のところに案内され、作業の進捗状況ややってほしい作業内容を確認した。

そこでシラハが自分がゲシックト族の血を引いていて機械が操れる事を話すと、ゲシックト族が何かという事を知っていたキースは、是非硬い地層を何とかして欲しいと依頼されたため、シラハはケライノを呼び出し、地層の調査から始める事になる。

ダクハで崖崩れが起きていた時と同じく、エレクトラとアルキュオネを使いその水道を通すための場所を調査し方針を決めていく。

その間その場に居合わせた作業員は、シラハのしている事を気にしながらも、掘り進めた土や岩をどけておくための場所を確保し、作業が効率よく進むように準備をしていた。

地質調査をしている間、シラハはデータを見ながらキースに質問をする。


・ラブルの人たちの水源確保が難しくなっていることを知っているのか

・ここから水道を伸ばす事に対して話し合いは行われたのか

・今後問題が出てきた場合どう対処するつもりなのか


キースはその質問に快く答えた。

ラブルの人たちに影響が出ている事に対しては知らなかったようで、どうしてまだ開通していないのに水位が下がっているのかは不明だと言う。

そして、水道を伸ばす事になった経緯は、年々上がっていく水の値段をどうにかしてほしいと、キースだけでなくキンネを使う人達からの要請があり、ラブルや周辺の街にお願いをしに行ったらしいのだが、キンネ以外の集落やオアシス、次の休憩所になるテースタという街は、ここ最近モブリシャスという貴族によって買収され思い通りに交渉がうまくいかなかった。

モブリシャスがキンネを買収しなかったのは、土地が貧弱であることをわかっており、商業発展の見込みがないと見捨てたからである。

それをわかっていながらモブリシャスは、文句を言うのであればもっと値段を高くしてやると脅しをするくらいに性根が腐っているようだ。


「自分の懐を温める事しか考えていないというわけか…」


それにより水道を伸ばす工事は秘密裏に勧められ、話し合いは行われることなく現在もこうして進められており、この硬い地層の問題さえクリアすることができれば、開通して水を確保できる状態になっていた。

しかし、このままでは水が減っていくラブルの問題の解決にもならないどころか、水道が開通したとしてもそれがバレた場合キンネの人々がまた危険に晒される可能性が十分にある。


「現状、ラブルとキンネ双方にとって、この水道を繋げてもいい結果にならなそうに思うが、問題が起こった時の策は?」

「実は今キンネにはモブリシャスと対抗している…マーニュという貴族が、ここの水道工事に関する出資を全て行ってくれている。この水道が繋がってしまいさえすれば、そのマーニュという貴族がラブルも買収してくれるという話だ。そうすれば、双方共に水を共有して使えるようになるし、キンネが危険に晒される可能性も低くなると考えている」


マーニュという貴族はシラハが最初に謁見していた、シラハのことをひょろそうな人と言ってたあいつの事らしい。

とは言えそれは双子の弟ディスタントのほうで、しっかりして管理してくれているのは兄ディスフィアなのだという。

兄の方は誠実で人々の話をよく聞き、問題解決にむけて自分が何をすべきかをわかっており、的確に指示を出せる能力を持っている。

話を聞いていると、キースや作業員からも信頼されているようで、マーニュ家がキンネを管理してくれるのを心待ちにしているようだ。

街同士の問題はこれで解決するかもしれないが、シラハが懸念している点がもう一つあった。

地底湖の水位が下がってきており、今後この水道工事をすることによってキンネの人々がラブルと一緒に水を使う事になる場合、量が今のままでは不足するのではないかということだ。

実際地底湖の水は下がっているのはわかっており、それが水道工事と何か関係しているのかどうかは調査しなければならない。

幸い、今この場所は地底湖の目と鼻の先だ。

今晩はキンネに帰らずに、ファルズのところで一泊し調査を続けることにしようとシラハは考えていた。


「よし、地質の調査は終わった」


エレクトラとアルキュオネのデータをキースに見せながらシラハは説明する。

今までに掘り進めた水道とこの場所を繋げるために必要な物と時間、そして自分ができそうな掘削機械の提供と使い方を教え、皆で作業に取り掛かった。

人間の手で掘るよりはるかに早く、シラハの想定している時間よりももっと早く終わるかもしれない。

そうしたらまずは地底湖の調査をするための助っ人が必要だった。

作業を終え、返るジャスティーニにシラハはお願いをする。


「今度こっちへ向かう時に、妻を連れてきてほしい」

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