GⅠ・第〇〇回有馬記念・芝2500右(実況)

 有馬記念(中山競馬場)


 ・グレードⅠ 芝2500m(右回り)

 ・天候は晴れ 馬場状態(良) 全18頭出走




『――12月も終わり、新年の足音がすぐそこまで来ている今日この頃、皆様は如何お過ごしでしょうか』


『12月○○日、現在時刻は15時○○分。発走時刻まで、残り20分を切りました』


『馬券等の購入をご検討の皆様、現在、大変混雑しております。警備員等の誘導に従い、焦らずに列にお並びください』


『また、ネット通信による馬券の購入をご検討の皆様にお知らせです。現在、通信回線が非常に込み合っております』


『直接購入や電話による購入は発走5分前、ネット馬券の購入は発走1分前が締切となっております』


『発送前であれば再購入等が可能となっておりますが、締切後は馬券の購入が出来ません。お時間に余裕をもって、確実にご購入いただくよう、お願いいたします』



『――繰り返します』



『現在、売り場、通信、共に非常に混雑しております。直接購入は5分前、ネット購入は1分前が締切となっております』


『馬券の購入をご検討の皆様は、混雑や足元に十分気を付けたうえで、安全に行動するようお願い致します』



『……さて、それでは実況に戻ります』



『改めて、自己紹介させていただきます。本日、実況を務めさせていただきます、酒井です』


『――解説の、山本です』



『よろしくお願いします』


『よろしくお願いします』



『それでは、山本さん。本日の有馬記念のコースの説明、よろしくお願いします』



『はい――それでは、コースの説明をさせていただきます』



『まず、今回走るコースは距離2500mの右回り、スタンド前の直線を2度通過しますので、二度の歓声が起こることから暮れの風物詩とも言われております』


『で、コースの中身なのですが』


『このコースは、まずスタートしてから約200mの時点でコーナーに入り、そこから既に主導権争いが始まっております』


『というのも、このコーナーを抜ければすぐに約310mの直線となるのですが、ゴール前には高低差約2mの急坂があります』


『そこを登れば再びコーナーとなり、下り坂からの直線……そこからコーナーを回り、最後の直線約310mと高低差2mの急坂を登ればゴールとなっております』


『有馬記念は最初こそどの馬も先行争いが行われますが、全体的にはスローペースになる傾向にあります。その理由としては、やはり最初と最後で2mの急坂を二度登るという、スタミナとパワーを要求されるからでしょう』


『なにせ、最後の直線は急坂に加えて約310mしかありません。対して、コーナーは6度回ります。なので、必然的に差し・追い込みが行う加速に必要となる距離が足らず、逃げや先行馬が押し勝つ傾向にあります』



『とはいえ、差しや追い込みが不利かと問われれば、けしてそうではありません』



『やはり、鬼門となるのが最初と最後の急坂です。先行を勝ち取り、内を回るのは確かに有利ではありますが、その分だけ馬も体力を消耗しますし、道を塞がれて結果的に閉じ込められてしまう可能性があります』


『結局のところ、道中にて如何に先頭を走ろうが、最後のゴール板を最初に駆け抜けた馬が勝ちなのです』


『これまでの有馬記念の結果を見る限り、如何にコーナーの内を通ってスタミナのロスを防ぎ、最後の坂まで足を残すかが重要でしょう。その点を考えれば、先行馬や逃げ馬が絶対的に有利というわけではありません』


『正しく、一年の総決算を決めるにふさわしいタフなコースだと言えると思います』



『……はい、ありがとうございました』



『以上、山本さんの解説でした』



『それでは、発走時刻までもう間もなく……場面を中山競馬場に戻しますが……いやあ、すごい人だかりですね』


『すごいですね、有馬記念とはいえ、これ程に客が入ったのを見るのは久しぶりですね。いったい、どれだけの人数が来ているのでしょうか?』


『先ほど報告されたのですが、現在で約12万人が来ているとのことで、一部では警備員による制限が掛けられているそうです』


『あ~……お店とかですか?』


『え、いや、そこまでは……』


『たぶん、テイクアウト系のお店が込んでいると思いますね。ホワイトリベンジの人気によって、客層がこれまでと違うらしいですから、事前に混む場所が分からない方が多いと思いますし……』


