私はにいさまの妹ですよ⑦


「でもにいさま、その部員の方は何のためにこんな仕込みをしたのでしょう?」

「そうだなあ、理由はいくつか考えられるけど……」


 一番あり得るのが、僕のような何も知らない文芸部員を試すためというものだ。

 通過儀礼。イニシエーション。

 そういう単語が思い浮かぶ。


 考えてみれば、あの部には新入部員歓迎会のような催しがまったくなかった。僕が二年生の転校生で中途半端な時期に入ったというのもあるのだろうが、せいぜい夜見嶋よみしま先輩の個人的な創作ハウツー談義があったくらいだ。


 しかし、ほとんど幽霊部員ばかりの部とは言え、部の活動紹介も何もないというのは、いくらなんでも不自然じゃないだろうか。部員がいない廃部寸前の状態とかならともかく、あの文芸部にはそれなりの人数が在籍していたはずだ。

 では、本当に新入部員向けの催しをしていないのか?

 そこで、登場するのが――このUSBメモリだ。






「このUSBメモリが……新入部員に向けたものだと?」

「うん。僕の想像だけど、このテキストファイルは新歓代わりの先輩方からのある種の洗礼のようなものなんじゃないかってこと。要するに、僕は先輩たちにからかわれたんだよ」


 証拠らしいものはいまのところ何もないが、可能性は大いにあり得る。

 それに、小説を読んでいたら小説のようなおかしな現象が起こるなんて、いかにも推理小説やホラー小説を好む人間が考えそうなことではないか。


 多少違うところはあるかもしれないが、だいたいはそういう事情なのではないだろうか。そうでもなければ、他に小説のデータにこんな凝った仕掛けをする理由があると思えない。

 僕はパソコン画面を眺めながら、次に部室で先輩に会ったらどうやって文句を言ってやろうかと考え始めていた。

 のだが、


「――――ですが、本当にそうでしょうか?」

「……えっ?」


 見ると、妹が僕の横で小さく笑みを浮かべている。

 その嬉しそうな微笑みにどこか不穏な気配を感じ、僕はにわかに動揺する。



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