第25話 進む先

 国立探索者学校。特に受験生からは“国探”と略されることが多い。

 国探はその名の通り、“探索者”やダンジョン産業に関わる者を育てる学校である。


 ダンジョン出現以降、それが現代文明に与える影響の大きさから、国内では迅速にダンジョンへの取り組みが行われた。その一環が、“探索者学校”の設立である。


 今では全国にいくつも存在する探索者学校だが、“国立探索者高校”と言えば多くは東京に存在するこの学校を指す。他の探索者学校は、国内で初めて出来たこの学校と区別するため、初めに地名を加える場合が多い。


 国立探索者学校には、“探索科”、“産業科”、“研究科”の三学科が存在する。

 その中で、花形はもちろん“探索者”を養成する探索科だ。探索科志望にとって、国内でも一番の入学難易度を誇るこの学校の探索科で学ぶことは夢である。


 産業科・研究科は“探索者”が持ち帰ったものを経済的、もしくは研究材料としてどう扱うかを学ぶ学科だ。もちろん国立探索者学校であるため、こちらもかなりの入学難易度を誇るが、やはり探索科の注目度には一歩及ばないのが現状だ。



 





「あー、クラスの連中が話してたあれか」


 帰り支度を済ませ、後は帰るのみとなっていたが、おれの一言からもう少し話す流れになる。

 国立探索者学校についての話だ。

 

「わたしはずっと行きたいって思ってたよ。だから、ダンジョンに潜り始めたのも認可が下りる中学三年生になった時からだよ。平日は部活動があったけどね」


 華歩かほは部活をしながら半年も前から……。


 探索者学校の事もだが、つくづくおれはダンジョンについて何も知らない。よっぽど情報を見ないようにしてたんだな。

 今になって、あの曲がり切っていた性格を後悔している。


「私も中学三年の五月ぐらいには潜り始めてたかな。嫌われ職業ジョブではあるけど、なんだかんだ狩りは楽しかったし。自分一人でもそれなりに戦えるようになりたいって思ったのが、そこを目指すきっかけかな」


 夢里ゆりもか。みんなしっかりしてるんだな。レベルがおれよりそれなりに上だったのも、しっかり先を見据えて動いていたってことだよな。

 おれだけか、遅れていたのは。


「てっきりかけるも国立探索者学校を受けるって思ってたよ。早とちりだったか」


「まあ、そこに行かないからってダンジョンに潜れなくなるわけではないからね。かーくんはかーくんなりに、ゆっくりと考えたら良いと思うよ」


「じゃ、そゆことで!」

「うん、今日もお疲れ様」


 女子陣二人は帰りの電車へと向かった。


 おれのしたいこと、か。


 異世界から帰還した後、憧れのダンジョンへ挑戦して、女の子ともパーティーを組んで、ずっと夢の中みたいだった。


「進路かあ」


 そんな夢の中から、一気に現実へと引き戻された感覚だった。







 国立探索者学校ね。確かに興味はあるな。


 あまり好きではない学校も、ダンジョンの為の学校なら良いこと尽くしじゃないか? それに、大のダンジョン好きな母さんならきっと喜んでくれるだろう。


 進路の事は考えないようにしていたけど、なーんだ。そんな学校があるならそこで良いじゃん。正直落ちるとも思えないしな。夕食時にでも話してみるか。

 家路の中でおれはすっかり楽な気分になっていた。悩んでも仕方がないしな。






 食卓の席、地方で単身赴任をしている父さんを抜いて、いつものように二人で夕食を食べている時にふと考えていたことを話してみる。


「ねえねえ、母さん。おれ、国立探索者学校に行きたい」


「!」


 どうだ、母さんも嬉しいだろ。息子が誇り高き国立探索者学校の生徒だぞ。それも合格間違いないなし!


「翔……よく聞きなさい」


「うんうん」


 さーて、どんなに喜ぶかな。


「ダメよ。母さんは反対だわ」


「……えっ?」


 思っていたのとはまるで逆の反応。

 意味が分からなかった。

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