王の守護妃
慶
第1話
気持ちとは裏腹によく晴れて清清しい青空。しかし建物内ではその青空は見えない。
大きな建物の中、窓からは暖かな日差しが。中央には赤い絨毯が敷かれ、その先、壇上には神父と白の礼服姿の男が待っていた。両脇には大勢の参列者。祝福している者、そうでない者が。建物の外ではこの国の民が祝っている。国中がお祭り騒ぎ。それはそうだ。急ではあるがこの国の王の結婚式なのだから。祝わなくてどうする。
なぜこうなった。小さく気づかれないよう息を吐く。セレーネの傍にはなんともいえない顔の祖父が。
夫となる男の元まで歩いて行く。純白のドレス、踵の高い靴。着慣れて、履き慣れていないので足下が危うい。しかもヴェールで視界も。ゆっくり、ゆっくり歩いて行く。
なんとか辿り着き、祖父の手から男の手へ。並んで神父の前へ。神父が誓いの言葉を述べていくのをぼんやりと聞いていた。
反対などできるはずない。すればセレーネの国は。
「誓いますか」と神父が男に尋ね、男は感情の無い声で「誓います」と答える。続いてセレーネに。セレーネも事務的に答えた。指輪を交換。ヴェールを上げられ、はっきり見えるようになった夫の顔。光に輝く金の髪、蒼い瞳、整った顔立ち、色の白い肌。だがその整った顔を台無しにしているのは、左側の火傷痕。目は無事だが、額から目の下にかけて痕が。髪で隠しているが隙間から覗いていた。
見られたくないのだろう。軽く互いの唇が触れ、すぐに顔を離し、正面を向く。表情は笑顔ではなく、硬い。セレーネを見もしない。
建物内は大きな拍手と歓声。
彼とは四年前に会い、一年間共に過ごした。あの頃はこんな目をしていなかった。もちろん火傷痕も。背ももう少し低く、体格も。
鐘が鳴る。婚姻が成立、祝福して、とのことだが。セレーネの思考は過去へと飛んでいた。
大国グラナティス。その王子が隣国ヴィリロにくると聞いた時は耳を疑った。
ヴィリロは大国でもなければ小国でもない。グラナティスとの仲は良くも悪くもなかった。
嘘か真か。グラナティスの王族は竜を祖先に持つといわれていた。
一時期ヴィリロは揉めていた。内輪揉め。国王には二人の息子と娘が一人。長男と次男が王位を巡り争っていた。父である国王は長男に王位を譲ると決めていたが、次男は認めず、長男に味方する貴族を買収、暗殺まで。次男の一方的な攻撃。弟がまともなら兄は王位を譲っていただろう。しかし問題ばかり起こしていた。それでも国王と長男はなんとか話し合おうとしていたが、次男は聞く耳持たず。なりふりかまわなくなっていき。父、姉夫婦、兄夫婦、甥、姪達が揃っている席に味方する貴族を引き連れ乗り込んできた。
生き残ったのは父である国王と長女の娘、長男の息子。
落ち着いてきた頃に今度はグラナティスの時期国王を一年間預かってほしいと。
グラナティスが揉めているのは知っている。前王の息子と現在国を治めている王、叔父の仲がよろしくない、という噂が。前国王は暗殺されたのでは、とも言われていた。今度はヴィリロで暗殺して、責任を押し付けるつもりか。別の狙いか。
結局、国王は預かることを了承した。
そこで出会ったのが彼だった。礼儀正しい青年。セレーネの印象はそれだけ。竜を祖先に持つというから羽か尻尾でもあるのかと考えていたが、そんなものはなく、少しがっかり。正直にそのことを話すと、彼は笑っていた。
ヴィリロ国内の貴族の娘が売り込みに来ていたのも覚えている。共に学び、食事をし、町も歩いた。馬で遠乗りにも。祖父は見張りをつけなかった。町へ、外へ出る時は警護をつけていた。彼にとって見張りとしてとられても仕方ない。ヴィリロ国内で何かあれば。
彼一人で来たのではなく、幼なじみの彼と年の近い男二人と来ていた。彼らもグラナティスではいいとこの貴族らしい。
不便なことも嫌なこともあっただろうが彼は人前では嫌な顔一つしなかった。人当たりのよい笑顔。怒る時は怒っていたが理不尽に怒りはしなかった。年下のセレーネの従弟、バディドにも優しく接してくれ、兄がいたらこんな感じかと。
二十歳を一ヶ月後に控え、国に帰る際「いつかグラナティスに来てくれ。案内する」と言ってくれて。セレーネは本気にとらなかった。行くにしても彼の結婚式、招待客の一人。バディドは目を輝かせて元気一杯「はい」と答えていた。
帰って一年ほどしてグラナティスは彼と叔父派に分かれ、内乱になったという報せが入った。
隣国ヴィリロも何かしら飛び火してくるのでは、と臣下達は慌てていた。実際どちらからも味方してくれと使者が来ていたが、祖父はどちらにもつかず静観。そのためか、それとも睨み合いで手一杯なのか、どちらからも攻められなかった。
