第2章:ダンジョン攻略編

孤高ダンジョン

第20話 流石のメルベルさん

「よし、解った!俺が鍛えてやる。明日からレベル上げだ!」


 ええええ!勝手に僕のレベル上げが決まってしまった。



 アリシアも参加する気満々なようだ。あと二人位は入れたいと言う事で、その職はどうするかの相談を二人は勝手にしだしたのだ。


 オッサンは、土魔法とハルバードでの前線での攻撃、やはりハンマーは封印なんだとか。アリシアは、後衛からの防御結界と弓攻撃。


「ダンジョンに行くなら、スピード特化での双剣使いで盗賊スキルの罠解除が出来る者と、あと賢者がほしいな」


 オッサンは、そう言うと、ギルマス、良い冒険者がいたらチョイスしておいてくれとか言ってる。ううう、逃げれそうもない。。。



 そんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえ、ギルマスが反応すると、いつの間にか、部屋から居なくなっていた、先ほど執務室まで案内してくれた女性が現れた。


 彼女の名は、メルベルという。ギルマスの秘書をやってもらっている、かなり優秀な女性なのだとか。見た目も切れ者と言う感じの女性だ。


 客が来たという事で、ギルマスに確認を取りにきたようだ。そして、ギルマスの近くまで来ると、小声で何か囁いているようだ。ギルマスは頷いて、客を通すように指示した。


 しばらくして、メルベルと連れだって、1人の銀色の毛並みの獣人が、部屋に入って来た。耳が狼の耳で、ピンと立っていて、精悍な顔立ちと、スリムで鍛え上げられた身体つき、それとふさふさの尻尾を持つ、狼獣人のようだ。


 彼は、部屋に入ると、ギルマスとオッサンを見つけると、お辞儀をした。


「失礼いたします。私は、銀級冒険者で銀狼人のガリオンと申します。この度は、バッファ様方に息子を助けて頂いたという事で、お礼がしたく参上いたしました」


 野盗に人質になっていた獣人の1人が、彼の息子だったようだ。オッサンもギルドに来ているという事で、もし会えればお礼がしたいとやってきたらしい。


「本当にありがとうございます。先ほどダンジョンから帰ってきたばかりで、衛兵からの連絡で驚いた次第です。無事に救出されたと聞いて、胸を撫で下ろしています」


 と、深々と頭をさげている。


「いやいや、これは衛兵の警備の落ち度だ。頭を上げてくれ。元はと言えばワシらを襲う為の人質にしようとしたらしいからな。謝るのはこちらの方じゃ。それにしても無事に助けられてよかったわい」



「いえいえ、帰って来た息子が、冒険者がカッコよかったと、もう興奮しながら話すので、少し驚いているのです」


 今までは、父親が家を開ける事が多く、さみしい思いをしていたらしく、冒険者へは悪い印象を持っていた子だったそうだ。それが、今回の事件で、鮮やかな手腕で救ってくれた冒険者達を見て、憧れを抱いたようだ。そして、同じ冒険者である自分の父親にも、敬意の念を覚えてくれたとのこと。


「本当にカッコよかった。と、自分も誰かを助ける冒険者になりたいんだと、興奮しながら話す息子を見て、涙が出る思いでした。これもバッファ様方のお陰であります。本当にありがとうございました」


 またまた、深々とお辞儀をする。


 そんな話をしていると、秘書のメルベルさんが、すかさずガリオンの資料をギルマスへ渡した。


 ギルマスは、その資料を見ながら、


「君は、ソロでダンジョンに潜っているのか?」


「はい、パーティーを組んでいると、何かと時間を取られる事が多く、妻が亡くなり子供が1人残されましたので、なるべく自由の利くソロでやっています」


「そうか。それは大変だね」


 そういうと、ギルマスはバッファを呼び、ガリオンの資料を見せた。


「ほー。ソロ盗賊の双剣士か。こりゃ、ちょうどいい!」


 オッサンは、ニヤリと笑った。オッサンに、逆らえるものなど誰がいようか。いや、いない。結局、いつの間にか、ガリオンがメンバーに入れられてしまっていた。あとは、賢者だなという事で、ギルマスに一任されて、本日の会合は終わりをつげた。



 冒険者ギルドの4階が、ギルドマスターの住居になっていた。いついかなる時も、問題が起これば、率先して行かなければいけないという事で、常にギルドに詰めているというブラックだ。


 冒険者登録や、今後の打合せは明日以降に行うとして、今夜は、ギルマス邸で夕食をご馳走になり、蓮はそこに泊めて貰った。



 明日から、ギルドに登録し、本格的レベル上げが始まる。なんで、こうなった。



                ◇◆◆◇◆◆◇



 その夜、ギルマスの執務室で、酒を酌み交わすオルブロとバッファの姿があった。


 バッファはオルブロに、今日あった、野盗の襲撃の一部始終を報告したあと、レンのスキルの有益性を話した。


「いや、あのスキルには驚いた。カルトロップを投げて地面が爆発を起こしたり、賊の頭が吹っ飛んだりと、凄まじかったわい。異世界人っていうのもあるのだろうが、あいつの強さは底が見えん」


「お前が、驚くとは珍しいな」


「そうじゃな。これだけ長く生きておれば、色んな奴に出会えて楽しいわい。精霊樹を復活させるという願いもあるが、それもちろんあるんじゃが。あいつを鍛えた先に何があるのか、見て見たいと言う期待感もあるな」


 ただ、一番の問題は、あいつには強くなりたいという貪欲さが全くなく困ったもんじゃよと、バッファは、強い酒を喉に流し込んだ。



 レンの話が一通り終わると、オルブロが真剣な顔で問いかけてきた。


「で、モントヴル王国の宰相の話はなんだったんだ?」


「ああ、帝国の皇帝の弟、クレマント公爵が、この国に亡命を求めてきたんだとさ」


 ここ10年、皇帝は人が変わったようになったのだそうだ。クレマント公爵は、兄と帝位争いをしていた事もあり、仲はあまり良くはなかったが、あそこまで冷徹で、残虐な男ではなかったはずだと言っている。公爵に対しての風当りが日に日に強くなり、命をも狙われるようになったのだとか。


 いつ暗殺されてもおかしくない。そこで、クーデターを起こそうと画策しているようだ。


 表では、自分は、弱虫で役立たずだと、思わせており、裏で繋がっている貴族や賛同してくれた騎士、また、有力な商人等との接触を図っているらしい。


 こちらも密偵を放ち、調べている事と一致する。今の皇帝に対し、内部でもかなりの反発がでているのは事実のようだ。



「しかしだが、亡命を認めたら、真っ先に、この国が狙われるじゃないか」


「そうなんじゃがな、実は、見返りがあると言う話だ」


「見返り?それはどんなものか聞いているか?」


「ああ、それは。”勇者”だそうだ。公爵は今、5人の勇者と共にいるのだそうだ」


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