怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑪
完全に油断していた。うっかり気の抜けた声まで出してしまった。
僕の中で構築されかけていた
「えーと。誰でもだいたいあんな感じって、どういう意味?」
「言った通りだよ? この学校では……というよりも、この町であの怪談屋敷の噂を知らない人はいないからね」
そうだった。僕は怪談屋敷の話を聞くために志城さんについてきたのだった。
志城さんの関心もその怪談屋敷とやらの件についてなのだ。断じて僕という個人に関心があるのではない。
間違っても楽しく放課後デートをするような流れではなかったことは明白だ。
キャッキャウフフな学園生活を夢想している場合ではなかった。
「滅多に来ない転校生が来たかと思えば、よりにもよってあのお屋敷の人だっていうでしょ? クラスのみんながああいう反応になるのも、まあ無理ないかなって。あんまりジロジロ見るのは失礼だと思うけどね」
「へ、へえ……」
「実際、この町の学校に転校生が来るのってすごくめずらしいことなんだよ? 本当なら転校生ってだけで質問攻めにあっててもおかしくないくらいに」
「質問攻めどころか僕は誰からも話しかけられなかったんだけど……」
「それはあなたが怪談屋敷の人ってみんな知ってたから」
「はあ」
「いくらめずらしくても、自分から燃え盛る炎の中に手を突っ込もうとする人はないからね」
「その理屈だと、きみは自分から炎の中に手を突っ込みにきてる狂人ということになるけど、いいの?」
出会った時点で薄々感じていたけど、どうもこの志城さん、少々変人のにおいがする。
そもそもクラスの誰からも話しかけられず完全孤立している転校生男子にわざわざ接触してくる女子生徒が、普通なわけがないのだ。
「私だってそれなりの覚悟をしてきたんだよ? それでも! たとえ火の中水の中! 目的を達成するには何かを犠牲にしなければならない! やったれ私っ! ――と、そういう思いで話しかけたのですっ!」
「僕に話しかけるのにはそんな決死の覚悟が必要なの?」
僕と会話すると即死するジンクスでもあるのか?
そういう呪いなのか?
固くこぶしを握りしめる志城さんを横目に、僕は頭を抱えた。
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