第6話 昼2 出発1
冒険者ギルドの受付カウンターで依頼の説明を受ける男女三人組みがいた。
一人は白いシャツとベルトもついていない薄茶色の簡素なズボン、ゴムサンダルを履いている目つきの悪い猫背の不健康そうな黒髪の男――レウ・ルックスで、ポケットに両手を突っ込んだまま、受付の女性の説明を受けている。
もう一人は白いブラウスの上に黒いレザージャケットに黒いレザーパンツ、茶色のレザーブーツを履いている眼鏡を掛けた女――イザベラ・ドーチンで、両手には黒い指貫グローブを装着し、長い髪は赤黒い色でポニーテールにしている。
最後の一人は長い魔法の杖を抱えた背の低い少女――マーリンで、薄ねずみ色のローブを着てフードを被っており、ピンク色の髪が隙間から覗いている。
受付の口元にほくろがある眼鏡をかけた金髪のお姉さんが、ゴムサンダルを履いて目つきの悪い猫背で不健康そうなレウと、指貫グローブをはめた黒いレザージャケットとレザーズボンの眼鏡を掛けたイザベラと、長い魔法の杖を抱えるピンク髪で薄ねずみ色のローブを着たマーリンに、今回の依頼の説明をする。
受付の金髪のお姉さんが妖艶な唇を動かし、カウンターに置いた地図を指差し、口を開く。
「ここが今回、情報を入手した場所で、レウさんたちに行っていただくソーモンの秘密ギルド<はないちもんめ>の隠し拠点です。都市ロードネスから海に向かって南西約六百キロまで伸びている<ベース街道>を、中間地点の分かれ道で<ヨモツピラー大山脈>に向かって西を進みます。そのまま森の中の道を真っ直ぐ進むと<イニテム村>に着いてしまいますが、途中でさらに森の中へと入っていく南に向かう分かれ道があり、そこに入ります。もし間違って<イニテム村>に着いてしまったら引き返して森の中を南下する道を探してください」
薄茶色の簡素なズボンのポケットに手を突っ込んだままのレウが、口を開く。
「森の中の道を真っ直ぐ行って<イニテム村>に着いたら間違いってことでいいんだな?」
受付の口元にほくろがある眼鏡をかけた金髪のお姉さんが、こくりと頷いた。
「目的地へ南下する道は<ベース街道>と<イニテム村>の中間にあることだけ覚えておいてください。目印は分かれ道で<イニテム村>への案内看板とは逆の道を入っていただければ良いと思います」
受付のお姉さんが地図上の<イニテム村>と書かれた村の絵を指差し、そこから森の中の絵が書かれた地点の右下へ指をずらしていき、口を開く。
「目的地の森の中に、古代の遺跡跡があります。元は城だったボロボロの石材、石柱がそこらじゅうに散らばっている広めのエリアがあります。今回、そこがソーモンのギルドの隠し拠点となっている可能性が高いです」
受付の口元にほくろがある眼鏡をかけた金髪のお姉さんが、地図の森の中を指差し、言った。
「情報の信頼度は高いかと思われます。なので今回、ギルド内でもランクが高く実績もあり、ソーモンギルドとの戦闘経験も豊富なレウさんたちにお願いしたいのです」
薄茶色の簡素なズボンのポケットに手を突っ込んだままのレウが、受付の金髪のお姉さんに訊く。
「それで、偵察か、そのままぶっ潰すのか、どっちなんだ?」
「それは、今回の現場を見たあなたたちの判断に任せます。放っておくと拠点に人員を補充されて近くの<イニテム村>や<ベース街道>にも被害が及ぶかもしれませんので、必要なら潰してください」
受付の口元にほくろがある眼鏡をかけた金髪のお姉さんが、地図を差し出す。
薄茶色の簡素なズボンのポケットに手を突っ込んでいたレウが、右手をポケットから出して、その地図を受け取った。
レウは無言で顔も見ず、その地図を右隣の黒いレザージャケットを着たイザベラに渡す。
指貫グローブをはめているポニーテールのイザベラは、その地図を受け取って折りたたみ、黒いレザージャケットの内ポケットに仕舞った。
ズボンのポケットに再び手を突っ込んだレウが、口を開いた。
「往復だけで一週間はかかりそうだな。こりゃ、学生祭には間に合いそうにねぇな」
