第32話 もうモテてるのでは?

 ランジェリーショップを出たところで、女子2人の会計が終わるのを待つ。


 近藤さんは試着で見せてくれたものを選び、萌音はというと。

 ヒモを買おうとした。


(あのぉ、幅が3センチぐらいなんですよ)


 かろうじて、大事な部分は隠せてはいる。が、ヒモを巻いただけでは、Eカップ近藤さんより2回り上の胸を支えきれるとは思えず。

 もはや、下着の意味がないのでは?


 危険すぎる姿を風呂上がりにしてくるのが予想ができたので、全力で拒否した。

 萌音基準で普通の下着の試着に付き合い、それを購入したわけだ。


「貫之くん、お待たせ」


 萌音がやってくる。


「うわっ、なにしてんだ?」

「なにって、腕を組んだのよ」


 腕を組んでいるというより、僕の右腕に体ごとしがみついている。

 ヒモの光景が脳裏に蘇ってしまい、エロい気分になっていると。


「大空しゃん、貴重なお時間をかたじけないでしゅ」


 今度は近藤さんがペコペコ謝りながら、僕の左手側に来る。

 店の出入り口付近からずれる。隣の店との境目ぐらいだ。多少の会話なら邪魔にならないだろう。


「女を磨いた結月さんならできるよ」


 萌音が意味不明な発言をして、近藤さんを目で応援する。


「師匠。かわいい下着になって、わたしは自信がつきまちた」


 近藤さんが胸を張っていた。

 スタイルが良い分、堂々としていた方が似合っている。


(恥ずかしかったけど、近藤さんのためになって良かったぁ)


 自分を慰めていたら。


「大空しゃん、わたしはどうでしゅか?」

「えっ?」


 上目遣いの近藤さんが、僕の左腕にギュッとしてきた。


 ――むにゅむにゅ。


 戦闘力Eの弾力に脳がとろけそうになる。


 右手に幼なじみの、左手に同級生の双丘が当たっていて。

 同じ脂肪の塊であっても、人によって触り心地がちがくて。


(みんなちがって、みんないい)


 顔も、性格も、おっぱいも。

 好みかどうかはあれど、それぞれの魅力はあって。


「貫之くん、両手に花だね?」


 どう答えようか迷った。


 肯定するのもチャラいし、かといって、否定したら相手を傷つけかねない。

 萌音は理解してくれても、近藤さんは別。せっかく、自分のかわいさに気づいたかもなのに、足を引っ張れない。


「そうだね。僕は幸せだよ」

「幸せでしゅか?」

「うん。近藤さんみたいなかわいくて、けなげな子と……友だちになれたんだから」


 僕たちの関係をどう説明するかで少し考えた。


 いずれは恋人候補になるかもしれないが、急ぐつもりはない。近藤さんのペースもあるし、僕の気持ちも大切にしたいから。


「わたしも大空しゃんのおかげで、少しだけ自分が好きになりました」

「あらあら」


 目頭が熱くなった。


「近藤さん、素直だし、一生懸命だから応援したくなるんだ」


 ここで、萌音に言及するのを忘れていたのに気づく。


「萌音もありがとな」


 近藤さんの手前、詳細は明かさずに感謝の気持ちだけを伝える。


「ううん、大好きな貫之くんのためだもん」

「大空しゃん、幼なじみに愛されていて、てぇてぇでしゅ」


(まあ、弟としての好きなんだろうけどな)


 小4の僕は悲しいと思っていたが、いまは割り切れている……はず。


「正妻は天海しゃんでいいので、わたしも愛人枠で――」

「こ、近藤さん、なんてことを⁉」


 カノジョ候補(仮)が愛人になってしまった。


「あらあら」


 萌音は必殺技の後、僕の耳元に口を寄せてきて。


「つらたん、モテてるね」

「あっ」


 近藤さんの衝撃発言に動揺してしまったが。


(僕、モテてんじゃね?)


 愛人枠でもいいというのは少なからず、近藤さんは僕を想ってくれているわけで。


 正式な恋人にならなくても、神楽坂さんを見返せているのではないか?

 実際、僕と萌音が仲良さげに登校しているだけで、神楽坂さんは悔しそうにしていた。


(もし、神楽坂さんが今の僕たちを見たら……?)


 目的は達成したと言っても問題ないだろう。

 そのときだ。


「あれ、そこにいるのって」


 2、3メートル前から声がして。


「「あっ」」


 僕と近藤さんの声は、気まずいといった感じで重なり。


「あらあら」


 萌音は普段通りに、「あらあら」を貫いていた。

 幼なじみが強メンタルすぎる。


 というのも。


「怜奈さん、こんにちは(にこっ)」


 萌音が挨拶をしたのは、神楽坂さんだったから。


(まさか、本物がいるなんてな)


 神楽坂さんは不機嫌そうに眉をピクピクさせ。


「ふーん、大空くん、ずいぶんモテてるのね」


 おまけに、ランジェリーショップを一瞥。


「しかも、女子2人に下着を選ぶなんて、とんだハーレム野郎だったか」


 ご立腹だった。

 萌音が目で訴えてくる。


『怜奈さん、つらたんがモテて、悔しいみたい』


 幼い頃、萌音とはよく目で会話をしていた。読み間違えているとは思えない。


(不幸中の幸いかもな)


 僕を振ったこと後悔させてやる。

 復讐の鬼にならないよう自制心と戦っていると。


「ねえ、お姉ちゃん、どうしたの?」


 神楽坂さんの後ろで見知らぬ女の子の声がして。


「なんでもないの。お姉ちゃんと同じクラスの人だから」


 神楽坂さんの背中から金髪の女の子が出てきた。おそらく、小学校高学年ぐらいだろう。

 会話の流れと、髪色が同じことから察して、神楽坂さんの妹かもしれない。


「お姉ちゃん、大事な用事ができたけど、ひとりで帰れるかな?」

「うん、家に着いたら、掃除をやっとくね」


 神楽坂妹は姉に手を振ると、僕たちにも会釈をする。

 無邪気な笑顔は、表向きの神楽坂さんみたいに明るかった。裏がないことを祈るのみ。


「私、クラスメイトがハーレムするの放置できないんだぁ」


 神楽坂さんの笑顔が接客のプロクラスで、逆に怖さしかなかった。

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