さらに二年が経ち、セレーネも二十歳。ヴィリロは従弟のバディドが継ぐ。セレーネに、という貴族、臣下もいたが、セレーネとしては王になる気はなく、王にするなら家出してやる、と何度か家である城を出たことも。だが補佐はする気でいた。祖父もいい年。バディドはまだ十四。せめてあと四、五年。なので、五年はヴィリロに、祖父、バディドの傍にいる気でいた。
三ヶ月前に隣国、小国だがそこの三男との結婚も決まり、式は隣国で。終われば夫となる者がヴィリロに移り住むことまで決まっていた。一年前に見合いをして、その後会ったのは二度。あとは手紙でのやりとり。セレーネは文章が苦手なので簡潔。だが夫となる者は丁寧に花まで添えて返してくれていた。恋愛結婚ではなく政略結婚に近い。国と国の結びつきのため。あちこちから縁談があった。好きな人がいたのではない。決まった時は特になんとも、そういうものかと思っただけ。祖父の手伝いができ、従弟が立派になるのを見届けられれば。あとは少しでも好きなことができれば十分だった。
すべてが変わったのは半月前。
「ヴィリロがグラナティスに挙兵! どこからそんな根も葉もない話が」
王である祖父、父方の叔父である将軍、臣下達の沈痛な表情。
すべてではないが目を光らせていた。特にグラナティスに近い土地を治めている貴族には刺激するなと。
「グラナティスは未だ国内で睨み合っている。こちらに兵を向ければ、その隙をつけると」
「利用されているというのか」
「兵を向けてこない。もしくは可能性は低い、か」
臣下達は口々に。
「ちなみに、どちらの陣営に向けて挙兵したと」
セレーネは口を挟む。
「レウィシア殿下。いえ、陛下というべきでしょうか」
祖父は眉間に指を置き、深々と息を吐いている。
レウィシア陛下側には彼の父に仕えていた貴族がついていると。グラナティス国内のことは詳しくないが戦力は拮抗しているとか。幸いグラナティスの民がヴィリロに避難してくることはなかった。貧しいわけではないが大勢で押しかけてこられては。
「もし、攻めて来たとして、全力で迎え撃てば」
「もしくは叔父側と協力するか」
祖父は苦々しい顔で黙って話しを聞いている。それはそうだろう。どちらにしてもヴィリロは戦火に巻き込まれる。
「私が使者として挙兵はないと伝えてきます」
知らぬ仲でもない。三年間会っても、手紙のやりとりもしていないが。それに知らぬ仲でないのはレウィシア陛下であって、別の者なら。
「何をおっしゃいます。姫様は婚儀を控えている身、交渉なら」
「おじい様やバディドは行かせられないでしょう。罠だったら」
「それなら我々の誰かが」
信用できない。火のない所に煙は立たない。裏切り者、とまではいわないが、いても。煽りに行かれても、途中、邪魔され、口封じされても。
「私なら大丈夫です。そんじょそこらの者に負けない自信はあります」
大きくない胸を張る。セレーネはヴィリロで一番の魔法の使い手。家出中、他国の魔法を勉強。遺跡も巡った。剣術、武道の類は全くだが。魔法に関しては自信がある。
しかし、と渋る臣下。
「はいはい、決まりです。話し合いましょう、と即手紙を出してください。場所はグラナティス側の指定でかまいません。ちゃんと送ってくださいよ。邪魔した者は怪しいと見なし、身辺調査」
セレーネが強引に次々と指示を出す。
「ここでいつまでもぐだぐだしていても仕方ありません。時間が経てば経つほど状況がどうなるか。はい、行動」
ぱん、と手を叩いた。祖父は再び息を吐き、苦々しくも頷く。
祖父、国王の許可は取った。
「セレーネ様が治めてくだされば」
ぽつりと呟かれた臣下の言葉に、
「家出しますよ」
はっきりと答えた。
邪魔は入らず話は進み、グラナティス側の貴族の邸で話し合いが決まった。
グラナティス、陛下側は誰が来るとは送られてきた手紙に書いていないが、ヴィリロからはセレーネが行くと書いていた。
替え玉は通用しない。魔法で姿を変えられるが、四年前のことを確認、持ち出されては。それにセレーネの髪は特徴的な色をしている。瞳は薄紫と珍しくないが髪は二十歳にして白。銀でも灰色でもなく白。六年前の叔父の乱心でこうなった。バディドは覚えていない。いや、母親が抱きしめて護り、何も見せなかった、聞かせなかった。すべて見聞きしていて生き残っているのは祖父とセレーネ。止めようとしたセレーネの父は叔父と相討ち。叔父の腕では将軍職の父に勝てなかったのに。父の腕はヴィリロ一と言われていたのに。執念とは恐ろしい。
