第83話 見出した勝機

 「かける……大丈夫、なのか?」


「大丈夫みたいです、手加減はいりませんよ!」


「あ、ああ……」

 

 翔の返事に安堵あんどを覚えるれいだが、彼女の中の疑問はぬぐい切れていなかった。


 麗は見ていた。翔が後方へ回避した先に電撃が飛んできたのを。

 だが言葉を発する時間はなく、そのまま翔に直撃したと思った。


 その時、は起きた。


 翔に当たる寸前で電撃は一瞬黒く染まり、次の瞬間には消え失せていたのだ。


(あれは、翔が【ミリアド】を形状変化させる時に一瞬出現する黒のオーラだ。一体何がどうなったと言うのだ……)


 剣を前方に構えている麗だが、目の前の相手に集中し切れていない。

 そうなれば、完全な互角だったはずの両者の均衡は崩れる。


「──! ぐっ!」


 翔の詰めに麗の反応が一瞬遅れた。

 この二人の間ではほんの少しの遅れが命取りだ。


「うおおおっ!」


(これは──!)


 翔が押し込む態勢のまま<スキル>を繰り出すことを察知した麗。

 そして同じく<スキル>を用いることで対処を試みる。 


三剣刃トゥリア・ラミナ

三剣刃トゥリア・ラミナ


 お互いに繰り出すのは自身で二番目の威力を誇る三連撃<スキル>。


 各々の四連撃<スキル>は威力が高い代わりに、より長い溜めの時間を要するため、翔は技の出が早いこちらを選択。


 麗も瞬時の状況判断から、翔の発動<スキル>を読み切った攻防になった。

 だが、


(!? なんだ! 一撃一撃が、重い!)


 麗が後方にのけっているとはいえ、明らかに翔の攻撃が重くなっていることを直接感じる麗。

 押しているのは翔だ。


 カァァン! 


「くうう……!」


 <スキル>の最後の一撃が交わった時、麗は大きく吹き飛ばされる。


「ふう」


 翔が見出した可能性は確信に変わる。


(今の【ミリアド】は『魔法』を帯びている)


 通常、人が剣で『魔法』を受けようとすれば、弾くかダメージをもらってしまう結果となってしまうだろう。


 しかしこの【ミリアド】は、形状変化の要領で一部が『魔法』にまでなろうとした。そうして電撃を飲み込み、再び一体化した【ミリアド】は『魔法』を帯びている。


 現状、正確な理屈は分からない。

 だが、偶々たまたま起きた現象は翔に好機をもたらした。


(となれば……)


 翔は戦線を引く。

 

「!?」


 優勢と言えども、麗ほどの相手がこのまま押し切らせてくれるとは思えない、そう考えての行動である。


(勝敗を分けるのは、『魔法』だ!)


 麗さんに勝つため、三年AクラスAチームに勝つため、翔は仲間の元へ下がる。

 信じてはいるが、もし『魔法』の役割を担うが倒れてしまえば、せっかく見出した勝機がなくなってしまうからだ。


 翔が引いたことに麗は驚くが、彼女の心境としてはラッキーだ。

 しかし、麗はここで素直に引かせてしまったことを後悔することになる。




 一方で、華歩かほ百桜さくら妖花あやかの激しい『魔法』のぶつかり合いは続く。


「くううう!」


「威力は申し分ない。けど!」


「!」


「持久力が無かったね!」


 ここにきて華歩の『魔法』が一気に押される。


 互いの『魔法』の威力にそれほど大きな差はない。

 それでも駆け引きや勝負所など、これまで多くの『魔法』使いと戦闘をこなしてきた経験の差から戦況が一気に妖花に傾く。


(ダメ、このままじゃ……!)


 華歩の寸前まで妖花の雷の球は迫る。

 そんな仲間のピンチに駆けつけるのは当然、翔だ。


「『上級魔法 豪火炎』」


 華歩の後方からさらに大きな火の球が放たれる。

 勢いのまま妖花の雷の球と衝突した二つの『魔法』は、轟音を立ててされた。


「かーくん!」


「相殺だって!?」


 『魔法』の激突ではなく相殺。妖花は驚きから思わず声を上げる。

 相殺には相手と同等以上の威力であることはもちろん、それ以上の把握能力や深い知識、何より熟練度が必要となる。

  

 翔は華歩のこれ以上のMP消費を防ぐため、一度相殺することによって『魔法』のぶつけ合いを断ち切った。


「翔!」

天野あまの!」


 翔が華歩の元に戻ってきたことに合わせ、夢里ゆり豪月ごうつきも一度戦線を下げて集まってくる。

 彼女ら二人は、華歩の邪魔をさせないためにサポートの男子二人を牽制していた。

 サポート要員とはいえ、前線に出てくれば強いことを感じていたからだ。


「それで、何か作戦があるんでしょ?」


 全体に指示を出すのはあくまで翔であるため、わざわざ戻って来た意味がある事はすでに共通の理解だ。


「ああ。理由は後で説明する。今はとにかく言うことを聞いて欲しい」


 時間もないため、翔は理由をすっ飛ばして最小限の言葉で伝えた。


「華歩、おれに『魔法』を放ってくれ」

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