第154話 海水浴大会と古い【白狼伝説】

【8月10日】

 海水浴大会当日。快晴だった。

 2年前と変わらずウォータール公爵家のプライベートビーチで開催される。

 多くの冒険者が参加している。

 ミカは黒のビキニ。ヴィア主任は緑のビキニだった。サイドさんは青色のトランクスタイプの水着を着ている。

 皆んな属性の色に合わせている。

 僕は水色の水着になった。


 ビーチフラッグ大会の決勝はミカとヴィア主任だった。

 結果はヴィア主任の優勝。

 俊敏性ではヴィア主任がミカより優っていた。

 サイドさんは冒険者ギルドの職員の女の子に囲まれている。ここでもモテモテのようだ。

 以前、ミカからサイドさんはヴィア主任が好きだと思うと聞いてから、それとなくサイドさんを観察している。

 そのような目で見ているとヴィア主任を見るサイドさんの目に愛おしさと悲しみがこもっている感じを受ける。

 気のせいかもしれないけれど。


 僕はミカに泳ぎを教わっている。

 力を抜けば、勝手に身体が浮く事に驚く。半刻1時間が過ぎる頃には、それなりに泳げるようになった。

 海の幸がふんだんに用意されている。バーベキューは最高に美味しい。提供してくれたウォータール公爵家には感謝感激。


 日が落ちて花火をやる。

 花火の火の灯りがミカの顔を照らす。

 その顔を見ていると、これで海水浴大会が終わるんだなぁっと感傷に少し浸る。

 また来年も皆んなでやろうと心に誓った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【8月11日】

 慌ただしいがボムズに向けて出発した。アクロからボムズまでは馬車で10日間。

 ファイアール公爵家に所蔵されている古い【白狼伝説】の本を調べないといけない。

 あとは僕の火宮のダンジョンのボスイフリートへの挑戦だ。


 アクロからボムズへ馬車の移動をしているとミカと初めて肌を合わせた事を思い出す。

 あれから2年、僕は少しは大人になったのだろうか?

 あの時、ミカは僕に強く依存していた。僕もいま考えれば依存していて、ミカに甘えていたのが分かる。

 今は違う。

 ミカと僕は2人で1人だ。

 依存し合う関係では無く、ミカは僕の半身と感じている。

 来年、僕は成人になる。

 その時までにしっかりとした大人になろうと馬車の流れる風景を見ながら心に誓った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 【8月20日】の昼前にボムズに着いた。早速冒険者ギルドに挨拶に行く。

 いつもの家に案内され、専属はリーザさん。リーザさんなら安心だ。

そしてファイアール公爵家に面会を申し込む。夕方ごろにファイアール公爵家から、返答があり明日の午前中に屋敷に向かう事になった。


 晩御飯はリーザさんが作ってくれたカンダス帝国料理。楽しい夕食となった。


 次の日の朝、ファイアール公爵家の馬車が家まで迎えに来てくれた。こちらの服装は相手に失礼にならない程度にする。

 ファイアール公爵家にある古い【白狼伝説】は何か違うのだろうか?

 少しでも手掛かりになれば良いな。


 馬車がファイアール公爵家の屋敷に着いた。

 久しぶりに見るファイアール公爵家の屋敷は特に変わらず存在していた。


 ファイアール公爵家本館の屋敷の応接室に案内された。

 応接室の上には古い少し大きめの10冊の本が置かれている。背表紙には【白狼伝説】の文字が読める。

 僕が読んでいたファイアール公爵家にあった【白狼伝説】と違う。

 ソファで座って待っているとファイアール公爵家宗主シンギ・ファイアールと弟のガンギ・ファイアールが応接室に入ってきた。


 シンギは満面の笑み、ガンギは機嫌が悪そうだ。

 ガンギの髪はだいぶ髪が伸びてきたようで、根本8セチルほどは真紅の髪色になっている。

 シンギとガンギが向かいのソファに座り、シンギが話を始める。


「アキ殿のパーティメンバーであるヴィア殿から依頼されていた本がこちらになります。希少な本であるため、一応ボムズまで出向いて確認してもらおうと思いましてな。それで本当に必要であればこのままお貸し致します」


 シンギの言葉にガンギが顔を顰める。しかし何も言わずにいる。

 シンギが話を続ける。


「アキ殿はあと風宮のダンジョンで、全てのB級ダンジョンを制覇します。Aランク冒険者になったあかつきには、私に封印のダンジョンについてお話させていただければ光栄です。風宮のダンジョンがあるカッターのエアール公爵家からは説明を受けない事をお勧め致します。それでもこれはアキ殿が選択する事ですのでお任せはしますが」


 エアール公爵家か。エルフ排斥運動の中心だったな。僕もできれば会いたくはないな。


「了解いたしました。できればこちらで封印のダンジョンについてお話を受けるようにしたいと思います。それではこちらの本を確認させていただきます」


 そう言ってテーブルの上にある【白狼伝説】に手を伸ばす。ヴィア主任も一緒に確認していく。

 現在、普通に売られている【白狼伝説】は全5巻だ。こちらは10巻ある。

 本を開くと少し古い文法で書かれているが、それなりには読める。

 パラパラと読むが戦闘の描写がより細かく書かれているようだ。

 最後の黄龍との戦いは特に細かく書かれている。間違いなく初期に書かれた【白狼伝説】だ。


 ヴィア主任と目で確認し合う。

 僕はシンギ・ファイアールの正面を向いて話し出す。


「こちらの【白狼伝説】が私達が探していた本で間違いありません。よろしければお貸しください」


「どうぞ、今日このままお持ちください。書庫で死蔵されていた本ですからな。少しでもアキ殿の助けになるなら喜ばしい事です」


 シンギの言葉に甘え、初期の【白狼伝説】を全てマジックバックに詰め込んだ。


 シンギと軽い雑談をし、帰りの挨拶をしている間も、ガンギはずっと不機嫌なままであった。


 帰宅し、初期の【白狼伝説】を読み始めた。

 僕とミカだと読むのが遅いため、ヴィア主任とサイドさんに先に読んでもらう事にした。


 明日は火宮のダンジョン制覇を目指す。

 ヴィア主任とサイドさんも一緒にAランク冒険者になるためだ。

 ここで僕が我が儘を言った。

 ボス部屋までの道中を1人でイフリートを倒したい。

 またボスイフリートとの一騎討ちをお願いした。当初、反対していた3人だが最後は納得してくれた。

 ただ僕の旗色が悪くなったら直ぐに加勢する事が条件だ。

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