第62話 ドナドナ

「ううう、良かった」


 はぁ~日本でよかった。地球に帰れたとして、ここがナイル砂漠のド真ん中だとか、アマゾンの密林奥地だとか、目の前の山並みがヒマラヤ山脈だったとか、それは僕にとっては、もう絶望でしかない所だったし。サバイバルどころじゃないし、どうやって帰るんだよーん。


 スマホのモバイル通信が不安定なので、しっかりと繋がるとこまでなんとか頑張って歩こうか。どうも、この先に国道があるみたいだ。そこまで歩けば、ヒッチハイク出来るかもだから。


「よ~し、アリシア風にフードを脱いでだな。お色気で捕まえるぞ!」


 それにしても、王都のダンジョンが日本の北海道と繋がってたとは驚きだ。あくまで憶測だけど、地球と繋がっていたダンジョンで、シンクロした状態でボスを倒した為、こちらに飛ばされたのかもしれない。もしかしたら飛ばされた所でまたまたボスを倒した事で、ダンジョンが休眠しちゃったのかな?


「まぁ、考えても仕方ないか。とりあえずは、人がいる場所に行こう」


 ダンジョンの周囲が街化してないとこを見ると、まだ発見されていない場所?それだと、ある意味JDSAやシーカーさん達に迷惑かけてないとこが救いか。だけど一応報告はしておかないといけないかもだな。



 ◇◇◇



 北海道は親切な人が多くて助かった。お色気が無くても、牧場関係の人に拾ってもらえ、子牛と一緒にドナドナ揺れながら、一番近い街まで連れて行って貰えた。そこで、ようやく家に電話を入れることにしたわけだが。


「かぁさん。僕だけど、元気?」

「はい?ボクボク詐欺?」

「あんだよ、ボクボクって。オレオレ詐欺じゃねーし。蓮だよ蓮」

「あんだよって、何よ!もう、びっくりしたじゃないの、悪戯じゃないよね。本当にあんた蓮なの?まさかあの世からの通信とかじゃないよね」

「怖い事言うなよ。ちゃんと生きてるよ。たぶん……」

「たぶん、って何よ!?どんだけ心配したと思ってるの、、、」

 電話の向こうで母さんが泣いているのが分かる。バタバタと走る音がして母さんが父さんに大きな声で僕が生きてたと騒いでいる声が聞こえた。


 両親には異世界に行っていた事を曖昧にして、生存を報告すると、JDSAの神田さんに連絡を入れるようにと、きつく言われたのだ。神田さんは、僕が崩落に巻き込まれた場所を一人で捜索してくれたようなのだ。だが、見つからない。助けられなくて申し訳ないと何度も家に足を運んでくれたらしい。色々と便宜を図ってくれ、優しい言葉をかけてくれる。感謝してもしきれないと親は言っていた。


 もう少し帰るのが遅かったら死亡扱いになる所だったそうだ。まだ僕、日本人としての戸籍があって良かったとしみじみ思う。戸籍が消失してたら、あれこれと手続き面倒そうなんだよね。なんて思いつつ、JDSAに連絡を入れる事にした。


 にしてもJDSAへの報告どうするかな?正直に話した方がいいのだろうか?ダンジョン崩落に巻き込まれ、そこと繋がってた北海道の未発見の『草原ダンジョン』って所に転移して、そこを徘徊してたって言えば通じるかな?


 だけどだ、


 僕はあそこヴォーバルニャに戻らないといけない。育てないといけないリンゴもいる。リンゴをこのまま放り出すなんて出来ないよ。それに一番は精霊樹を復活させないと。アリシアやオッサン、ガリオンさん、ネコ先生、あの世界で知り合い、厳しくも優しく、そして親しく接してくれた人々、目的だった地球に帰れたからと、何もかもすべてを放り投げるなんて僕にはできない。


 あの世界を救いたいと、おこがましくも、今はそう思ってしまっている自分に少し驚きながら、


「今度は、あちらヴォーバルニャに行く方法を何とか見つけないと」


 女神が眠る世界で、邪神の復活が近い、そこで戦争を止めようとしている勇者たち。それは待った無しのように思う。


 早く精霊樹を復活させないと。そう時間に猶予があるとは思えない時に、何故か僕はこちらに帰って来てしまったのだ。

 なんとしても、早急にあちらヴォーバルニャに戻らないと。

 

 役立たずで流されるままだった平凡な僕が、下を向くことなく、あの世界ではしっかりと前を向いて歩いて行けるようになった。それに必要とされている。それがとても嬉しく思うのだ。それは見え過ぎた正義感?偽善?自己満足?


「そう、なんて言われようがどうでもいい。僕がそうしたいと思ってるのだから」


 その為には、どうしても地球での協力者が必要なのだと、僕は神田さんへの番号をプッシュしたのだった。

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