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エイトに答えをはぐらかすと、それ以上何も言わず奴は修理を続ける。アームの稼働する音と、時折何か溶接する音が響いて、それもやがて収まると、壁に生えていたアームは元の位置に戻っていった。
ソケットからコンセントのようなものが抜かれ、するするとエイトの内部に格納される。ぼうっとその様子を見ていれば、奴はどういった原理なのか不明だが、さも当然のように浮いたのである。そういえば、反重力制御装置がどうのとか言っていたな……。
『それで、これから如何いたしますか?』
「ん?」
『当個体の修理は完了いたしました』
「あー……」
ふわふわと浮遊するエイトに言われて少し考える。そういえば、エイトを直すという目的は終わってしまった。だったら次は何をすればいいのかなんて――
わからない。と思ったところで、ふとした疑問が浮かんだ。
先ほどのテセウスの船という思考実験……一花という『俺』の個体は認識できている。過去の全てを思い出す事はできないが、一般常識や生活能力はある。
ならば、俺は一体何者なのだろうか。
一花という個体とは、何なのだろうか。
俺は何故あんな場所にいたのだろうか……。
先ほど服を購入した際に自動ログインできたが、あれは一花ではない身体の持ち主のものではないのだろうか。
では、この身体の持ち主の意識は――何処にあるのだろう。
エイトは、記憶に欠落や障害がある可能性があると言っていた。確かにあれだけ眠っていたのであれば、障害の一つも出るだろう。
身体の持ち主の意識や記憶がわからないのも納得がいく。
だったら……
「エイト……」
『はい』
「俺個人の情報とか、移動都市の情報とか、そういったものが見られる場所ってあるか?」
『肯定……上部階層であれば、閲覧できるデータベースがあると推測しています』
「なら、そこを目指すか」
あるのであれば簡単だ。俺ではないこの身体の持ち主について、この世界について知る事ができるだろう。そう思って食料がある部屋に向かって歩き始めれば、何故かエイトがついてきた。
「別について来なくてもいいんだぞ」
そう告げると、エイトは首を傾げるような動作をすると、当たり前のように告げる。
『当個体は自動追尾型支援ユニット、通称コードエイトです
随従し、他者を支援をするのが当個体の役目です。一花はどうやって上層部まで行くのですか? 地理もなければ、行き方もわからない。無謀にもほどがあります
……つまり、一花の案内を買って出ると言っているのです』
「あぁ、そう」
世間ではツンデレと言われそうなエイトの言葉に思わず笑ってしまう。
確かに、俺一人でできることなどたかが知れているし、案内役がいてくれた方がいい。そう思って手を差し出せば、エイトは同じようにマニピュレータを伸ばしてきた。そのまま握っても、無論機械ゆえに温度は感じない。でも、それでもよかった。
「わかった。案内よろしくな」
『承知いたしました』
こうして俺が何者であるのか、という冒険は幕を開いたのである。
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