第19話

 巴の携帯端末にメールを送った。

「お疲れ様。具合はどうですか? 悩みがあるんだけど、話を聞いてもらえませんか?」

 すぐ返事が来た。

「具合は良好よ。なによ、改まって気持ち悪い。話ならプロがいるでしょ」

「プロ?」

「バカね、三沢御住職よ」

 なるほどと思った。

 考えたら仏の道にじゅんじている三沢道寛師に相談する事は思いもつかなかった公平である。

 急に心が軽くなり、ありがとうと返信してその足で昇魂寺しょうこんじへ向かった。


 昇魂寺は暗かった。人もおらず、受付のインターホンを恐る恐る押す。

 すると、あの法要の時より少し痩せた三沢道寛師が挨拶をしてくれた。

 日々の法務は多忙のようだ。

「あの、御住職様。少しお時間よろしいでしょうか?」

「なにやらお悩みの様子。よろしいですよ」

 薄墨の法衣ではなく白いあわせの着物姿だった。

「もしかして」

「仮眠を取っておりました」

「申し訳ありません」

「気にせず、朝朝ちょうちょう仏と共に起き、夕夕せきせき仏と共にす。不惜身命ふしゃくしんみょうもまた僧侶の務めです」

 本堂で三唱してから、談話室で木のテーブルを挟んで相対した。

「過去の事ですかな」

「えっ、なぜそれを」

「人はみな、過去からの積み重ねで形どっていますからね」

 この人なら何もかも告白できるかもしれない。

 答えが欲しいというより、内心を吐き出したかった。

「実は……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る