にいさま、怖い話をしましょう⑦


「私はにいさまと一緒なら、一晩でも二晩でもやぶさかではありませんよ」

「僕が大いにやぶさかなんだよ」

「そんな。私はただにいさまと甘い夜を過ごせればと思って……」


 よよよっと妹はわざとらしく泣き真似のポーズをした。


「妙な言い方をしないでくれ」

「もう、にいさまったら、恥ずかしがっちゃって」

「そういう問題じゃないだろ」

「そういう問題ですよ?」

「……そういう問題なのか?」

「ええ、そういう問題ですよ」


 そうなのだろうか。

 あまりに堂々と主張されると、なんだかそういうふうに思えてくる。

 僕は恥ずかしがっているのだろうか。

 妹を相手に? 恥ずかしいって?





 確かに、妹は身内の僕から見てもかなりの美少女だ。

 しっとりとした長い黒髪と透き通った白い肌。人形のような整った顔立ち。高貴な深窓の令嬢の如き清楚な立ち居振る舞い。

 普段着にしている緋色の着物も、その美しさをよく引き立てている。


「にいさま……? どうかなさいましたか? そんなに私の顔を見つめて……」

 

 こんな絵に描いたような美少女、そこらの同年代の男子が初対面で話しかけようとすれば、多かれ少なかれ緊張したり恥ずかしがったりもするだろう。

 しかし、僕と妹は同じ家に暮らしている間柄だ。緊張も何もない。

 すると、僕の中にある妹に対するこの感情は何なのだろう……。


「……あの、にいさま?」


 この感情もただの恥ずかしさなのだろうか――胸の奥底から湧き起こる、このドキドキとした感じは……。

 はっ。

 もしかして、これが恋ってやつか? 

 僕は妹に恋愛感情を抱いているのだろうか?


「――まさか」

「なにがまさかなんですか? もしもーし! にいさまー? 聞いてますかー?」


 いや、そんなはずはない。

 だって。だって、僕の妹は――……。



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