3
部屋を出てから再び歩き始めると、すぐに巨大な扉が見えてきた。今の俺の身長よりも高く、縦横二メートル五十センチほど。その扉の横にボタンがついていて、これがエレベーターだとすぐに理解した。どうやらこのでかさは機械類を運ぶためにあるらしい。
直感で上に向いた矢印のようなボタンを押す。淡いライトが光り「ごうん」と機械が動くような音が聞こえた。暫く待っていると、エレベーターが到着し、ゆっくりと扉が開かれた。
「う……」
だが、そこには――
『これは随分と酷いですね』
白骨化した、性別もわからないような人と、原型もわからない機械の死体たちが転がっていた。酷い臭いこそないものの、こうしてみると自分の置かれている環境がいかにおかしいのか突き付けられ、胃液がせりあがってくるような不快感が身体を支配した。
「くそ……」
だがそれを無理やり振り切って、中に入り込む。扉の横に取り付けられたボタンを見ると、次の下層部までしかないらしい。エイト曰く、最下層と下層部は基本的に移動機関などが多いので搬入用のためだろう、とのことだ。扉が閉じて、少しだけ浮遊感を感じたと共にエレベーターが動き出す。
「……」
そのまま、真横にいる死体に手を合わせた。名前も知らぬ者だが、それでも冥福を祈るべきだからだ。
「本当は埋葬してやりたいけどな」
『難しいでしょうね……』
そりゃそうだ。ここは鉄でできた冷たい場所だ。機械も人も埋葬するには寒すぎる。
エイトの声に頷けば、丁度エレベーターが目的の階層に到着した。開かれる扉に視線を少し動かして――もう一度祈ってから扉へ向かう。
『下層部は、最下層よりも施設が多いと記録しています。医療、住居、売店など……
物資の補充意外でも、武器など見つけられるかと』
「なるほど最下層がインフラとか、実験施設を詰め込んでいるのなら、ここは一般階級の住居って事か」
『肯定。上の階層は主に行政施設があったと記録しています』
エイトの言う事が真実であるのなら、上に行けば行くほど重要なデータがあるという事だ。
「なら、最下層にはなかった物資を補充しつつ、上への道を目指すってのは」
『肯定。それは当個体も考えていました。今の我々は食料はあっても、薬品などは持っていません。不測の事態を考えると、救急医療キットは持っておくべきかと』
先ほどの惨状もだが、警備ボットがすっ飛んでくる可能性もある。はじめの時以来、襲われた事はないが、万全を目指すべきだろう。
「それじゃ、とりあえず医務室を探すかね」
『肯定。場所は推定ですが百メートル先を左折してすぐだったかと』
「りょーかい」
エイトの言葉に頷いて、先導しはじめた球体の後をついていく。ふと、何かの気配を感じて振り返った。
『どうかしましたか?』
「いや……」
だが、あるのは先ほど自分が乗っていたエレベーターの扉だけで、他には何もない。見られている、と思ったが気のせいだったのだろうか。首を傾げ、エイトに何でもないと告げてから再び歩き始めた。
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