10

 食事を終え、暫く食休みした後で改めてキッチンの中を漁る。

 フリーズドライのスープがあるなら、他にも食材があるかもしれない。そんな訳でエイトに翻訳してもらいつつパウチを探る。

『一花、こちらはインスタント麺と記載してあります』

「お、ラッキー

 じゃあこっちは?」

『乾燥米と記載してあります』

「よしよし」

 主食があるのならどうにかなる。他にも真空保存された加工肉が発見された(賞味期限の記載がないのが怖いが)。それと調理器具を抱えてキッチンを出る。


『一花』

「わかってるよ……」

 エイトの言葉に頷く。

 ずっと考えていたが、先延ばしにしたって何も解決しない。

 俺の後ろをついて回っていたニーナに手招きする。すると裸足でやって来た彼女は俺の前に回ると、ぴしっと軍人のように綺麗な姿勢で立った。それがどういう意味なのか理解できたが、何も言わずにニーナの視線に合わせるように屈みこむ。

「ニーナ、君はこれからどうしたい?」

「どう……」

「言い方を変えようか

 俺たちについてくるとか、一人で過ごしたいとか……そういうしたい事はある?」

 彼女は見た目こそ十歳程度の少女だが、中身はそれよりも遥かに幼い。だから、選択肢を聞いてみたのだが、彼女は少し戸惑ったような仕草をみせた。

「にじゅうななごうは……にじゅうななごうは、めいれいに、したがいます……」

 たどたどしくも言われた言葉は、人の尊厳を持ったものではなかった。言われたら動くロボットそのもの。自立型戦闘生命体と聞いていたが、まさかここまでとは。

『一花、ニーナは予め命令に従うようにプログラミングされています』

「……」

 お前の意思で彼女に伝えろと、とエイトが言う。命令を聞いていれば怖いことも、恐ろしいことも感じないのかもしれない。ただただ、従っていれば楽なのかもしれない。けれど、それは違うだろうと俺は思う。

「ニーナ、俺がどうしたいかじゃない。君がどうしたいかなんだ

 俺は君の上官でも命令を下す人間でもない。同じ人間として君の意見を聞きたい」

「にじゅうななごうは……」

「大丈夫、ゆっくりでいい」

「あ……」

 言いよどんだ彼女の言葉を根気よく待つ。そりゃそうだ。命令を待つだけの存在だったのに、俺が勝手に変えようとしているのだから、当然悩むに決まっている。ぎゅうっと俺が着ていたパーカーを握り、口を開いては閉じを繰り返したところで、小さな声が聞こえた。

「…………たい」

「え……」

「いっしょ、いき、たい……です」

 そう告げた彼女は、相変わらず無表情だ。けれど、ニーナの意見が聞けたのだからそれでいい。


『これから苦労しますよ』

「うるせえ、俺がルールだ」

 正論を吐いてくる球体にそう返すと、奴はふわふわと浮いてキッチンに向かう。

『集めた食料は一人分です。今からニーナの分を集めなければなりません』

「……」

『何をもたもたしているのですか。あのナップザックには入りきらないのですし、ニーナの服もなんとかしなければなりません。やる事は山積みですよ』

 そう言っててきぱきと作業をし始めた球体。

 ……なんだ、お前もなんだかんだニーナの事が心配だったのか。


 けれど、それは口に出さないでおく。

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