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 そこには、黒い人型を模したロボットが立っていた。

 いや、立っていたという表現は少し異なっている。地面から十センチほど浮いていて、手の部分であろう場所に銃器が生えているかのように取り付けられていた。足は草食動物のような蹄を模していて、顔はフルフェイスヘルメットのようにつるりとした無機質さ。


「なっ」

『推測、警備システムより、警備ボットが呼ばれた模様

 一花が目覚めた際に機動し、外に出ようとしたところで襲来したようです』

「先に言ってくんね!?」

 おかげでこちらは危うく死ぬところだった。思わず悪態が漏れたが、まずは目の前の敵をどうにかするしかない。再び発射された銃弾を右に跳んで避ける。跳弾の心配があるが、金属製の床に穴が空くのを見るに、銃弾の勢いが強いのかもしれない。


 慌てて攻撃を避け続けているが、何か違和感を感じる。

 あれだけ勢いのある銃弾なのだから、普通ならとっくに撃たれて死亡していただろう。だが、何故かわからないが、軌道、確度、速度……その全てが何処からくるのか手に取るようにわかる。即座に計算して避けている、というよりも最早これは直感だ。

 だから、その直感に従って駆ける。


 やってきた弾丸を横に避け、跳躍し勢いそのままにロボットを蹴り飛ばす。扉の向こうにある壁に叩きつけられた奴は、それでもとこちらに照準を向けてきたが、俺はすでに自分の間合いに入っていた。


「おるぁっ!!」


 ほとんどやけくそに、ロボットから生えていたコードを掴んで引っ張る。バキバキと嫌な音が聞こえたが、命が掛かっているのだから躊躇もしていられない。数本の太いコードが抜けて、ロボットの機動力が弱くなったところで、顔面であろう位置に膝蹴りを叩き込んだ。


『が、ががが、が……ぴ……』

『敵、沈黙を確認』

「っはー……はー……」


 自身が傷つけた箇所から黒煙と電撃が溢れ、やがてロボットはそこにあるだけの物質になる。自分自身を守るためとはいえ、ロボットとはいえ、やはり壊すという好意は気分が悪い。それを見越してか、エイトが淡々と声をかけてきた。

『あれは、ただの意思のない警備ボットです』

「知っている」

『ですので、殺したといった後悔を持つのは間違いです』

「知っている……でもな、そううまくはいかないんだよ、人間って」

 あれが銃器だけを積んだ無機質な機械であったのなら、そこまで深く考えなかっただろう。だが、人間はどうしても、人を模したものを壊すのは躊躇するのである。

 上がる息を整えて、頭を振って思考を追い出して、エイトを抱えなおした。俺の思考を汲んでか、黙ったままの球体に声をかける。


「んで、エイト先生は何の修理が必要なんだよ」

『移動パーツの破損がみられます。該当箇所を修理するのが優先となります』

「なるほどな……そこのロボットからパーツは使えそうか?」

『規格が異なるため、難しいかと』

「やっぱりか」


 無理やり切り替えた俺の思考に、エイトは何も言わずに自身の修理箇所を伝えてきた。そんなどこか人間臭い気遣いは、正直ありがたいと思ってしまう。

 そして、エイトの移動パーツが破損している、というのは納得がいった。元々動けない機体だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。だからあそこにずっといたのかと白い球体を見る。

『ここから右方向、二百メートルほど先に向かえば、あったと認識しています

 ただ、先ほども申し伝えましたが、パーツや物資などがあるかは不明です』

「ん、了解」

 ナビにしたがって歩き始める。廊下のような場所は、電灯のようなものがいくつか切れているらしく、ちかちかと点滅を繰り返していて、酷く薄暗い。そんな場所だからか、先ほどのロボットが襲ってこないか、内心びくびくしていればエイトが話しかけてきた。


『一花の身体能力が高いとは、存じませんでした』

「あー……俺もびっくりした」

 先ほどのロボットを倒した事についてだろう。

 ほとんど自分の直感に従ったまでなのだが、自分の身体ではないように感じた。いや、ある意味で自分の身体ではないのだが……。一体どうなっているのか。

「なんというか、自分が自分の身体じゃないように感じたというか……」

『なるほど……推測ですが休眠中に身体能力の向上が行われた可能性があります

 元々【オニ】の身体能力は高いのですが……』

「なにそれこわっ」

 どうやら、俺の身体能力の高さというのは種族由来にプラスして、眠っている間に何かされたらしい。人権もくそもないあたりが恐ろしい。

 片腕で自分を抱きしめておちゃらけてみたが、エイトは何も言わない。

 ……せめて笑ってほしい。

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