怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑭



 あの屋敷がいつ頃からあの場所にあったのか、正確な年代は定かではないという。

 ただもともと、あの屋敷は周辺一帯の土地を所有する地主の家で、当主は代々、土地の管理を行うとともに、その財力に物を言わせて古今東西のめずらしい書物や物品を蒐集してきたのだとか。

 屋敷の珍品蒐集には歴代当主個々人の関心や懐事情によって多少の偏りがあったが、どの時代の活動にも必ず共通する点があった。


 それが、怪談奇談――あやしい話や怖い話にまつわるものだった。


 怪談本や説話集、幽霊画から妖怪の絵巻物まで。

 代々の当主が怪談にまつわる品々を集めているお屋敷。

 それが、時が経つにつれいろいろな逸話や噂話が付加されていき、ついにはあの屋敷自体が怪談を呼び寄せる屋敷――と呼ばれるようになり、現代に至っている――と。


「――でもね。それだけだと、怪奇趣味のちょっと変わったコレクターの家系ってだけなんだけど……」

「違うの?」

「うん。怪談屋敷のコレクションには、もっと別の目的があったみたいで」

「別の目的って?」

「それはね……」


 僕と志城ししろさんは学校の前から続く田舎道を二人で歩いていた。

 怪談屋敷のことを知るなら実物を見てもらったほうが早いという志城さんの提案を受け、僕と彼女はこの町に伝わる「怪談屋敷」に関係する地名や史跡を実際に見て回ることにしたのだった。

 学校を出て、畑と住宅地を横断し、駅前を通り過ぎる。

 町の中央通りを渡ったところで一度地図を確認し、僕は志城さんからこの町全体の大まかな地理を教えられていた。







「確かに怪談屋敷に集められていたのは、あやしい話や怖い話にまつわるものばかりだった。だけどそれは単なる趣味のために集めていたんじゃなくて……この町を守るために集められていたっていうのね」

「この町を、守るために……?」


 また随分と大きく出たな。


「そう。私が知ってる話では――と言っても、この町の郷土の本を読むと普通に書いてあることなんだけど――怪談屋敷は怪談を集めることでこの町の守り神的な役割を担っていたんじゃないかっていう話だった」

「守り神?」

「何て言うか……ある種の魔除けっていうのかな。とにかく昔から怪談屋敷の当主は、この町を守るおまじないか魔法かは分からないけど、なんかそういう目的で妖怪や幽霊の話を集めていたらしいのね」


 魔除けのために怖い話を集める……。

 なんだろう、どこかで聞いたことのある話のような……。

 ……なんだっけ?




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