馬車で指定された貴族の邸に。場所はグラナティス側が事細かに書いてくれているから迷いはしないだろう。それに町の出入り口に案内の者を立たせているとも。一日二日で辿り着ける場所ではない。あまり来られない町や村に立ち寄り、時間の許す限り、古書店、魔法道具店、飲食店を回りながら、指定された日時に間に合うよう、楽しみながら進んでいた。
昼過ぎには辿り着ける、という場所まで来て。
「うわぁ!」
御者の驚いた声が馬車の中にまで響いてくる。
「どうしました」
御者側に通じている小窓を開ける。
「し、閉めておいてください! 矢が、どこからともなく矢が」
陛下側と接触する情報は隠していなかった。襲撃されるかも、とは考えていたが。ヴィリロ側かグラナティス側か。ヴィリロでもセレーネを気に食わない者はいる。陛下側との話し合いを善しとしない者も。グラナティス側にしてもどちらが。
御者は護衛も兼ねている。ぞろぞろ引き連れていくのも、と御者兼護衛として一人だけついてきてもらった。セレーネとしては馬で一人行くつもりでいたが、それだけはやめてくださいと反対され、二人で向かうことに。
「とばしますよ。揺れますが我慢してください」
「魔法でぶっとばしますよ」
「とばします!」
こそこそ行かず街道を走っていた。セレーネ達だけでなく徒歩、馬車、馬で移動している者もいる。
セレーネの乗る馬車はシンプルなもの。国旗を描いても掲げてもいない。それなのに的確に狙ってきた。いつから目を付けられていたのか。町を出歩く時は目立たないようにしていた。服だってドレスではなく動きやすい服。どこからどう見ても王族、貴族には見えない。御者もセレーネの名前を呼ばないよう注意していた。さすがに人目の多い町中では襲われはしなかったが。今も人の目はある。
馬車は急に速度を上げる。大きく揺れる馬車。セレーネも大きく揺れる。御者は声を上げながらも馬を操り、駆け続ける。
声が聞こえているのなら大丈夫だろう。聞こえなくなった時は。
外へ出て迎え撃とう。自分の考えに頷いた。
突然馬車が止まる。御者、馬の声は聞こえてこない。
「?」
首を傾げ、再び小窓を開けた。
「静かになりましたけど、大丈夫です? 生きています?」
「縁起でもないこと言わないでください。大丈夫ですよ。味方、というか、今説明してもらっています」
「誰に?」
「陛下の供に来た者ですよ」
御者とは違う男の声。セレーネは扉を開け、外へ出た。「お嬢様! 」とセレーネの軽率な行動を叱責する御者。
いたのは茶髪、赤茶の瞳の男。
「三年ぶりですね。セレーネ様。相変わらず、いえ、お別れした時よりお美しく」
「お世辞はいいです」
セレーネはばっさり。自分の容姿は気にしていない。会う者は挨拶のようにお美しいと。王族だから。
「グラナティスの、レウィシア陛下側の方ですか」
三年ぶり、ということはヴィリロに来ていた者か。男には悪いが覚えていない。
「忘れるなんて酷いなぁ。おれも陛下も一日たりとも忘れはしませんでしたのに」
「言い慣れていますね」
半眼でセレーネは男を見た。男はにこやかな笑顔。
「アルーラ!」
よく響く男の声。
「はいはい、陛下。セレーネ様はご無事ですよ」
男の見ている方向をセレーネも見た。陛下と言わなかったか。
近づいてくるのは金髪、右側だけ見える蒼い瞳。左側は髪で隠れている。背は高く、肩幅もある。セレーネより色が白いのではないか。
男はセレーネを一瞥しただけ。
「邪魔者は排除した。いくぞ」
冷たい声。こんな声だったか。表情も。
「はい。セレーネ様、乗って乗って。話は町に、安全な場所に着いてから。おれはともかく、陛下はセレーネ様のこと忘れてはいませんよ」
アルーラと呼ばれた男がセレーネの背を押す。金髪の男は背を向け、どこかへ。
安全な場所などあるのだろうか。
「お久しぶりです。セレーネです。お元気そうで」
金髪の男の傍には五十代ほどの屈強そうな男とアルーラと呼ばれていた男。こちらはセレーネより二、三上だろう。セレーネの傍には一人。
金髪の男はソファに座っており、二人は立っている。三人は傭兵のような姿。テーブルを挟んだ場所でセレーネは頭を下げた。
襲撃後、三人の先導で町へ。早く着けば町中を歩きたかったが、そのまま邸へ。
金髪の男は「ああ」と素っ気ない返事。許可なく座るわけにもいかず、セレーネも立っていた。忘れてはいませんと言っていたが、忘れられないような何かをしただろうか。
「これはヴィリロ国王からの手紙です」
テーブルへと預かった手紙を置く。五十代の男が取り、封を開け、金髪の男へ。セレーネは立ったまま待っていた。
「信じろと」