受付のお姉さんが頭を下げると、開いた胸元から大きな胸の谷間が覗く。
「申し訳ありません。重要度の高い急な依頼だったので……。行きの<ベース街道>の中間までの馬車の手配はご用意してあります」
「それなら一日は短縮できるな。だが、拠点もすんなり見つかるとも思えねぇ……」
猫背のレウが続けて言う。
「まぁ、学生祭に関しちゃ俺達は人の多いところは元から興味ねぇし」
受付のお姉さんがカウンターの下から、ポーションの入った木の小箱を取り出し、それをカウンターに置いた。
「今回の支給品です。回復ポーション三つと解毒ポーション三つ、魔力回復ポーション二つです」
レウが両手を薄茶色のズボンのポケットから出し、その小箱を両手で受け取って、腹の前で抱え持つ。
受付の眼鏡をかけたお姉さんが、再び大きな胸の谷間を見せながら頭を下げる。
「お気をつけて」
指貫グローブをはめた手を軽く上げて、イザベラが受付に返事を返す。
背の低いピンク髪の薄ねずみ色のローブを着たマーリンも、軽く受付にお辞儀をする。
両手で小箱を重そうに、だらん、と股間の前で抱え持ったままのレウは、何も言わずふらっと振り返り、歩き出した。
受付カウンターから離れて、冒険者たちが待機するフリースペースへと三人は移動する。
背もたれのないベンチの前に長方形の八人掛けの大きいテーブルが五台と、簡素な椅子が用意された四人掛けの丸テーブルが複数設置されている。
他には丸い背もたれのない椅子が設置された一人用のカウンター席もあり、見渡すと昼間の時間でも大きい長方形のテーブルや丸いテーブル、カウンター席にも冒険者が全員合わせて八人ほど、疎らに座っていた。
ポーションの入った小箱を重そうに股間の前で抱え持ったままのレウは、フリースペースに入るなり、一番手前の八人掛けの長方形の大きいテーブルに小箱を置き、再び両手をズボンのポケットにしまい、大股で背もたれの無いベンチを跨いでそこに座った。
黒いレザージャケットを着たポニーテールのイザベラと、杖を抱えるピンク髪の薄ねずみ色のローブを着たマーリンは、揃ってレウの対面に座る。
指貫グローブをはめた眼鏡をかけたイザベラは、テーブルの上のポーションが入った木箱を引き寄せると、中からポーションを全て取り出し、テーブルの上に並べて振り分ける。
「マーリンは魔力回復ポーション二つと回復ポーション一つと解毒ポーション一つ。あとは全部わたしだ」
薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンは、目の前に差し出された青い液体の入った魔力回復ポーション二つと、緑色の液体の入った回復ポーション一つと、紫色の液体の入った解毒ポーション一つを、順に肩から提げたレザーのバックに仕舞っていく。
眼鏡をかけたポニーテールのイザベラは、自分の取り分の残りのポーションを腰につけている大きいアイテムポーチに仕舞っていく。
アイテムポーチのポーションを仕舞い終えて、眼鏡を掛けたポニーテールのイザベラが口を開く。
「よし、もういいよ」
白いシャツを着てベルトの無い簡素なズボンを履いている不健康そうなレウが、それを聞いて言った。
「とりあえずメシだ。メシいくぞ」
三人は席を立ち、テーブルを離れる。
白いシャツを着てベルトの無い簡素なズボンを履いている不健康そうなレウは、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま蟹股でギルドの出入り口の扉まで歩き出す。
薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンも、彼の背後に着いて扉に向かい歩いていく。
黒いレザージャケットを着たポニーテールのイザベラは、テーブルの上の空になった木箱を持ち、一人で受付カウンターの横に設置されている木箱の返却口へ向かい、空の木箱をそこへ置く。
簡素な薄茶色のズボンのポケットからレウが右手を出し、扉の取っ手に手をかけた頃に、背後の受付カウンター方向からポニーテールのイザベラが小走りで向かってきて合流した。
