第20話

 不動公平は功德市の生まれだった。

 温和な父親とミステリアスな母。

 一つ違いの弟の公正の四人暮らしだった。

 幼い頃から霊感は無く、視る事に憧れがあった。

 中学二年生の頃、南海トラフ巨大地震が起こり、弟と父とは死別。

 母はまったく動揺してなかった。

 すぐ、なぜか気づいたのは。母は亡くなった父と弟の霊と会話していたのだ。

 それは寂しさなど無いだろう。

 しかし、どうやっても公平は亡くなった二人を感じる事ができなかった。

 それがどれだけ辛いものだったかは、公平にしか分からないものだった。

 その鬱屈を抱えながら、普通の人、普通の人生を歩もうと決意した。

 母とは縁を切る。

 幸い国の支援で学費は無料だったため、生活費だけバイトで賄った。

 クラスのほとんどが視える側の人達で、学校にも居場所は無かった。

 勉強のみに没入した学生時代だった。

 でも大学へ行く気が失くなったのは、たまたま受けた公務員試験に受かったから……それもあるが。

 大学へ行ってもまた孤立するのが嫌だったのが大きかった。

 何か夢があるわけでもなかった。

 総務省消防庁へ入庁するはずだった自分がなぜか心霊庁捜索課保護係へ異動になった理由は今もって謎……。

 正直、苦痛の連続だった。

 視えないのに霊体の保護なんて無茶だと思った。

 しかし、大菅蓮おおすがれんや堂本姉弟、鬼迫欣志おにさこきんじなど、心霊庁の皆は本当に視えないハンデを気にせず接してくれた。

 それは嬉しいけれど、また昔のように視える側の人間に成りたいと思うようになっている。

 子供じみているのは自覚があった。

 そんな事をかいつまんで三沢御住職に話してみた。

「一つよろしいですかな」

「何でしょう?」

 公平はどんな顔で受け答えをしたか気になっていた。しきりに顎を触る。

「人生の目的は何だと、お思いか?」

「いや、それは……」

 答えに窮して俯いた。

「私が思うに、人は幸せになるために生まれてきたと思います。人生の目的は幸せになること。そのために仏様は法を説いて衆生を教化、導こうと苦心なされた」

「はぁ」

「幸せの数は人それぞれと凡夫は思いがちだが、私は違うと思います。誰も彼もがこれこそ幸せと思えるモノが仏法のなかにはあると信じております。例えば、生老病死しょうろうびょうし四苦しく愛別離苦あいべつりく怨憎会苦おんぞうえく求不得苦ぐふとっく五陰盛苦ごおんじょうくの計八苦の四苦八苦しくはっくの解決に仏法の価値がある。この四苦八苦は人類一人として欠けることなく苦しめられる、言わば共通の普遍的な苦しみです。それらから解放されるなら、普遍妥当性のある幸せと言えなくはないかと、私は思うのです」

「……」

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