低く冷たい声。視線は手紙に、セレーネを見もしない。読み終わったのか。
「はい。ヴィリロは挙兵など考えていません。どこからそんな話が出たのか。こちらも調べています」
今日まで何も出てきていない。何かわかればすぐ連絡をくれることになっている。
「敵対している側の流言では」
迷わせ、惑わせ。もちろん、そんなこと考えているだろう。
「これからも俺達、こちらと敵対しないと言い切れるのか」
「……絶対、とは言えません」
何が起こるかわからない。下手なことは言えない。
馬鹿にした笑いを返された。こんな笑いをしただろうか。色だけ同じで別人。四年前ヴィリロに来たのは替え玉で。
「とにかく、挙兵はありません。どうすれば信じてもらえます」
祖父も手紙に書いていた。セレーネは思考を切り替える。別人かなど、今は考えていられない。
「セレーネ様がうちに嫁いでくる、という話も出ていましたよ。うちだけじゃない。ヴィリロを味方に引き入れたい陛下の叔父上側もね」
「は?」
とんでも発言をしたアルーラという男を見た。
「あの、私もう相手決まっているんですけど」
半月もすれば隣国へ。
「知っている。隣国と組んで、こちらに攻めてくるか」
「そんなことしません」
金髪の男を睨んだ。
「何度も言いますが、挙兵なんてしません。その予定もありません。敵側の情報に踊らされているのでは」
腕を組み、睨み続ける。
「それなら次期国王のバディド殿かお前がこちらに来ることで信じよう」
「それって人質じゃ」
「言葉や紙切れで何を信じられる。現国王のシャガル様では切り捨てられるかもしれないからな」
「しません。勝手なこと言わないでください」
身内を切り捨てるなど。だがバディド、次期国王をとられては。
「一旦持ち帰っても」
「ここで決めてもらおう。バディド殿なら来るまでここにいてもらう。お前なら」
「まさか、このままグラナティスへ」
金髪の男は頷いている。
「力ずくで逃げ帰るのなら好きにしろ。しかし叔父の手の者に襲われても今度は助けない。数も増やしているだろう。切り抜けられればいいな。もし捕らえられでもしたら、どんな目に遭うか」
皮肉な笑み。軍隊でこられれば困るが小隊なら。
帰って報告。もし誰も送らなければ。今までのように静観していれば。
「攻められないと思うな。多少兵の数は減るが両方の相手くらい」
読まれている。
「もしかしたら叔父の手の者がこの隙にそちらの城へ行っているかもしれないな」
考えられなくはない。セレーネが交渉に出ているから手を組みはしないだろうが。もし、組んでいる、話に乗った者がいればセレーネがいない間に接触しても。金髪の男は鼻で笑っている。
「どうする。力ずくで逃げるか、それとも」
バディドを送るわけにはいかない。わかっていて。もしセレーネが来なければどうしたのだろう。そしてなぜ陛下直々。いやこの男が本物かは。それに真実を言っているとは。セレーネ、ヴィリロ側の臣下を誘き出すための罠だったら、まんまと引っかかった。
「セレーネ様」
背後から心配そうな声。セレーネは歯がみ。一度目を閉じ、気持ちを整理。目を開け、金髪の男をまっすぐに見た。
「わかりました。私がそちらに行きましょう」
「セレーネ様!」
「あなたは帰って今の話を伝えてください。馬車でなく、馬、単騎なら狙われはしないでしょう」
セレーネと一緒にいたから狙われた。
「しかし」
半月では戻れない。隣国との婚姻はなしか延期。なしの可能性が高い。色々決めていたのに。
「隣国に賠償金を要求されたら請求しますからね」
「兵を向けてくればこちらから兵を出そう。無理を言っているのはわかっている」
わかっていて。
「服は送ってください」
「こちらで用意しよう」
「結構です」
淡々と話す金髪の男を再び睨んだ。
翌日、御者兼護衛にセレーネが書いた手紙を持たせ、別れた。御者は旅人姿で馬をとばし、ヴィリロへ。セレーネは馬車でグラナティスの城へ。
結局、町を見て回れなかった。出ようとすれば、逃げるのかと疑われ。邸の一室で手紙を書くだけ。
馬車では一人。金髪の男、レウィシアとアルーラは馬で、もう一人の男ユーフォルはセレーネの乗る馬車の御者台で馬の手綱を握っていた。
グラナティスの城へは二日ほどかかる。来た時同様、休憩をとりながら城へ。立ち寄った町では古書店で魔法書や興味のある本を大量購入。馬車や宿で読んでいた。代金はもちろん陛下持ち。
「人質になってあげるんですから、これくらいは買ってくれますよね」と腰に手を当て偉そうに言い放った。アルーラは小さく笑い、陛下は苦々しいながらも支払ってくれた。