レウが重厚な木製の扉を引き開け、冒険者ギルドを出て行く。
続いて黒いレザージャケットとレザーパンツをはいた指貫グローブのイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンも、ギルドから出て行く。
三人の背後でギルドの扉が自然と閉まる。
五段ほどの階段を下りて、簡素な薄茶色のズボンのポケットに手を突っ込んだレウと、指貫グローブをはめた眼鏡をかけたポニーテールのイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンは、一度そこで横並びで立ち止まる。
周囲を見渡し、レウが口を開く。
「あぁ? なんだありゃ?」
自分たちの左手の方向、『隣のメシヤ亭』から男が飛び出してきた。
ズボンに手を突っ込んだままのレウが目を凝らすと、頬に大きな傷のある男が血相を変えて、自分たちに向かってくる。
『隣のメシヤ亭』のドアからひょっこり顔を出した、聞き覚えのあるウエイトレスの少女の声が響き渡る。
「く、食い逃げだー!」
店から飛び出して疾走する頬にキズのある男が、ズボンに手をぷ突っ込んだままのレウと、指貫グローブの眼鏡をかけたイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪の長い杖を抱えるマーリンの、三人の前を横切る。
男が通り過ぎるその瞬間、目にも止まらぬ速さで、猫背のレウがポケットから右手を抜き出し、通過しようとした頬にキズのある男の後頭部を鷲掴みにしていた。
男は理解する隙もなく、体が宙を舞い、綺麗に背後に一回転して、うつ伏せになったまま地面に顔面を叩きつけられていた。
一瞬すぎる出来事で、訳も分からず呆けた顔をする頬に傷のある男。
右手で後頭部を鷲掴みにしたまま、傷のある男の顔を地面に押し付けるレウ。
「食い逃げなら皿洗ってからにしな」
と、低い声で頬に傷のある男に吐き捨てる。
そこへ、お店からウエイトレスの少女――リア・グレイシアと、お店の店長のエプロンを着けゴリラのような太い筋肉のスキンヘッドの大男――ダニエルが走り寄ってきた。
「ありがとうございます」
と、ウエイトレスのリアが頭を下げた。
軽い鎧と兜を被った槍を持つロードネス警備兵も駆けつけた。
「何事ですか」
と、警備兵が口を開き、頬に傷のある男を取り押さえる。
白いシャツを着たレウが傷のある男から手を離し、再び簡素な薄茶色のズボンのポケットに右手を突っ込む。
ウエイトレスのリアが、傷のある男を取り押さえる警備兵に言った。
「食い逃げです」
そういうことですか、と警備兵が聞き入れて、傷のある男を立ち上がらせ、手に持った鉄製の手錠を男の両手にかけた。
ゴリラのような体格のスキンヘッドの店長が警備兵に言う。
「まぁ、被害届は今回は出すきねぇから、適当に追い払っといてくれ」
「はぁ、そうですか」
と、警備兵は軽く頷き、手錠をかけた顔に傷のある男の背中を叩き、歩くように促す。
傷のある男は肩を落とし、とぼとぼと、詰め所まで警備兵に連れられて行った。
その背後を見守り、ゴリラのような体格のスキンヘッドの店長が、ウエイトレスのリアに言った。
「リア、今度から常習じゃない食い逃げはほっといていいからな。追いかけるとお前が危ない」
「はい、すみません……」
なぜか謝るウエイトレスのリアを、ゴリラのような体格のスキンヘッドの店長が、謝ることじゃねぇよ、と言って笑った。
お店に帰っていく二人を、簡素な薄茶色のズボンのポケットに手を突っ込んだままの猫背のレウと、眼鏡をかけたポニーテールのイザベラと、薄ねずみ色のローブを着たピンク髪のマーリンは、見届ける。
「ここで食い逃げとか、珍しいじゃねぇか」
と、ボソッとレウが呟いた。
三人も仕切りなおし、『隣のメシヤ亭』に向かった。
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