第43話 乗り越えた先
すう、はあ。
「まだ動くんじゃないよ!」
「いっ!? は、はい……」
先生に注意され、起き上がらせようとした姿勢をもう一度寝る態勢に戻す。
「まったく、君は体を酷使しすぎ。勇者だかなんだか知らないけど、限界なんてどころの騒ぎじゃななかったんだから。感謝しなさいよ」
「はは……す、すみません。わかりました」
はあ、とため息をついて再び真っ白な天井を眺める。
おれは、白衣がよく似合う若い女性の保健棟の先生、ヒーリ先生とこの部屋で二人だ。何か始まるとかそうゆう意味ではない。有名なダンジョン研究家であり、この学校の保健棟の総責任者であるこの人から直接治療を受けたのだ。
先程までの激しい動悸の原因は、<ステータス>の限界を超えた動きの反動によるものだった。幸か不幸か、おれの勇者時代の力は長く持たなかったため、反動もそこまでひどくはならなかった。
たとえ<スキル>を知っていようと使える体がなければ宝の持ち腐れだ。
改めて<ステータス>、そしてレベルを上げることの大切さが分かった。
「後はあの子達ね。眠っていた子は一応大事をとった形で運ばせたけど、
「そう、ですね…」
あの化け物を倒した後はフィの先導もあり、
問題は、ここではなくさらに高度な治療を受けるための“高度病棟”に運ばれた
────
「その傷はどうした!」
「先生、清流さんの出血が止まらないんです! 今すぐ学校へ運んでください! それとかー……
第16層の
おれの様子がおかしい事に気付いたのか、華歩が率先して状況を伝えてくれた。
ちなみにフィは、転移する直前に「もうダメ」と言っておれの中にしゅんと入っていった。感知能力が高すぎるばかりに、化け物の魔素にやられてしまったのかもしれない。
フィも感知能力を全開にして進んでくれたわけだし、感謝しないとな。
「出してください!」
緊急車両の職員さんが声を出す。
麗さんとシンファと共に学校所有の緊急車両に乗せられ、このまま治療を受けながら専用道路で学校に直行するみたいだ。
「翔、今はゆっくり休んで。私たちもすぐに行くから」
「かーくん、無理はしなくて良いから。君もすごく苦しそうだよ」
二人にはバレてたか。最後まで格好をつけられたら良かったんだけどな。
────
それで目覚めればこの天井だったんだよな。
おれは後は安静にしてるのみで良いらしいが、とにかく麗さんが心配だ。シンファにも聞きたいことがたくさんある。二人とも、頼むから無事でいてほしい。
コンコン。
「はい、どうぞ」
扉を鳴らす音に反応して、ヒーリ先生が応える。入って来たのは華歩だ。
「かーくん! 体調は? もう大丈夫?」
「うん、おかげさまでね。後は安静にしていろだってさ」
おれの報告を聞いた華歩の顔は明るくなる。
「良かった! それとね、麗さんが目を覚ましたよ」
「本当か!」
麗さんは緊急車両からずっと眠っていたが、無事だったみたいだ。
「ダメよ」
麗さんに会いに行こうと起き上がろうとしたところを、またヒーリ先生に止められる。
「今日はとにかく横になっていなさい。
保健棟を利用したこともない、まだ入学したての一年生の顔と名前がもう一致しているのか。こう見えてちゃんと生徒の事を考えてくれているのかもしれない。
「あ、はい。麗さん、眠っていただけで特に異常は無かったみたいだよ」
え?
「それ、本当か?」
「え、う、うん。本当だけど……どうかした?」
特に異常が無かった? 治療が成功したのではなくて?
まあ、この学校が異常なしと言うならそうなんだろうけど。一応後でフィの奴に直接聞いてみるか。
「いや、何もないよ。とにかくそれなら良かった」
見たところ華歩は違和感に気付いていない。状況が状況だったし、フィの言葉が頭に入ってなかった可能性はある。ここは一旦誤魔化しておこう。
「それとね……」
「どうした?」
華歩が少し言いづらそうにしている。悪い知らせか?
「華歩、大丈夫だよ。しっかりと事実を教えてくれ」
「うん」
おれの言葉に、華歩は意を決したようにこちらを見た。
「シンファちゃん、いたでしょ? 昔のかーくんの仲間だっていう──あ」
華歩は何かに気付いたようにヒーリ先生の方を向く。
「大丈夫だ。軽くだけど先生には話したよ。続けて良いよ」
「そっか、わかった。そのシンファちゃんもね、目を覚ましたの」
「シンファが!」
シンファも無事で本当に良かった。それに、彼女には聞かなければいけない事がたくさんある。目が覚めてくれて良かった。
おれの言葉にこくりと頷く華歩。だが、先ほどまでの明るい表情は無い。
「それで……なんだけどね」
「う、うん……」
一体なんなんだ?
「シンファちゃんの記憶が無いの」
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