elda
すが
プロローグ
海辺の家に住む魔女が、昨日死んだ。
波にのまれて死んだ。
町の人たちは彼女の死を悼むよりも、「やっといってくれたか」とか「これであの家が壊せる」だとか言って安心しているようだった。特に母はわかりやすくて、私たち姉弟を見ながら「もうあの家に行っちゃだめよ」と微笑んでいた。母は私たちが魔女の元へ遊びに行くのを嫌がっていた。
魔女の家は、一階建ての海浜植物に囲まれた小さな家だった。以前、どうしてこんなところに一人で住んでいるのかと尋ねたとき、彼女は「待っているんだ」と笑っていた。
博識な人で、狭い家の中には大量の本があった。本の種類はさまざまだったけれど、海に関する物語と造船系の本が多かったように思う。あの魔女は、海と船が好きだったのだ。
港町ということもあってか、その知識を頼る人は多かったけれど、彼女自身を慕う人は少なかった。みんな、その不気味な容姿を忌避していた。町の人たちは魔女を都合の良いときだけ利用するし、彼女はそんな人々からわざと少し多めに報酬をもらっていたようだ。互いの利害は一致していたのだろう。魔女は彼らを恨みはせず、良い金づるだと言っていた。
謎の多い女だった。美しい瞳で微笑む女だった。
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