第4話

次の日、侍女達が来る時間より早めにセーラの食事を用意したイオスは、セーラの元を訪れた。


「やっぱり眠れねぇよな。メシ持ってきたから、食わねえか?」


そう言って、セーラに用意したスープをイオスが食べる。


「ん、美味いな。毒もねぇぞ」


「……イオス……」


「セーラ、腹減ってるだろ?」


椅子に座ったままぼんやりしているセーラの口に、イオスはスプーンを近づけた。セーラは、何の警戒もなく口を開ける。嬉しそうにセーラにスープを食べさせるイオスは、普段とは全く違う優しい顔をしているが、セーラにとっては見慣れた笑顔だ。


「パンは食えるか?」


うなずくセーラに、毒味を済ませた柔らかいパンを食べさせる。イオスが用意した食事を、セーラは全て平らげた。


「美味しい……美味しいよぉ……」


泣き崩れるセーラを、苦しそうに見つめていたイオスだったが、部屋に鈴の音が響き、舌打ちをする。


「ちっ……もう来やがったか。セーラ、侍従か侍女が様子を見に来た。どっちも兄貴の手下だから調べに来たんだろう。悪いけど、セーラを死んだ事にする。いいか、絶対ここから出るなよ」


そう言ってイオスは部屋を出て行った。食事をした事で少し活力が湧いたセーラは、少し迷ってからイオスが出て行った扉を開き、階段をゆっくり登っていく。


「な……何よコレ……」


階段の途中に鉄格子があり、鍵がかかっていて先には行けない。


戸惑っているセーラに、イオスの部屋での会話が漏れ聞こえてくる。


「イオス様、また暗殺者が来たのですか」


「ああ、もう始末した」


「コレがそうですか。部屋で焼くのはおやめください。私が片付けておきますよ」


「触るんじゃねぇ。オレがやる」


「その髪は、暗殺者のものですか? 珍しいですね。いつもは跡形もなく焼き尽くすのに」


「……うるさい」


「おや? 手はどうされたのですか? 爛れておりますよ? 暗殺者にやられたのですか?」


「うるせぇって言ってんだろ! コイツはオレが処理する。しばらくひとりにしてくれ!」


炎を操る音がして、焦げ臭い匂いが階段まで広がる。


「跡形もなくなってしまわれましたね。さすがイオス様です。朝の準備に侍女を呼びましょうか?」


「ひとりにしてくれ。今日は仕事もねぇし、今日一日は誰もこの部屋に入れるな。食事もいらねぇ。これは命令だ」


「かしこまりました」


イオスは、セーラが聞いた事もないような冷たい声で命令していた。だけどそれよりセーラが驚いたのは、イオスと会話している男の声だ。セーラに暗殺技術を教えた男に、そっくりな声だったのだ。声に特徴があり、勘違いとはどうしても思えなかった。


「なんで、先生がイオスの侍従なの……?」

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