第83話 森にて

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


 ◇◇◇


 森の中へ進むに連れて魔素が濃くなって行く。ダンジョンが消滅した事で徐々に薄まって来てはいるが、杭の影響があるのか、著しい減衰はないようだ。

 だが、聖女の力を使っている内にミーリアの力がドンドン増して行っているようで、これは心強い。


 この森に入ってからと言うもの、驚異的な進化をしているリンゴには驚いた。リンゴは僕がこっちへ帰って来てからというもの、僕から片時も離れようとしない。『望みのダンジョン』ではぐれたのが相当ショックだったようだ。


 そう言えば、リンゴの背中に羽根らしき物が生えてた。普段は僕の懐に入っているのだが、戦闘になると、その小っちゃな羽根をパタパタしながら僕の周りを飛んで後ろに廻る。聖なるオーラで自身に結界を張り、それで身を守れるようになったようだ。そして上空からかわいいポーズで応援してくれるのだ。

 かわいいは正義!なんて愛らしいんだ!戦闘などやめてすぐにでもモフりたい。


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 名前 : リンゴ

 年齢 : 0歳

 レベル : 3


 □スキル:

 <応援>可愛いポーズで応援した者のテンションを上げる

 <結界>聖なるオーラで自身を守る


 称号:女神の眷属、女神の代理人のモフ友、さみしがり屋

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 ◇◇◇


 魔の森の中をズンズンと進んでゆく。


 流石上級の冒険者パーティーだ。状況判断も的確で連携も取れており、各パーティーは先頭を交代しながら、あちこちから襲ってくる魔物を打倒しどんどん前進して行く速度は速い。


 『コーラルリング』マヌエラさんは、赤みがかった金の髪を振り乱しての巨大なバスターソードを振り回す。その一振りで、巨大なアウルベアを真っ二つに仕留め、キラービーの大群を一網打尽にする。恐ろしいバトルジャンキーのバトルマスターだ。


 いやー、その迫力たるや、伝説級の強力な魔物でさえ、睨まれただけで一目散に逃げ出しそうな勢いだ。


 マヌエラさんもすごいのだが、それをもっと上回る者達がいる。オッサンとガリオンさん、それにアリシアだ。


 『戦王キング・ウォーリア』となったオッサンと、『グレート・レンジャー』のガリオンさんの戦闘力は圧巻で、そこにアリシアのスピードが加わると、僕の出番は全くない。彼らは百体近くの魔物をなんと一瞬で殲滅するのだ。


 そこで、僕の仕事は<気配察知>で、魔物の生息情報を伝える事が主な任務になっていたりするのだが、リンゴのレベルアップの為に、近くの小石を拾っては、出てきた魔物にポイっと当てておく事は忘れない。


 これが本当の寄生プレイ^^b


「師匠、ここから少し行った所に見た目竜のような魔物が暴れているようです」


 僕はそれがいるであろう方向を指差した。すると、ガリオンさんが偵察に走って行ったと思ったらすぐに帰ってきた。


「あれは『ジャバウォック』のようですね。あいつは見た目ほど強くない。俺一人でも大丈夫ですが、クライドに頑張ってもらいましょうか?」

「おお、そうじゃな。奴には丁度手頃な魔物だ。骨は拾ってやるぞ。クライド行ってこい!」

「お、おお!って骨になる前に加勢してくださいよ。じゃ、行ってきます」


 相変わらずのスパルタだった。


 そう弱気な発言をしていたクライドだが、僕が最初に出会った時とは見違えるように成長していた。ジャバウォックを一人で難なく倒してしまった。


 流石、師匠だ。大勢の人たちから尊敬を込めて師匠と言われるだけある。個別指導にかけて右に出る者はいないと言われている由縁だ。やる気スイッチの入れ方が半端ないんだろうな。


「見事なもんですね。もう僕だと敵わないかもですね」

「まぁ、戦闘に関してはな。お前はそれ以外が反則だからな」


 その後、キングベア、巨大蜘蛛やワイバーンの大群などからの襲撃をかわして、ようやく目的の場所に到達する事ができた。森の中心である精霊樹の元へ辿り着いたのだった。


 その精霊樹の大きさは近くで見ると圧巻だ。だが、その樹の周りに禍々しい魔素が絡み付き、その邪悪なオーラがその樹を覆う。その為に全ての葉は散り、枯れ枝が方々に向けて伸びた痛ましい姿だった。


 だが、以前は神々しくも美しい光景が広がっていたであろうそこは、今は全ての時が止まったかのような静寂な世界が広がっていた。


 オッサンはミーリアに向かい、この場所一面に最大の浄化をかけてくれと頼んでいた。その言葉を受けて、彼女は心を落ち着けて、自身の中の精一杯の気を集めて、それを放出する。


 僕はそんなミーリアの気を感じつつ、一人精霊樹に近づいて行った。そして禍々しいオーラが纏わり付いた樹の幹に触れ意識を集中する。すると、頭の中にかすかに声が響いてきた。


 その声に耳を傾けたとたん、僕の意識は暗転したのだった。

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