城に着くと客室に。ヴィリロの、セレーネの私室より広い。城もヴィリロの城と比べるべくもなく大きく立派。馬車から下り、ほぉ、と見上げていた。使用人の数も多い。こんな部屋使っていいのかと思いながらも遠慮なく使っていた。
三食おやつ付き。買ってきた魔法書を読んだり、城内を散歩したりして過ごしていた。
五日が経った頃、このままでは太るかも、とそれでも甘い誘惑に負けておやつをしていると、ノックもなく突然入って来る金髪の男、レウィシア陛下。
アルーラに「あれは本物の陛下ですか」と失礼なことを聞いた。アルーラは苦笑しながらも「本物ですよ」と。
三年前、別れた時、陛下は十九、一ヶ月後には二十歳だったか。セレーネとは三つ違い。今は二十三か。
アルーラはセレーネの様子を見に来てくれていた。他愛ない世間話や不便はないかと。陛下は全く。
「お疲れのようですね。お茶飲みます?」
カップは一つしかないのでポッドを指した。
言葉通り疲れた顔。陛下はテーブルを挟んだ対面のソファに座る。
「お前の相手が決まった」
「は? 何のです」
「十日後に結婚式だ。国内の貴族、もちろん敵対している叔父にも知らせている。グラナティスの民にも」
「……人質じゃないんですか。疑いが晴れれば戻れる」
「本当にそう思っていたのか」
鼻で笑われた。
「そうしろと言う貴族どももいたが婚姻を結び、ヴィリロと手を組めばいいと言う意見が多かった」
「グラナティスに手を貸すとは言っていませんよ」
「だがヴィリロの王族はこちらにいる。しかも王族に嫁いでくる。文句はないはずだ」
「王族?」
彼の他にいるのか。敵対している叔父の子、なら人質になっている。人質同士。別の叔父、叔母の子供か。まさか十も年上、年下ということは。
「目の前にいるだろう」
まじまじと見てしまった。
「俺で悪かったな。こんな醜い化け物で」
セレーネを見てはいなかったが、それでもセレーネの方を向いていた陛下は顔を背けるように横へ。
「何も言っていませんけど」
「臣下や使用人達は陰で言っているだろう」
確かに。散歩していると聞こえてきた。
「ヴィリロにも招待状は送った。来るかどうかは知らないが。刺客を送ってくるのなら好きにしろ。返り討ちにするだけ」
冷たい目、冷たい声。以前とは変わってしまった。それほどのことがあったから。
「衣装や装飾品の類は明日から運びこませる。好きなものを選べ」
セレーネを見ないまま事務的な話しを淡々と続ける。
話が終わるとソファから立ち上がり、部屋から出て行く。セレーネは口を挟めず、一方的に終わった。
「なんなの」
グラナティス国内の貴族の誰かの
まさかこんなに早く決まるとは。しかも相手は。他に相手はいなかったのか。グラナティスは大国。二分されてもヴィリロ国内より広い。北側は寒冷地、だったか。夏でも涼しく、冬は豪雪。育つ作物も限られている。どう二分されているのか。
妃に困らない、はず。それとも妃の一人なのか。知らないだけで実は妃が何人もいる、とか。今度使用人に聞いてみよう。
翌日からは陛下の言葉通り、衣装やら装飾品が運び込まれ、着せ替え人形もいいところ。十日後ということで生地選びからではなく、作られた衣装。嫁ぐはずだった隣国では生地から選び、サイズまで測られ。それも無駄に終わった。仕上がりも見ていない。
「あの、私は何番目の妃なのでしょう」
衣装を合わせている、来た日からセレーネの世話をしてくれている年配のふくよかな女性使用人、ノラに尋ねた。
「陛下にお妃様はおられません。二年前には決まりかけていたのですが」
叔父と争うことになり、流れたのか。
ノラが席を外すと、手伝ってくれていた若い女性使用人が「おかわいそうに」と囁きかけてくる。
「それは陛下のことですか。私なんかと」
「いえ、そうではありません。おかわいそうなのはあなたですよ。陛下のお顔見られたでしょう。お顔だけではありません。体中醜い傷だらけ、とか」
戦っていればそうなる。戦場に出ず、指示だけ出す王もいるが。
「今までに紹介されたご令嬢達は陛下を一目見て怯え、泣き出したとか。それでお相手もいなくなっていたところに」
セレーネが。
「それだけでなく、強引に自分の意見を通していて。そのため臣下の中には陛下と距離をおかれたり、叔父上側につかれた方まで」
よく知っている。それだけ陰で悪く言われているのか、言い合っているのか。
「逃げ出せず、おかわいそうに」
小さく息を吐かれた。だが本気でかわいそうとは思っていない。
ノラが戻って来ると口を閉ざし、手を動かしていた。
結婚式の日までは慌ただしく、その間陛下はセレーネの元に一度も現れなかった。
