第29話 今、そしてあの日

 第10層ボス部屋。翔のパーティーがあいたいするはボス級魔物【サイクロプス】。

 推定5メートルはあろうかという青緑の体躯たいくに加え、2メートルを超える棍棒こんぼうを片手に、それを力の限り振り回す一つ目の巨人。その姿はまさに破壊の象徴。


「『上級魔法 豪火炎』」


──グオオオォォォ!


 華歩かほが【サイクロプス】の足を目掛けて『魔法』を放ち直撃。“魔導士”のアビリティにより上昇しているその威力の大きさに、【サイクロプス】は膝から体勢を崩す。


夢里ゆり!」


「任せて!」


 <急所特定> <三点バースト> <ヘッドショット>


 夢里はかけるより教わった銃系<スキル>で体制が崩れた【サイクロプス】に追い打ちをかける。今となっては、夢里が無意識にトリガーを引くことが出来る<スキル>のセット、彼女なりに言うなら「いつものやつ」だ。


 地面に固定したスナイパーから放たれる正確無比な夢里の三発が、【サイクロプス】の顔の大半を占めるその大きな一つ目を貫き、視界を奪った。


──グオオオアアアァァ!!


 怒りが頂点に達した【サイクロプス】は視界を奪われながらも、ぶおんぶおんと轟音ごうおんを立てながら巨大な棍棒こんぼうを振り回す。彼らを寄せ付けないつもりだ。


「かーくん!」

「翔!」


 振り回す攻撃にも臆することなく突っ込んでいく翔に後方から声がかかる。


(任せとけって!)


 <瞬歩> <攻撃予測> <受け流しパリィ


 翔は自身をかする攻撃に対しては剣で一瞬はじくことで軌道をずらし、速度<スキル>と予測<スキル>を用いて最短距離で懐に突っ込んでいく。


「くらえええ!」


 【サイクロプス】の崩れた膝から肩へと軽快なステップで登っていった翔は、勢いのまま上方にジャンプ、【サイクロプス】の頭上、宙から<スキル>を発動させる。


十字刺突一閃クロス・オーバードライブ


 宙から十字に斬撃を飛ばし、硬い皮膚をえぐる。そしてそのまま十字の剣筋が交わったところを目掛け、綺麗なだいだいに輝く剣を上空から突き差した。

 翔の突き差した剣先、およそ5メートルの【サイクロプス】の頭上から地上に眩しい一閃が走る。


──グ、オ、オァ……


 ずしーん! と大きな音を立てて【サイクロプス】は倒れた。


「やったあ!」

「さっすがー!」


 女子二人がキャッキャしている。


「お疲れ、二人とも。これで第10層突破だな。国探の試験前に超えれて良かったよ」


「そうだね、試験はもうすぐ。だから勉強も頑張らなくちゃね」


「べ、勉強かあ……」


「翔は筆記の試験だけ超えれば後はきっと余裕なんだから! ちゃんと頑張りなよ」


「へいへい」


 そんな会話の中、探索者にとって嬉しいメッセージが三人の前に流れる。


≪レベルアップしました≫


「やった、レベルアップ!」

「私も私も!」

「お、おれもだな」


 ダンジョンには第5層、第15層……と一桁台が5の層には中ボス級魔物、第10層、第20層……と10の倍数ごとの層にはボス級魔物が出現する。


 彼らにとって初めてのボス級魔物【サイクロプス】を倒した経験値はかなり大きく、倒したと同時に三人のレベルが上がった。


「さーてどのぐらい上がったかな」


「いいよねえ、全パラメータが上がるなんて」


「そうだよ、ずるいよ。自分だけ“覚醒職アルティメットジョブ”なんて」


 女子二人は翔の職業ジョブにぶーたれている。


「じゃあ、二人とも無職業ノージョブとして十五年惨めな思いするか?」


「それは……ねえ?」

「普通に嫌だけど」


「このやろっ!」


「やばい勇者様が怒った」

「逃げろー」


(まったく。……そうか、気が付けばこの職業ジョブしてから結構立つんだな。当時は、まあ驚いたな)


 翔はあの日、彼の職業ジョブが判明した日をふと思い出す。

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