12

 俺の分として新しいパーカーと、アンダーウェアを購入する。着ていたアンダーウェアは背中の部分が破れ、乾いた血が付着し悲惨な事になっていた。本当によく生きていたな、俺……。

「いち」

「でかした。ニーナ」

 それと、ニーナが見つけた大きなリュックサックに持っていた荷物を移し替えた。まだ余力があるので、ありがたい。


 リュックサックを背負い、隣の店を覗いてみる。その店も、カウンターの奥で、ロボットが数体物言わぬ物体になっていた。その横には、白骨化した誰かの亡骸も並んでいる。

「……」

 その亡骸に手を合わせ、店の中を見る。生活用品の店らしく石鹸などが陳列していて、カウンターの向こうには、人間が使用するであろう武器が落ちていた。

『小銃のようです』

「一応貰っておくか……」

 とはいえ、正直使いたくはないのだが。念のためエイトに安全装置が作動していることを確認してもらい、大振りのナイフも数本貰う。そのうちの一本をニーナに渡す。

「せんとう、ですか?」

 予測できていた言葉に首を横に振る。

「うんにゃ。これは最終手段の防衛用」

「ぼうえい……にじゅうななごうは、じりつがたせんとうせいめいたい、です

 たたかう、めいれい、きく、です」

 武器を与える事は、彼女にとって戦えという命令になるだろう。たった一本のナイフで、彼女は俺のために戦う殺戮人形になる。だから言葉にして伝える。それが必要だと思ったから。

「違うよ。命令じゃない

 ニーナがニーナの意思で、戦いたいと思った時に抜くんだ

 それまで、このナイフは絶対に抜いてはいけない」

「ん?」

「いつかわかるよ」

 そう言って、彼女の頭を撫でる。わからないなりに嬉しそうにするニーナを見てから、エイトにずっと心の奥に引っかかっていたことを吐露するように声をかけた。

「薄々思っていたんだけどさ……俺の言葉を命令として捉えているよな……」

『一花の推測通りかと

 ニーナは一種のインプリンティング……雛鳥が最初に知覚したものを親と思う、刷り込みの状態だと考察します』

「……そうか」

 なら、あの食堂の戦闘で「隠れろ」と「逃げろ」は命令だと認識したのだろう。打ち負かした俺を、命令を聞かなければならない相手と考えて……。

 俺が怪我をした時に離れなかったのも、インプリンティングが要因なら納得がいく。スープを選ぶ、残るかついてくるか……選択肢を選んだのも、選ぶ事を命令として捉えたのなら……。

『基本命令は絶対という猟犬が、人という形をとったのであれば、まさしく彼女の事を指すのでしょう』

「うん……」

『ですが、その絶対的な指令から、僅かばかりの自分の意思で何かを選んだのも、また事実です』

「そう、だな」

 そうでなければ、俺のパーカーはとっくに俺の手に戻っていたはず。

「いち?」

「何でもない。いこうか」

「ん」

 エイトの言葉が事実であってほしいと願い、ニーナの手を引いて歩き始めた。

 目指すは、上層部だ。

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