結婚式前日、ヴィリロ国王である祖父と叔父である将軍が訪れた。
「おじい様」
セレーネは祖父に駆け寄る。
「色々ご迷惑かけて、すいません」
深々と頭を下げた。
「まさかこんなことになるとは」
祖父は下げ続けるセレーネの頭を撫でる。
「そうだな。先のことは誰にもわからない。お前が元気でよかった」
「いい暮らしをさせてもらっていました」
セレーネは苦笑。心配している祖父や従弟、国の者には悪いが。
「隣国とは」
国内も気になるが、一番気になるのは隣国。突然、破談を知らされたのだ。祖父のことだから丁寧に説明したのだろう。
「手紙を書いて送った。向こうからは、そうですか、としか」
「相手はグラナティスの王ですからねぇ。鞍替えしたと思われても」
陛下の叔父とやらと手を結ばれなければいいが。
「なるようにしかならん」
静かな祖父の言葉。
翌日は結婚式。早く休みなさいと言う祖父の言葉は聞かず、夜遅くまで話した。
式が終われば場所を変え、披露宴。
セレーネの隣にいる花婿は不機嫌な表情。彼をよく知る者は「めでたい席にそんな顔しない」と言っていたが、変わりはしなかった。
政略的なもの。にこやかにはなれないのだろう。使用人はああ言っていたが、誰か想っていた者がいたのかもしれない。それを考えると。
セレーネの元にもグラナティスの貴族が挨拶に。名乗っていくが誰が誰だか覚えられない。中には祝福の言葉を述べながら憐れみの目を向けてくる者も。
着慣れないドレスを着さされ、知らない人に囲まれ、食べたいものも食べられない。疲れた息を小さく吐いた。祖父も挨拶回り。ヴィリロから来ているのは祖父と叔父だけ。祖父は、ヴィリロ国内は視察するが他国へ出るのはこの五、六年なかった。久々の遠出、叔父が傍にいるとはいえ、大丈夫だろうか、とちらちら見ていた。
いきなり摑まれた手。
「え? 」と見ると、摑んでいたのはセレーネの夫となった男。
「行くぞ」
「行くって、どこへ」
摑まれた手を引かれ、椅子から立ち上がる。履き慣れない踵の高い靴。よろけてしまう。
小さな舌打ち音。強引に引いたのはそちらなのに。次には軽々と抱き上げられていた。
「へ?」
またも間抜けな声。
陛下はにぎやかな部屋から出て行く。どこに行くのか。次の予想はできているが形だけの、ヴィリロを抑えておくためにセレーネと結婚したもの。そんなことはないだろうと考えていた。
陛下は迷いのない足取りで進む。
どこかの部屋。さらに部屋の中の扉を開け、進んで行く。
「お前も憐れだな。こんな男に嫁ぐ羽目になって」
「……自虐ですか」
そんな言葉しか聞いていない。
「本当のことだ」
寝台の上に落とされた。乱暴に落とされたのではなく、柔らかい寝具はやんわりとセレーネを受け止めてくれる。
覆いかぶさってくるのは体格のいい男。力では勝てない。魔法なら。
セレーネを見下ろしているのは冷たい色をした蒼。近づいてくる。
もし魔法でぶっとばす、気絶させたら。
一番に思い浮かんだのは祖父とバディド、ヴィリロの面々。セレーネはセレーネという個人であり王族なのだ。半分とはいえ、この国を怒らせれば。
観念するしかないのか。近い位置にある蒼い瞳は何か言いたげに揺れているように見えた。セレーネが言葉を発する前に、唇によって塞がれた。
「あれ、陛下何をしているんです」
「仕事」
「それは見ればわかります。三年間のつもりつもる話をじっくりして、二、三日は部屋から出てこないかと。現に昨日一日は出てこなかったでしょう」
アルーラの言う通り。
「二、三日もこもっていられるか。仕事が滞る」
叔父と対立している今、余裕などない。いつ、どこに攻めてくるか、刺客を送ってくるか。
父が病に倒れ、かえらぬ人となり、叔父が治めて八年。上手く治められず、あちこちから不満の声が出ていた。二十歳でレウィシアに王位を譲ると広く公表していたのに。臣下、民の中には二十歳を待たず王に、という声が上がっていたほど、叔父は国を治められていなかった。そのツケをレウィシアが今払っている。もし叔父が国を上手く治めていたら、レウィシアの考えも違っていたかもしれない。
父が病になったのも叔父が何かしたからでは、と囁かれていた。兄弟仲はいいとは言えず、それでも表面上は仲良くやっていた。父が倒れ、豹変。
母はレウィシアが幼い頃に。父に次を薦める臣下もいたが相手にせず。母を想っていたのか、レウィシアがいたからか。幼いレウィシアは周りの言う通り、病と信じていたが今では、もしかしたらと叔父を疑っている。
「よかったですね」
アルーラの柔らかい声。
