◎月6日

 あぁ、戻るんじゃなかった。周りは緑一色、むせかえるような土と木々の匂い、そしてアクセスの悪さ。最寄りの町まで1時間、しかもバスは2時間に1本だけ。遠路はるばる陸の孤島みたいな辛気臭い田舎に戻ってきてやった俺を待っていたのは醜い相続争いと、その末に俺は結局一銭ももらえないという残酷な現実。


 クソ親父はバーサンとの折り合いが凄い悪かったらしく、遺産は一切寄越さないとの弁護士の言葉を聞くやソイツを殴り飛ばして警察に御用。で、俺はその尻拭いでバーサンの遺品整理。何やってんだよ全く……と言いながらも黙々と整理をするのにはそれなりに理由がある。親父とバーサンは険悪だったが、流石に孫の俺とはそこまで険悪じゃなかったって事だ。


 ちょいと子供らしく迷惑をかけたかも知れないが、でもバーサンはそんな俺を叱ることは無く何時もニコニコとしていた。だから、もしかしたら俺の為に何か残しておいてくれるんじゃないかって期待があった……なんて甘い考えをしていた数時間前の俺を殴りたい。

 

 馬鹿野郎。漸く整理が終わった俺は誰に向けてでもなくそう呟いた。辛気臭い匂いを放つ遺品整理を何時間もやったのに金目の物は殆ど出てこなかった。唯一の成果と言えば箪笥の奥に厳重な封と共に仕舞われていた真珠のネックレスの入ったケース……と、その中に入っていた小汚いお守り。


 何か入っているかとほじくり出してみれば、藁を編んで作った縄みたいな形状をした何かと半分に千切れたメモ。それには達筆な字でこう書いてあった。


『不幸の後に幸運は訪れる。必ず……』


 こんな田舎に来てまでまたこのクソみたいな言葉を聞かせるんじゃねぇよ。俺はケースと小汚いお守りをゴミ袋に突っ込み、ネックレスをポケットに隠すと逃げるように帰った。もうココには来ねぇよクソが。

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