『あははは……さて、そのホワイトリベンジと、ライバルであるクレイジーボンバーが、このレースで引退を表明しております』


『共に、GⅠレースにてしのぎを削り合い、競馬界を盛り上げた立役者……引退が惜しまれますね』


『はい、先ほど映されていましたパドックでも、横断幕とかいっぱい飾られていましたね』


『2頭ともまだまだ走れそうですが、元気なうちに引退して……と考えているのでしょう。ホワイトリベンジ産駒、クレイジーボンバー産駒、どんな子が生まれて来るのか今から楽しみですね』



『――さて、発走時刻が近づいておりますので、改めて発走する優駿たちの紹介を行います』



『1番……、2番……』



『3番、ポンポコプリンセス。体重470kg。父はポンポコジェネラル、鞍上は○○騎手。勝利からは遠ざかっておりますが、女であろうと一切引かない、プリンセスの意地を見せよう』


『ポンポコプリンセスの強みはなんと言っても競り勝とうとする根性でしょう。ですが、掛かり易い一面もあります。如何に騎手が抑えられるかが勝負の分かれ目になると思います』



『続いて4番……、続いて5番……、続いて6番……、続いて7番……』



『続いて8番ホワイトリベンジ、一番人気です。体重は480kg。父はマッスグドンドン。鞍上は柊彩音騎手、今回のレースがラストラン。幾度の奇跡を起こしてきた彼は、今日も奇跡を起こすのか』


『いやあ、綺麗な馬体をしていますね。このまま5歳でも十分にやれるとは思いますが……彼の走っている姿をもっと見ていたかったですね』



『続いて9番……、続いて10番……』



『続いて11番クレイジーボンバー、二番人気です。体重は483kg、父は○○○○○○○。鞍上は伊藤将騎手。シルバーの名はもういらない、俺こそが最強だと勝利を狙うか』


『彼もまた、今日のレースがラストランとなっております。思い返せば、ホワイトリベンジとは因縁のある相手……黒星が続いておりますが、最後に花道で引退するか……気になるところです』



『続いて12番……、続いて13番……、続いて14番……、続いて15番……、続いて16番……、続いて17番……』



『最後に、18番フッジサーン、八番人気です。体重は491kg、父は○○○○○○○。鞍上は××騎手、どれだけ苦汁を舐めようとも、挑戦し続ける戦士は勝利の冠を被る時が来るのか』


『2500mというのは、この馬にとってはベストな距離だと思います。精神的にも落ち着いていて、安定して掲示板入りする強い馬ですよ。ただ、この馬は一番大外になるのは初めてですので、それがどう出るかは未知数ですね』



『以上、出走予定の全18頭の紹介が終わりました。ここまでで、どうでしょうか?』



『一年の終わりを彩るに十分すぎる顔ぶれだと思います。引退レースということもあって、クレイジーボンバーとホワイトリベンジに注目が集中しておりますが、他の優駿たちも引けを取りませんよ』