「何が」
対してレウィシアは素っ気ない返事。
「陛下がセレーネ様を想っていたこと知っていましたよ」
「何年前の話だ」
ヴィリロにいたあの頃とは違う。あの頃はこうなるとは。
ヴィリロでの一年は穏やかだった。グラナティスでの日々より。少々の不便はあったが、ヴィリロ国王はレウィシアの自由にさせてくれた。セレーネ、バディドとも仲良くなり、グラナティスではできなかったいたずらも。
あのままヴィリロにいられれば。
帰れば叔父は王位を譲るどころか、玉座に居続けたくて刺客まで差し向けてくるように。
顔の火傷もそうだ。何度も危ない目に遭った。隙は見せられない。信じられるのは限られた者のみ。グラナティスにいないセレーネに助けられたことも。
三年ぶりに会うセレーネは綺麗だった。中身は変わっていないようだが。まっすぐに見てくるところも。それに対しレウィシアは。
「そう言いますか。王妃様には優しく接したほうがいいですよ」
「嫌うなら嫌えばいい。逃げたければ逃げればいい」
自嘲的に笑った。今の自分は醜く映っているだろう。
言葉通り、逃げたければ逃げればいい。今までの令嬢達のように。
顔に火傷を負う前、国を二分する前は寄ってきていた令嬢達も火傷を負い、国を二分してからは、化け物呼ばわり。レウィシアを見ない。怯えを隠しながら愛想笑いを浮かべる者も。
怯えもせず睨んできたのは。
「まさかとは思いますけど、話もせず、押し倒した、なんて陛下に限って」
「だったら」
感情もこめず返した。
「いつからそんな大胆になったんです。以前も今もどんな美女にも見向きもしなければ、上手くあしらいにこやかに対応していても目は冷めていた、冷静沈着で真面目な陛下が話もせず」
「そういうお前はどうなんだ。俺より年上のお前にも見合い話が山ほどきているのは知っている。一人に決めずあちこちの女性に声をかけているのも」
「父上、ですか」
アルーラは、ははと笑い頭をかいている。
「年上といっても一つでしょう。陛下より先に結婚するなんて」
「その言い訳も通用しなくなるな」
「痛いところを」
アルーラの家も名門といっていい。その名前や見た目、アルーラも整った顔立ちをしている。に寄ってくる令嬢は数知れず。アルーラの場合、気安く話しかけやすい雰囲気なので使用人にまで声をかけたり、かけられたり。
「予防線、ですか」
「なんのことだ」
「セレーネ様、ですよ。他の男にとられない、手を出されないための。とびっきりの美人、ではないですけど可愛いですからね。なんだかんだ言いながら独占欲強いんじゃ」
睨んだ。
「なら、聞きますけど、おれや他の貴族がセレーネ様娶っていても平気でした、冷静でいられました」
「ああ」
アルーラを見ずに答えた。誰が誰を娶ろうと。臣下達は次を望んでいる。戦でどうなるかわからないのとレウィシアより扱いやすい、次の王を。だから、セレーネを。
アルーラは大きく息を吐き出し、言いたいことはあるのだろうが口にしたのは、
「王妃様の警護を重点的にしますよ」
「好きにしろ」
一昨日の披露宴では話もせず、素っ気ない、冷たい態度をとっていた。レウィシアの弱点と見るか、それとも政略的なものと見るか。叔父の手の者も来ていたはずだ。
叔父もヴィリロに協力を働きかけていた。しかしヴィリロは叔父にもレウィシアにも協力しなかった。孫娘であるセレーネを関係のない男の元へ。隣国は小国。セレーネの夫となる男にもし野心があるのなら、ヴィリロを治めようと企んでいてもおかしくない。
式の前日、ヴィリロ国王が挨拶に来ていた。記憶と違わぬ堂々とした姿。恨み言は言わず穏やかな目で「セレーネをよろしくお願いします」と頭を下げ。強引に話を進めた。恨み言の一つ、睨まれてもおかしくない。陰口、恨み言には慣れた。言われすぎて、聞きすぎて、心も痛まない。何を言われようと覚悟はしていた。それなのに。
「逃げ出したのなら追うな。ただし、叔父の手の者が接触してきたら報告しろ」
いつの間にか疑心暗鬼に。
「逃げますかねぇ」
答えず書類整理に戻った。
眠い目をこすりながらも空腹には耐えられず寝台から出た。着ているのは自分で着た覚えのない、ゆったりとした寝間着。
窓から差し込む日は明るい。昼過ぎくらいか。どのくらい寝ていたのか。
頭はぼんやりしていてもお腹はすいたと、きゅうきゅう鳴っている。音が次第に大きく。考えれば披露宴では目の前においしそうなものが大量にあっても手は出せず、見ているだけだった。
寝室から出て、居間(? )に。寝室もだが居間も広い。
部屋の外に出るのにこの姿は。着替えてから出たらいいのか。しかしこの部屋はセレーネが使っていた部屋とは違う。
