第6話 エルフとの遭遇

 雑草を鉈で払いながら、道なき道を進んで行く蓮。というのも、その先に人の気配がしたからなのだ。<気配察知>って、自分と魔物以外が、緑で表示されるのが解った。


 そうしていると、少し開けた場所があり、小さな湖が眼前に広がった。湖の水面は緑色のあまり綺麗とは言えないアオコの状態であった。


 その湖の淵に一人の人物がこちらを向いて立っていて、どうも女性のようだ。多分、彼女も僕の気配を察していたのだろう。手にした弓をこちらに向けている。


 警戒しながら、両手を上げ近くまで行くと、その人物は、今まで蓮が見た事のない容姿をしている事に気づいた。


 顔はよく判断は出来ないが、とても神秘的に美しい様に見える。真っ白い肌、金色の長い髪を揺らし、その髪からのぞく耳は長くピーンと立っていた。


 あれは、そうエルフだ。想像の生き物だと思っていたその種族が、今まさに目の前に立っているのだ。



 エルフと思われるその女性は、怪訝な顔でこちらを睨み、構えた弓は下さず、俺に問いかけてきた。


「止まれ!そこから動くと撃つぞ!お前は人間だな。変わった衣装を着ているが、どこから来た?」


 威嚇されているのは解るが、そう言われても、ここがどこか解らない以上、答えられない。ただ、言葉が理解出来るのは<言語理解>のスキルのお陰だろうと思う。そこで、


「えっと、ここはどこなんです?」


 彼女の問いに、そう問いかけてみた?


「お前、何を言ってる。私をからかっているのか?」


 彼女は怒りの形相で弓を引き構える。


 失敗したかと思い、必死で弁明を試みた。


「いえいえ、ち、違うんです。本当にここがどこか解らなくって。僕は、日本っていう国から来たダンジョンシーカーなんです。そこのダンジョンの床が崩壊して、落ちてきたのがここで、だから、ここどこなんですかーーー?!」


 全く見も知らない場所で、今まで見た事もない想像の生き物だと思っていたエルフに弓を向けられた不安と恐怖で、訳も分からず、叫んでしまった。


「僕の国って、エルフだとか、魔法だとかないし、魔物とかいない国だったんですよ。それが10年前に突然ダンジョンが出来て、で、それで、シーカーになって、金色のスライムとかがでてー、それで床が抜けてー」


 パニックに陥ってしまい、とうとう泣き出してしまった。スキルオーブを拾ってからの、今まで体験した事のない切羽詰まった出来事が、次々に起ったのだ、蓮の精神は崩壊寸前だったのだ。18歳なのに、くそはずかしい。


「ちょっと、落ち着け、解った!解った!ちゃんと説明してやるから泣くな!」


 エルフの女性は、泣き叫び座り込んだ僕に手を向けると何か囁いた。そうすると僕の身体がなにか淡いベールのようなものに包まれたようになり、少し落ち着く事ができたようだ。


「少年、落ち着いたか?」


 エルフの女性は、優しく微笑んで、後ろを向くと、こちらに来いといった手招きをすると、森の奥に歩き出した。



                ◇◆◆◇◆◆◇



 エルフの女性の後を付いて行くことにした。たどり着いた所は、大きな木の幹に沿うように建った一軒の小屋があった。その小屋の前に、テーブルと椅子が置いてあり、その椅子の一つに座るように促された。


 女性は、小屋に入り、しばらくすると、湯気の立った木で出来たコップを二つ手に持って出てくると、


「ハーブ茶だ、少しは落ち着くと思うぞ」


 僕の前にその一つを置き、飲むように促した。


「すいません。取り乱しました」


 蓮はペコリと、エルフの女性に頭をさげた。むちゃくちゃ恥ずかしい。18歳は成人だ。シーカーデビューもしている。それなのに、いい大人が泣き出して喚き散らしたのだ。わーん、黒歴史だ。


 


「ところで、さっき言ってた事だが、どこからか落ちてここに来って言ってたな。」


「はい、本当にここがどこか、よく解らないんです。」


 蓮は、自分が住む日本の事を説明した。魔物も魔法も無い世界で、科学が発達し、娯楽に溢れる豊かな国だった。10年前、世界中に、また自分が生きている日本という国に突然ダンジョンが現れ、自分がシーカーになった事、突然ダンジョン崩壊に巻き込まれ、この世界に落ちてきた事を説明した。


 エルフの女性は、取りとめもない話を最後まで言葉を挟まず聞いてくれていた。

蓮の話を信じてくれたかは解らないが、唐突に、


「私の名はアリシアと言う。アリシアと呼べ。少年、君は何という名なのだ?」


 エルフという種族は、地球では考えられないくらい美しい見た目をしていた。透明感あるシミ一つない真っ白な肌、長いまつ毛、大きな二重の瞼の中に緑色のエメラルドの輝きにも勝る瞳、高すぎる事もないすっと通った鼻筋、ぷっくりとした吸い込まれるほど魅力的な唇。化粧などせずとも、この美しさは至高のものである事は解る。そんな、女性に、名前を呼び捨てにしろと、高圧的な言い方でそう告げられたのだ。


 高圧的な人は、そもそも自信がない人が多いと聞くが、このアリシアは、どうなんだろう?と、ふと考えてしまった。いやいや、もうなんかどうぞ踏んでください女王さまってモゴモゴなんて不埒な事を考えてしまった。



「はい、僕の名は、レンです。あの、僕もう18歳なので成人です。少年ではないので」


「え、あ、すまない。我々の種族は、人間より長命なのだ。だからつい。大変失礼した。この通りだ。」


 アリシアは、頭を下げて謝ってくれた。たぶん、僕が相当幼く見えるのだろう。まぁ、童顔だとよく言われるので、言われ慣れてるんですけどね。

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