第155話 ボスイフリート戦

【8月22日】

 早朝に手配した馬車に乗り火宮のダンジョンに向かう。

 前回、火宮のダンジョン制覇の前日は【白狼伝説】の主人公になった感じでドキドキしていた。

 結果はミカが1人でボス部屋への道中もボスイフリートも倒した。

 前回から1年半、必死になって剣を振ってきた。

 今回は僕がやってやる!


 装備は全て【昇龍装備】で固めた。武器を【飛燕の刀】にしようか悩んだが、風属性でイフリートが強化される可能性があるため止めた。


 火宮のダンジョンに入る。

 前回の火宮のダンジョン制覇は苦い思い出だ。その苦い思い出を持ったままいたくない。

 それを払拭できるのは、ここ火宮のダンジョンしか無い。

 隊列は僕が先頭でミカとヴィア主任、サイドさんが後ろで控えている。


 前方にイフリートが現れた。

 僕に気が付いて身体に炎を纏う。体長は1.8メトル。全体的に黒い身体。下半身は毛に覆われている。顔は馬に似ていて横に巻き角がある。

 何度も夢に出てきた敵だ。


 落ち着いてイフリートの火の魔法を避け、胴に斬撃を与える。

 一撃で倒す事ができた。

 2体目のイフリートは飛行する。

 頭上からの火の魔法を【昇龍の盾】で丁寧に防御し、タイミングを測ってイフリートに飛びかかる。首を落とす事ができた。

 だいぶ緊張がほぐれてきた。このまま順調に1階層を抜ける。


 2階層、3階層も安定してイフリートを討伐していく。

 気温が高めなせいか、緊張のせいなのか、喉がいつもより乾く。水筒と水で喉を潤して4階層に降りた。


 4階層のイフリートは少し大きくなる。2メトルほどの大きさだ。

 慎重さと大胆さ、相反する二つだが、どちらも戦闘には不可欠な要素である。

 大事なのは判断力の速さとそれに対応できる瞬発力。

 イフリートを屠っていく度に僕の集中力は高まっていった。


 5階層と6階層の僕は自分が思う以上に身体が動く。

 相手の動きが手に取るように分かる。こんな感覚は初めてだった。


 7階層のイフリートはデカい。2.5メトルはある。しかし動きが読めていれば敵にはならない。

 最小限の動きでイフリートを倒し続ける。体力的にも問題は無かった。


 7階層の奥にボス部屋の扉が見えた。高さが5メトルくらいだ。このままの集中力で戦いたい。

 休憩もそこそこにボス部屋の扉を開けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 前に来た時と同じくでボス部屋は静かだった。

 赤い煉瓦の壁。奥には溶岩がある。

 黒い身体をした体長1.8メトルほどのイフリートがいる。

 僕はイフリートに向かってゆっくりと歩を進めた。

 5メトルほどでイフリートの身体から炎の柱が立つ。

 僕は歩みを止めない。


【イフリートは一歩後ずさる】

 イフリートは僕に突っ込んで来ず、一歩後ずさった。


【イフリートはまだ動かない】

 イフリートはこちらを窺っている。


【イフリートは右拳で顔を殴ってくる】

 イフリートは右拳を振り上げ、僕の顔目掛けて拳を振るう。


【右拳を避けて首に斬り上げて終了だ】

 僕は身体を左に動かし、イフリートの右拳を避け、【昇龍の剣】をイフリートの首に振り上げた。


 イフリートは首が刎ねられ倒れた。

 火宮のダンジョンのボス部屋が静寂に包まれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ミカが近くに走ってきた。


「アキくん、今の動きは何なの! あんな動き見た事ないわ!」


 僕の世界の色が変わっていく。張り詰めていた神経が緩んでいく。


「あ、ミカ。ボスイフリート倒したよ」


「見てたわよ! 何なのアキくん! ボスイフリートに歩いて行って、一瞬で首を刎ねていたわよ!」


「そうか、それはよかった。ちょっとだけ疲れたかな」


 急激に身体の力が抜けていく。


「ちょっと大丈夫? アキくん! アキくん!」


 僕は寝てしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 目が覚めるとミカの顔が見えた。

 僕の顔を覗き込んでいる。ちょっとビックリして跳ね起きた。

 ミカは僕を膝枕していたみたい。僕は半刻1時間ほど寝ていたようだ。


 ヴィア主任が口を開く。


「集中力が極限まで高まった所為だと思うな。あのアキくんの動きは凄まじかった。それで頭が一気に疲れてしまって睡眠を欲したのだろう。どうだ、体調のほうは? 問題無いか?」


 僕は自分の手を握ったり開いたりした。立ち上がりその場でジャンプする。

 問題無いようだ。


「大丈夫みたいです。それよりお腹が空きました」


「お腹が空いたか。アキくんらしいな。皆んな心配したんだぞ」


「あ、すいません。もう大丈夫です」


 ミカが膨れ顔で僕に言う。


「帰りはアキくんは見学です。それ以外認めないですからね!」


 僕は素直に頷いた。


 宝箱の中身はダンジョン制覇メダルだけ。

 たぶんそうだろうと言う事で宝箱開封儀式はしなかった。

 ボス部屋でお昼ご飯を食べて、火宮のダンジョンを引き返す。

 帰りの道中はミカとヴィア主任がイフリートを倒しまくる。行きは僕が1人で戦っていたので二人共ストレスが溜まっていたようだ。

 僕とサイドさんは魔石を拾って歩いた。


 火宮のダンジョンを出ると日が暮れていた。

 僕は満足している。

 何も出来なかった火宮のダンジョンで蒼炎の魔法抜きでボス部屋まで行き、ボスイフリートを倒せた。その後寝てしまったけれどね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 【8月23日】は1日休みにした。

 朝は鍛錬をしたが、昨日のボスイフリート戦のような動きは何度試してもできなかった。

 少し残念だな。

 残すBランクダンジョンは風宮のダンジョンのみ。

 この夏で制覇しようとパーティで誓い合った。

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