ヴィリロから荷物が送られてくるより先にこちらで服、下着に至るまで揃えられていた。サイズを聞かれていないのになぜかぴったり。
誰か呼べばいいのか。呼ぶのなら部屋から出なければ。やはり着替えてから。その着替えはどこに。と考えていると扉が叩かれる音。
「はい」
つい返事をしてしまった。セレーネの部屋ではないのに。
「失礼します」
入ってきたのは使用人のノラ。
「お目覚めですか」
「はい。あの、お腹すいたので、何か食べたいんですけど」
「かしこまりました。すぐ用意します。お着替え、お手伝いしましょうか」
「大丈夫です。一人で着られるので」
一人で着替える王族、貴族の令嬢などいないだろう。ヒラヒラしたドレスにあちこちを飾る装飾品。用意するにも時間がかかる。セレーネは動きやすい服を好んでいたのでヴィリロでも一人で着替えていた。化粧、装飾品も必要最低限。他国へ出る、式典に出席する場合は使用人に手伝ってもらい。祖父やバディドも自分でできることは自分でやっていた。そういえば陛下も体中傷だらけでそれを見せたくないから一人で身支度しているとか。
結婚式の準備中は大変だった。着替えに化粧に何人も。途中でうたた寝しそうに。
ここで用意してくれたのも動きやすい服。中には似合うとは思えないヒラヒラしたドレスも用意されていたが着ていたのはヴィリロから送られてきた服。
「服は寝室のクローゼットにあります。一人で無理ならおっしゃってください」
セレーネの服は昨日まで使っていた客室にあるとばかり。いつの間に。
「はい」
「では食事の用意をしてきます」
ノラは一礼して部屋を出て行った。
食事はこの部屋に持ってきてくれるようだが、この服のままはだめだろう。セレーネは着替えを探して、そしてどの扉にどんな部屋があるのか確かめるためにあらゆる扉を開けた。
「シャガル様は今朝、国へ戻った」
夕食の席、広い部屋には陛下とセレーネ、数人の使用人。
「よろしく伝えてくれと」
「起こしてくれればよかったのに」
次はいつ会えるか。口を尖らせながらも夕食を口に運ぶ。スプーン、フォーク、ナイフは銀製品。毒を警戒しているのか、用心深いのか。細かな細工。高価そう。
結婚式から一日経っていると聞かされ、少し驚いた。ノラには体調を心配されたものだ。そのため持ってきてもらった昼食が終わっても部屋でゆったり。
落ち着いたら手紙とグラナティスの特産品でも送ろう。セレーネがいなくてもヴィリロ国内は大丈夫だろう。祖父の手伝いをして政に関わっていたが、最終的に決めていたのは祖父。
静かな夕食が終われば部屋へ。セレーネが寝食していたのは陛下の私室。広いクローゼットに男物の服があった理由が判明。見つけた時は首を傾げた。これからはここで寝起き。
陛下が風呂に入っている間、セレーネはたてかけられている長剣を見た。初めて会った時に下げていた剣とは違う。再会してからは常に、結婚式でも下げていた。
剣の持ち手部分より下、刃とつながる部分にはめこまれている目のような宝石。琥珀色の中にまるで瞳孔のような縦長の線。それに興味を持っていた。
セレーネは先に風呂を済ませている。陛下は忙しいらしく、夕食後も臣下達と話し、セレーネが風呂から出てきたところで部屋に戻ってきていた。
剣はソファにたてかけ、風呂へ。そのためこうしてじっくり見られる。
宝石に手を伸ばす。触れようとして、静電気のようなものが起こる。そのため一度手を引いた。再び伸ばそうとして。
「何をしている」
低い声に手を止めた。
「持ち逃げする気だったか」
馬鹿にした笑みで見下ろしている。
「それはそれで面白そうですけど、無理でしょう。おそらく、ですけど、私には触れられません。触れたら何か起こりそうですね」
持ち手を選ぶ、というものではないか。こういうものに意思などない、という者がいるが、あるものもある。
「グラナティスの祖先は竜だと言われている。祖先、竜の骨で作られた剣だと。その竜の血を引く者、グラナティスの正統な王でないと扱えないと言われている。叔父は扱えず壊そうとしていた」
淡々とした説明。
竜の骨。刃を見ていないからわからないが、いや見てもわかるかどうか。それよりこの宝石は。
「いつまで見ている」
「いつまでも」
触りたい。だが触れれば先ほどのような小さな痛みで済むのか。もっと大きな。
舌打ち音。背後から両脇に手を入れられ、持ち上げられると寝室へ。猫のように運ばれた。
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