『なるほど、ありがとうございました……間もなく、発走時刻となります。今、音楽隊が……ファンファーレです』



 …………。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 …………。



『――さあ、ファンファーレも終わり、優駿たちが一頭、また一頭とゲートに入っていきます』


『さすがは有馬記念、どの馬もスムーズに入りましたね』


『少々、クレイジーボンバーが入れ込んでいるようにも見えましたが、落ち着いてゲートに入る辺り、精神的にも強い馬ということでしょう』



『さあ、最後の18番フッジサーンもゲートIN完了……発想の準備が整いました』





『――スタート! 各馬一斉に好調な滑り出し! 大歓声と共に、第○○回有馬記念がスタートしました!』




『最初のコーナーまで約200m! 各馬が我先にと主導権を争って――行った行った! やはり葦毛が行った!』


『8番ホワイトリベンジがハナを取る! 天皇賞春秋を制覇した葦毛の雑草魂が早速先頭を取った!』


『続いて7番……5番……っと、これはどうした? クレイジーボンバーだ、11番クレイジーボンバーが8番ホワイトリベンジのマークに付いた!』


『これは作戦か? 掛かったのか? 天才の名を持つ将騎手のマジックなのか? 我先にと先頭を進むホワイトリベンジにぴったりと貼り付いているぞ!』



『驚いた! 逃げる! 逃げる! コーナーを曲がり、スタンド正面に来てもなお続く天才と葦毛の一騎討ち!』



『クレイジーボンバーも逃げを取った! どよめいている! 歓声と共にどよめきも上がっている!』


『だが、止まらない! 3番手にポンポコプリンセス! 4番手にフッジサーンが追いかける最中、2頭の意地のぶつかり合いは続いている!』


『徐々に離されていく後続! 先頭を突き進む2頭とは一旦距離を保ったまま足を溜めておく作戦のようです!』



『早くも2頭だけがコーナーを曲がり切り、向こう正面に――1000m59.0秒!? 1000m59.0秒! これはハイペースだ!』



『持つのか!? これは持つのか!? 後続との差は開くばかりで、2頭とも足を緩める気配は無い!』


『ここで、後続馬も距離を詰め始める! 足が止まると予想したのか、各馬が一斉に距離を詰め始める!』


『しかし、これだけの差! これだけの差が広がっている! 5馬身、6馬身、とてもではないが目測では分からない!』


『速い! これは速い! 先頭2頭は譲らない! 後続を置いてけぼりに、最後のコーナーの半ばを通過し――まだ足は止まらない!』



『後ろは届くのか!? これは届くのか!?』



『後続馬が続々と鞭を振り始めている! さあ、始まります! 今年最後の根競べ! ゴールへ向けて、最後の力比べが始まります!』


『先頭変わらずリベンジ! そのすぐ後ろをクレイジー! 離れて3番手に順位を上げていたプリンセスが下がってゆく! 合間を縫って、フッジサーンがここで来た!』


『しかし、先頭は変わらずリベンジだ! さあ来たぞ来たぞ、最後の急坂高低差2mの根競べ! 短い直線を経て栄冠を手にするのは――クレイジーだ!?』



『クレイジーだ! クレイジーここで伸びて来た!』



『天才伊藤騎手が鞭を振るう! 愛の鞭! 最後の愛の鞭! 一発! 二発! 三発! 並んだ! 並んだ――交わした!』


『クレイジー先頭! 負けてたまるかとリベンジも行く! 柊騎手も鞭を一発! 二発! 押して押して押しまくる!』



『だが、粘る! クレイジー粘る! クビの差が遠い!』



『クレイジー先頭! クレイジー先頭! クレイジーの執念は通じるのか! クレイジーが意地を見せる!』


『リベンジ伸びる! ここで伸びる! 距離を詰める!』


『しかし、粘る! クレイジー粘っている! クレイジーも伸びる!』



『クレイジー! リベンジ! クレイジー! リベンジ!』



『譲らない! どちらも一歩も譲らない! 意地と意地! 男と男のぶつかり合い!』




『そして、栄冠を手にしたのは――クレイジーだぁぁぁぁああ!!!!』




『クレイジーだ! ハナ差の勝利! しかし、文句なしの大勝利!!!!』


『魅せた! 若き天才が魅せました! 天才は、やはり、天才であった!』


『幾度の激突! 幾度の敗北! しかし、最後に意地を通したのはクレイジーボンバーだ!!!!』



『――伊藤騎手! 右手を上げてガッツポーズ!』



『立ち塞がり続けた壁を乗り越え! 今! 天才は堂々と引退し、天才は新たな夢の先へと飛び立った!!』


『2位にはホワイトリベンジ! 3位にはフッジサーン! 4位には……! 5位には……!』



『改めて確定しましたので、繰り返します!』



『第○○回有馬記念を制したのは、11番クレイジーボンバー!』


『2着にはホワイトリベンジ! 3着にはフッジサーン! 4着には……! 5着には……!』




『なんという激闘、なんというレース……いやあ、すごかったですね、山本さん』


『はい、最後の最後でクレイジーが競り勝つ結果とは……ホワイトリベンジもそうですが、クレイジーの鬼気迫る最後の末脚は目を見張るモノがありましたね』


『個人的にも、歴史に名を残す一戦に……っと、おっと、これは……伊藤騎手、ウイニングランを途中で切り上げて戻って行きましたね』


『これは……詳細は分かりませんが、もしかしたら怪我をしたのかもしれません。あの激走です、負傷していてもおかしくはありませんよ』


『これは心配ですね……この後で引退式が行われますが、無事なのかが気になるところです』



 …………。


 ……。


 ……。



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