やっと思い出してくれましたね、にいさま②
そんなゆるゆるな文芸部の中でも
先輩は文芸部内でも特に筆が速く、いままでにも長編作品を何度も部の文集に載せている。
そして、部活として執筆するだけでは飽き足らず、定期的に新作を書き上げては僕を呼び出し、そのたびにこうして作品の評価を請うのだった。
「私はきみの審美眼は信用に値すると思っているのでね」
以前にそんなことを言っていた。
だから、僕が先輩の原稿を読むのは今回が初めてではない。二年次からの転校生で、この春になって途中入部してきた僕のことを、先輩がどうしてそこまで気に入ってくれているのかはよく分からないが……。
――そういえば。
と、僕は思い出す。
僕が最初にこの部室に来たときも先輩は小説を書いていたっけな。
あれは、四月前半の頃。
二年生になってすぐの日のことだった。
転校してきたばかりの学校で、僕は右も左も分からずにいた。
見知った友人もおらず、頼れる人間もいない。
その日の僕は、せめて学校内の様子だけでも把握しておこうと放課後の校舎をうろついていた。
古い学校だった。
田舎の学校だとは思っていたが、生徒の総数もあまり多くはないようで、いくつか教室を覗いてみた限りでは居残っている生徒もまばらだった。
そのくせ校舎自体はやたらと広い。増改築を重ねてきたせいか古い建物と新しい建物とが組み合わさっていて、どこがどこへつながっているのかもパッと見では分かりにくい。複雑な造りは何か意図のある構造のように思えなくもなかったが、流石に考えすぎかもしれない。
そんなことを思ってふらふらとさまよっているうちに、僕は新校舎から部室棟のある旧校舎へ迷い込んでしまっていた。足元を見ると、樹脂製の床は板張りの廊下に変わっていた。
部室棟には、主に文化系の部室が並んでいた。
僕は考える。
そうか、部活か。
早めに学校のコミュニティに溶け込むならば、適当な部活に所属してみるのも悪い手ではないかもしれない。
しかし、こんな中途半端な時期の新入部員を受け入れてくれる部活などあるだろうか。入部できたとしても、アウェイな感じになるだけなのではないだろうか……。
まあ、入部前からそんな卑屈な想像をしていても仕方がない。僕はいくつか部室を見て回ってみることにした。
「しかし本当に古い学校なんだな……」
踏み出すたびにぎしぎしと音を立てる廊下を歩きながら、僕はつぶやく。
部室棟は静かだった。
木造の校舎の中に埃っぽい空気だけが漂っている。
そもそも活動している部活が少ないのか、ほとんど無人に近いと言っていい。
しかし他にやることもない僕は、侘びしい静寂の校舎の探索を続けた。
すると、やがて廊下の奥のほうの一室から物音がすることに気づいた。
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