第18話 潜入捜査

ジロジロという視線は感じるものの、特に話しかけられる事もなく2人はその場で食事をして過ごす。

シラハはこっそりと店内にエレクトラを忍ばせ、客の会話を遠くからでも聞けるようにしていた。

ある程度の時間が過ぎたところで、とある離れた席の客から同じテーブルに座っている仲間への勧誘と思われる会話が耳に入ってきた。


「最近稼げる仕事が見つかってよ、俺にもついに運が回ってきたらしい」

「ほぉ、お前が最近やけに気前がいいのはそういう理由か」

「ふふん、ここで内容は教えられねぇが、人間にとっては切っても切れない関係にあるものだから、必然的に儲かるのさ」

「いいのか?こんな酒場で儲かる話して」

「むしろ人手不足でな、どうだお前も興味ないか?」


隠すつもりがないように聞こえる会話。

シラハはその会話を聞いて、人間と切っては切れない関係にあるものという言葉が引っ掛かっていた。

都合よく情報が入手出来るとは思っていなかったのだが、どうやらその情報にありつけそうだ。

引き続きその男達の会話を聞いていると、ラブルと次のオアシスを通り過ぎ、崖に囲まれた天然のトンネル付近に新しく本拠地があるとの事。

誘われた男性は興味を持ったようで、支度をしたら案内をして欲しいと言っている。

シラハはマスターに声をかけ、食事代の2倍の料金を払うとシズハと共に店の外へと出ていく。

お店の雰囲気が怖すぎて、終始何も喋らなかったシズハが、店の外に出てようやく張り詰めた空気から解放され深いため息をついた。


「すまない、無理をさせてしまって」

「いえ、大丈夫です。息苦しかったですが、特に何もなくてよかった。旦那様の目的は達成出来たのでしょうか?」

「あぁ、今からそのために準備をする」


近くで待機していたアルクの所に戻り、2人は酒場から少し離れた酒場が見える空き地に移動した。

その場所でシズハに今後の作戦について話す。


「これからするのは潜入捜査、そして水の事で困っているグロシや、他の人への問題解決だ。故に、ここから先は危険が伴う。話を聞いている限り、上手い話には裏がある事は想像にかたくない。シズハは馬車に戻って待っていてほしい」

「…危険が伴うことは承知しています。ですが1人になるのは…。ついて行くのはダメでしょうか…」


シズハが不安になる気持ちもわかるものの、1日や2日で帰れる保証もなく、着いてきても何かあった時に守れないだろう。

それなら目の届く範囲にいた方がまだマシなのだが、危険な目に合わせたくない気持ちと、そもそも国王に送り届ける任務が重なっているというのに、シズハの目を見るに“ 絶対に1人は嫌”という硬い意思が読み取れてしまった為、シラハは対応に困っている。


「恐らく馬車で暮らしているよりも酷い環境だぞ…」

「はい、承知の上です。旦那様から離れるよりマシです」


ここで時間を食っていても仕方がないと思ったシラハは、ケライノをもう1匹増やしシズハの横に常に居させる事で、自分の目がない時でもある程度守れるように対策をした。

その後ある程度作戦内容を伝え、自分が話す会話の内容に合わせて発言や行動をするようにとシズハに促す。

やれるだけやってみますと返すシズハ。

そして、酒場から例の男性が出てくるのを待ち、1人になった所を見計らってシラハが声をかけに行った。


「すみません、少しお伺いしたいのですが…」

「ん…あぁなんだ、さっき店にいた兄ちゃんじゃねぇか。なんだ?」

「それが…少し聞こえた程度だったのですが、仕事の話があると。良ければ紹介していただけないでしょうか?」

「ほぉ…こりゃ驚いたな、兄ちゃんそんな金に困ってるようには見えねぇけど?」

「それが…お恥ずかしながら、実は今国に帰る途中で盗賊に出会ってしまい…、命からがら馬と妻と共に逃げ出す事には成功したのですが、持っていた馬車や金目のものは全て奪われてしまいまして…」

「そりゃあ災難だったな…。なるほど、それで働き口がほしいと」

「そういうことになります。可能ですか?」

「まぁ俺は紹介は出来るが、雇うかどうかを決めるのは雇い主だ。場所なら案内できるから、着いてくるといい」


そう言いながらその男はシラハの奥で馬と一緒にいるシズハを見て、少しニヤけた。

待ち合わせをしている人物と合流後、皆馬で移動するようだ。

もう1人が合流するまでさほど時間はかからず、早々に出発する。

途中オアシスに寄りながら、3時間ほど走ったところで目的地に到着した。

天然のトンネルとして有名になったこの場所の名はキンネといい、旅人や商人の休憩場所にもなっているが、これと言って街があって発展しているという訳ではないようだ。

2つ大きな建物があり、1つは宿になっているためお金がある人はその中で、ない人は周辺や小さな洞窟の中で寝泊まりが出来るらしい。

そしてもう1つの建物が、男性が話していた働き口になるかもしれない場所になる。

入り口入ってすぐの空間で待つように言われ、共に来た友人と思われる男性と2人は待機した。


「君たちこの辺の人じゃないでしょ?格好とか立ち振る舞いが違うけど、大丈夫なの?こんな所に来ちゃって」

「あぁ…ご心配なく。お金が無ければ何もできませんから、ある程度は覚悟出来ています」

「そうか、なら俺とは顔見知りになれそうだから、自己紹介しておくよ。俺の名前はジャスティー二、俺もお金なくってさ、今回参加させてもらったってわけ!今回稼げたら、街に行って綺麗なお姉さん達とパーティーするんだ〜」


ワクワクしながら話すジャスティー二を見ながら、そんな感じにパーティーしてるからお金無くなるのでは?と2人は思った。

しばらくすると、奥から従者を連れた偉そうな雰囲気の男性が中に入ってくる。

中に入るなり近くにあった椅子に腰掛け、足を組んで肘を着いた。


「ふーん、まぁそこそこ筋肉ありそうな人と、ヒョロっとした雰囲気のダメそうな人と…ん?女性?何しに来たの?んー…でもまぁ、使い方次第では使えなくもないか…。とりあえず名前ー」

「では俺から、名前はジャスティー二!仕事でお金を貯めたら、若いお姉さん達とパーティーする為にここに来ました!」

「ぷっ、はは!正直じゃんお前、悪くない。自分の欲望に忠実なやつは俺は好きだね。なるほど、次」

「シラハ・クレーエ、国に帰る途中で盗賊に襲われ、1文無しになりました。妻と共に働かせて頂ければと思っています」

「あーあ、かわいそー。まぁ、仕事してくれれば僕は何でもいいけど、ただ奥さんの方はそうもいかないから、みんなの食事と、ステージに立って夜は踊ること。それが出来るなら雇ってもいい」


綺麗な女性が皆の前で踊るということが、ここの作業員が楽しみにしている事の1つのようだ。

シズハにとってやった事のないものではあるが、出来ないという選択肢はないため、少し不安になりながらも返答する。


「わかりました、やれるだけやってみます」

「ふふっ、そう言ってくれると思ってたよ。大丈夫、女性は少ないけど君だけじゃないし、衣装も用意してあるからその子たちに聞いて。まぁ…ただ…、少し布地面積は少なめだし、最初は恥ずかしいかもしれないけど、頑張ってね」

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