第124話 新しい冒険者仲間

 夕食はミカと2人でゆっくり食べる。

 ご飯を美味しそうに食べるミカに聞いてみた。


「ミカは今日のオウカさんの話はどう思った?」


「私は冒険してドキドキを感じるのが目的だから、ダンジョンを誰が作ろうと関係ないわ。【白狼伝説】の登場人物が全部出てきて興奮したけどね」


 確かに【白狼伝説】が好きな僕も興奮してしまった。

 このエンバラの里がソフィア・ウォレールが切り拓いたと思うと感慨深い。


「ミカはエルフの人を仲間に入れて欲しいって要請についてはどうなの?」


「やっぱり強制されて仲間になったら歪みが出ると思うわ。【白狼伝説】でもソフィアとカフェは喧嘩ばかり。だからそれ以上に険悪になると思う」


「そうだね。仲間は自然にできるのが良いね」


 僕はエンバラからのエルフの仲間入りの要請について、ミカとの考えに違いがないことに安心した。


 次の日の朝、剣術の鍛錬をしていると今日もヴィア主任が起きてきた。

 昨日と同じく挨拶をする。


「おはようございます。今日も早いですね」


「おはよう、アキくん。ちょっと話をしても良いかい?」


 そう言われたので鍛錬を中断した。


「何ですか? あらたまって」


「アキくん、君は何で冒険者をやっているんだ? お金も貯まったし、あとは悠々自適に過ごしても良くないか?」


「ヴィア主任は【白狼伝説】を読んだ事がありますか?」


 首を傾げて答えるヴィア主任。


「子供の絵本の【白狼伝説】かな? それなら一回は読んでいるよ」


「絵本が有名ですけど小説にもなっているんです。【白狼伝説】が僕の冒険者の原点になります。僕は15歳の誕生日まで、ファイアール公爵家の屋敷の離れで一人で過ごしてきました。いないものとして扱われていたので死んでも誰も悲しまなかったと思います。淡々と過ごす日々。死んでるような物です。そのような日々の中、【白狼伝説】に出会いました。その主人公のウルフに憧れました。ウルフはいつも生き生きしています。本当に楽しそうなんです。僕はそれを読んで冒険者になろうと心に決めました。僕もウルフのように冒険者になって楽しい日々を過ごしたい。未知の存在に心を弾ませたいんです。実際、未知のダンジョンを制覇してから開ける宝箱はワクワクが止まりません」


「なるほど、私が冒険者をやっていた時とは随分と気持ちの持ち方が違うんだな。私はダンジョン活動をしなければいけないと、小さな時から教わってきた。ずっと義務感でモンスターを倒していたよ。どうしても安全を考えてダンジョンを選ぶから作業にもなってくるしね。ありがとう、参考になったよ」


 そう言ってヴィア主任は僕から離れて行った。


 朝食後すぐにオウカさんとの会談が始まった。長老会の話し合いの結論を聞く。

 エルフ数名を僕の側に付けるから、それから仲良くなって、その後誰かを冒険者のパーティに入れて欲しいと言われた。

 何かお見合いみたいだ。


 僕は今のところ冒険者の仲間を増やすつもりがない事と、里の命令によって義務感で仲間になられても邪魔にしかならないと丁寧に説明する。

 それでも引かないオウカさん。話し合いは平行線になっていた。

 業を煮やしたオウカさんが叫ぶ。


「ヴィア、もうお前で良いからアキ殿の冒険者パーティに入れてもらえ! お前は冒険者もやっていたから問題あるまい。これならどうだアキ殿」


 研究一筋のヴィア主任が受けるはずが無いと思い僕は黙っていた。

 後ろに座っていたヴィア主任が発言する。


「分かった、母さん。私もそうしようかと思っていた」


 僕は驚いて後ろを振り向きヴィア主任を見る。ヴィア主任は僕を見て口を開く。


「アキくん、できれば私を君の冒険者パーティに加えて欲しい。ただ今は足を引っ張りそうだから私が力をつけるまでは我慢して欲しい」


 ヴィア主任が冒険者? 研究はどうするんだ?

 ソフィア・ウォレールの願いのためにそれを捨てるのか。

 僕はヴィア主任の真意を確認したくなった。


「ヴィア主任、研究はどうするのですか? ヴィア主任が冒険者になりたいとは思えないのですが?」


「まずは研究についてだが、冒険者になって君のパーティに入ったほうがはかどりそうだ。蒼炎の魔法の研究をしていると伝説の存在がすぐに出てくる。そこから逃げる事ができなそうだ。全ての謎を解明するためにはBランクダンジョンを全て制覇してAランク冒険者になるのが早い気がする。そこにも伝説の存在が感じられるからな」


「研究のために冒険者になるのですか?」


「まだ話は途中だ。今朝の君の話を聞いて心に決めたんだ。君はとてもキラキラした目で話していたよ。楽しい冒険ってものに興味が出てきてな。以前、冒険者をしていた時に味わえなかったドキドキを感じてみたくなった。私も未知の宝箱を開けたくなったよ。私はEクラスダンジョンまでしか宝箱を開けた事がないからな」


 そう言って笑顔を見せるヴィア主任。

 ミカとヴィア主任と僕でダンジョン活動か。

 想像してみる。ヴィア主任がいればしっかりとした作戦を考えてくれそうだ。


 僕はいつも行き当たりばったりのところがあるからな。またヴィア主任はパーティの精神的支柱になってもらえそうだ。とても楽しそうだ。

 僕がミカを見るとミカは頷いてくれた。


「ヴィア主任、わかりました。こちらからもお願いします。まずは【白狼伝説】の小説を読むことから始めてください」


 そう言って僕は微笑んだ。

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