第138話 再開された学校生活
【9月17日】の午前中に王都に向けてボムズを出発した。
ヴィア主任が【白狼伝説】の小説を読んでいる。
僕が何度も【白狼伝説】の話をするため、一度読んでみようと思ったようだ。
冒険娯楽小説だからヴィア主任の趣味に合わないかと思ったが熱心に読んでいる。
それを見ていたサイドさんも【白狼伝説】を読み始めた。馬車の中で読んでいるため、僕はミカと2人でゆっくり会話を楽しむ。
「今の僕だったら、火宮のダンジョンのボスイフリートでも良い勝負になるかな?」
「良い勝負にはなるでしょうね。あのボスイフリートは力とスピードでゴリ押しだったから今のアキくんならいけるかも」
ミカのその言葉を聞いて嬉しくなる。
半年前、僕はミカとボスイフリートの戦いをただ見てるだけだったから。
あんな無力感はもうたくさんだ。だいぶ剣術の技術が急激に上がった身体能力に追いついてきた感触がある。
このままミカとの模擬戦にも勝てるようになるといいな。
「それよりやっぱり宝箱を開ける時はドキドキするね」
「ミカもそう思うよね。あれがダンジョン制覇の醍醐味だよ」
「宝箱を開ける時の掛け声をもう少し考えない?パンパカパーン! だけじゃワンパターンだし」
「うーん。パンパカパーン! で良いと思うけど、それなら次までに何か考えようか? 出だしは【紳士淑女諸君!】かな?」
「アキくんって堅いよね。【何がでるかな? 何が出るかな?】って節を付けて踊るのはどう?」
「それもありか。じゃ、また皆んなで練習しないとね」
馬車は緩やかに王都に進んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王都には【9月23日】に到着した。
今回のボムズ遠征は大成功と言って良い。
ヴィア主任がBランク冒険者になり実力も僕たちと遜色の無いレベルになった。
ヴィア主任に付き合わされるサイドさんもそれなりに戦力になっている。
ヴィア主任とサイドさんは明日からDランクダンジョンに行ってオウガで【鳳凰の細剣】の試し切りに行く予定。
僕とミカは付き合わなくて大丈夫と言われた。もうすぐまた学校が始まる。それまでゆっくり過ごす事にした。
【10月2日】
学校が始まった。
ホームルームにシズカは現れなかった。
午後の授業でクラスに戻ってもシズカはいなかった。今日は休みのようである。
次の日も、また次の日もシズカは学校を休んでいた。
担任のシベリーさんに確認してみたが連絡も無くわからないと言われた。
【10月5日】
今日もシズカは休んでいる。今日で4日目だ。
学校が終わり帰宅し、リビングでミカと宝箱を開ける時の練習をしていたら呼び鈴が鳴った。
ユリさんが応対をしている。来客者がリビングに入ってきた。
来客者はシズカだ。
僕を見るなり泣き出すシズカ。良くわからなくなりシズカが落ち着くのを待つ。
リビングのテーブルに
落ち着いたシズカが静かに口を開ける。
「急に泣いたりしてごめんなさい。なんかホッとしてしまって。屋敷に軟禁されていたから隙を見て逃げてきたの」
逃げてきたって家出なの!?
軟禁!?
「何がどうしてそうなったのか説明してくれるかな? ゆっくりで良いから」
「ガンギくんの事件があっても全然婚約破棄してくれないお父様にずっと怒っていたの。そうしたらお父様が『うるさい! お前は黙ってガンギ様の子供を産めば良いんだ!』って言われて…」
鼻水を啜るシズカ。
「それで私は『冗談じゃない! 私は血を濃くさせる為の道具じゃない! それなら家を出てやる!』って言ったら『お前も叔母のようになるのか! お前は学校を辞めさせて家に居させる』って、屋敷の離れに幽閉されてたら仲の良い使用人が出してくれて、それに王都までの馬車代も出してくれて……」
なるほど経緯はわかった。これは僕の手には負えない。それもわかった。
こういう時はどうする? 困った時のヴィア主任だ!
ミカに研究室まで行ってヴィア主任がいたら連れてきてもらうように頼む。
少し待つとミカがヴィア主任を連れてきてくれた。
ヴィア主任はシズカの話を聞いて頭を抱えた。
「これは参ったね。こちらからはやりようが無いよ。シズカくんが学校を卒業するまで大人しくしていれば、まだやりようがあったかもしれないけど。でもそんな言葉をかけられて言い返したシズカくんの気持ちも分からないわけでは無い。しかし、シズカくんの保護者はベルク・ファイアードだ。さすがにアキくんもこのままシズカくんを養うわけにはいかないだろ。どうやってシズカくんは生計を立てるつもりだ」
「でもアキさんも家出して冒険者になったじゃ無いですか?」
シズカは反論した。しかし無常にヴィア主任の声が響く。
「それはアキくんが有能な人物で冒険者ギルドとしては例外的にサポートしてくれたに過ぎない。生計も自分でしっかりしていたからな」
そしてヴィア主任は結論を口にする。
「君たちの担任はシズカくんの叔母だったな。その人に連絡して考えてもらうのが良いと思うよ」
シズカの表情が暗くなる。
学校にはまだ担任のシベリーさんが帰宅前だった。事情を話しシズカを引き取りに来てくれる。
僕は去っていくシズカの背中を見て、そんなに血を濃くする行為は大切なのだろうかと感じた。
次の日からシズカは登校してきた。
担任のシベリーさんからベルク・ファイアードに連絡をしたようだ。
連絡がついて、こちらに来るまでは半月はかかるかな。
さすがのシズカも大人しくなっている。今後に対しての不安があるのだろう。
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