第10話
「そう……それが真実なのね」
「兄貴の言葉だけだ。真実とは限らねぇ。だけど兄貴は歪んでる。自分を最優先する存在には優しいが、自分がいちばんでないと急に攻撃的になるんだ。オレは昔は兄貴に懐いていたが、母上が死んだ時に笑った兄貴を見て信じられなくなった。それから兄貴を避けていたら、あっという間に毒殺されそうになったよ」
「私も、イオスと特別仲良くなったあたりからフォス様が急に冷たくなったのを覚えてるわ」
「兄貴は、セーラが好きだったって言ってたぞ」
「え?! そんなそぶりなかったけど?!」
「兄貴を好きになる女性は多かったからな。オレと親しくなったのはセーラくらいだそ。兄貴に口説かれたりは本当になかったのか?」
「今思えば……やたらとベタベタ触れてきていたわね」
「なんで気がつかないんだよ……」
「だって、子どもの時から会ってたし、ベタベタするなって最初に思ったのは私がまだ10歳にもならない時だもの。王女教育受けたらなんかおかしいなと思いだしてさ。キスされそうになった事もあるわ。うまく避けたけど」
「兄貴……マジか……兄貴はオレらの5歳上だろ?! 15歳が10歳に何やってんだよ……」
「それもあって、イオスとばかり遊ぶようになったの。イオスが荒れてて気になったのもあるけどね。最初はいつも3人で遊んでたよね。隠し部屋を教えた時は私は5歳くらいだっけ?」
「そうだな、その頃は3人とも仲が良かったからな」
「その頃からフォス様はおかしかったのかな?」
「わかんねぇ、今思えばおかしい事はいっぱいあったけど兄貴の方が年上だしオレらもやんちゃだったからな。当時はそんなもんかと思ってた」
「……そうね。けど、冷静になればおかしい事はいっぱいあったわ。イオスとふたりで遊ぼうとすると、すぐフォス様が来るとかさ。どっかで監視してたんじゃないかな?」
「多分だけど、情報が漏れたのはオレの使用人からだと思う」
「なるほどね。確かに私たちじゃ、本当の意味でひとりになれるのは自室だけだもんね」
イオスもセーラも王族だから、護衛も使用人もついている。イオスは今でこそ部屋ではひとりが良いから入るなと命じて自由を確保しているが、幼い頃はそんな命令もできない。常に側には誰かが居て、使用人にはフォスの息がかかっていた。
「そうだな。それで、セーラは今後どうするつもりなんだ?」
「ふふん! わたしは別人になって、イオスの妾として堂々とここに戻って来るわ」
「……は?! どういう事だよ!」
「そんな真っ赤な顔で怒らないでよ」
イオスは怒ってるのではなく、動揺しているのだがセーラは気が付かない。
「怒ってねぇけど、オレの妾ってどういう事だよ。オレはセーラを妾にになんかする気はねぇぞ。俺が愛してるのはセーラだけだ!」
「うぅ、ありがと。私もイオスを愛してるわ。けどね、私もお城で動けるようになりたいの。セーラとして現れたらあっという間にフォス様に殺されちゃうでしょ? あと半年しかないのよ? 女性にしか出来ない事もあるわ。私は平民で、イオスが私を気に入って城に連れてきたって事にするのよ。平民でもイオスの妾なら多少の地位はあるわ。調べられても良いように、ちょっと経歴は作った方が良いけど、フォス様に聞かれても気弱な平民を演じれば良いかなって。フォス様って、平民に見向きもしないから、このアザ隠して、髪も短くすればわからないんじゃないかな?」
「髪切るのは勿体ねえから、鬘でも用意させる。街なら髪が短い女性も多いから、セーラの髪色と違うのを用意しておくよ。でも、危険じゃねえか?」
「危険なのは、街に隠れてても同じだし、ずっとここに居るなんて嫌だし、イオスの役に立つには城で自由に動けるくらいにはならないといけないでしょ? アザも服で隠すけど、もっと念入りに隠した方が良い? 家族以外は、アザがある事はイオスしか知らない筈だけど……」
「念のため、念入りに隠してくれ。見た目も平民っぽくするけど、セーラの気品は隠せねぇんじゃないか?」
「んー、見た目変えて、立ち振る舞いもガサツにするよ。一応、街に溶け込む為に平民の立ち振る舞いは習ってるから」
「そんな事習うのか?」
「うちの国は小さかった分、街の人との距離が近いからね。街に極秘の視察に行く事も多いし、その時気付かれないように、使用人の家に泊まって平民のフリをする練習を何度もしたから、いけると思うよ」
「オレたちでは考えられないな。この通路が見つかるまでは、街に出た事なんてなかったからな」
「そうね。国の違いもあるから。ミッドナイト商会の女主人は、貴族じゃないかって噂があったから、イオスは性別は誤魔化せても立ち振る舞いは誤魔化せてないわ」
「マジか……」
「フォス様の使用人は全員貴族の出身だし、街の視察では良い人のフリしてるけど帰って来たら街の人がくれたもの全部捨ててるし、かなり平民を下に見てるわよね。あの頃は盲目的にフォス様を信頼してたから、毒でも仕込まれたんだと思って何も言わなかったけど、そんなの絶対側近が確認するし、今思うとかなり傲慢で嫌な態度だったわ。だけど、その分平民になれば相手にされないで済むと思うのよね」
「兄貴の態度は、わざとなんだ。嫌な姿を見せても、相手が嫌悪しないか試すんだよ。意見したり、嫌悪感をみせた使用人は、軒並みクビだ」
「えぇ……意見してたら危なかった感じ?」
「兄貴の気分次第だな」
「怖いよ! 爆弾庫で寝泊まりしてた気分だよ!」
「あながち間違いではないな」
「肯定しないでよぉ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます