あべこべの世界

相原梨彩

第1話

 朝、日差しの眩しさで目が覚めた。よく考えれば日差しの眩しさで目を覚ますのはおかしなことだった。けれどまだ頭が回っていなかった彼は眩しい、というごくごくありきたりな感想しか持たなかった。


 おかしい、と気がついたのはカーテンを閉めようと立ちあがった時だった。


 ────自分の体が軽い。

 

 おかしいと気がついて自分の体に目を向ければ悲鳴をあげそうになる。


 そこにはないはずのもの、確かに膨らんだ胸があった。


「何で……」


 恐々としながら胸に手を当てれば触ったことない感触にまた悲鳴をあげそうになる。


 何とか理性を保ちながら玄関先にある全身鏡へと向かう。


 そこで自分の体を目にした瞬間、何とか抑えていた理性はぶっ飛び外に聞こえるほど大きな悲鳴をあげそのまま気を失った。




 次に目を覚ましたのは天蓋ベッドの上でだった。


 辺りを見渡せば天蓋ベッドが置いておるにふさわしい豪華な広い部屋だった。


 ここはどこなのか、何をするべきなのか呆然としていると人が部屋に入ってくる。


 どういうことなんだ、ここはどこだ、と問いただせばその人はゆっくりと説明してくれた。


 ここはあべこべの世界であること、元々こっちにいた僕が逃げ出すために入れ替えてしまったこと、1ヶ月くらいしないと帰れないこと。


 最初は怖がっていた僕もここに自然と慣れていった。

 

 というよりはやはりあの言葉が大きかったのだろう。


「あべこべってことはここでやったこととは反対のことが起きるってこと?」


「さようでございます。もし貴方様が今から勉強をすればあちらは遊びますしこちらが食べている量の反対をあちらは食べます」


 それは僕にとって朗報だった。


 他の子よりちょっとぽっちゃりしているとからかわれる彼にとってこのチャンスは夢のまた夢だったからだ。


 それにミスだということでかかなりいい待遇。部屋も食事も豪華で何でもやってくれる。お金もいくらでも使え次第に僕はベッドの上から動かなくなった。


 起きては食べてまた寝ての繰り返し。1日7食の生活に慣れきった頃その日はやってきた。


「お帰りの時間です」


「分かりました」


 とうとうこの日がやってきた。もうこれでからかわれることもない、何ならスレンダーなボディだと女の子からモテモテになることだろう。


「では立ってください」


 手を引かれベッドから降りると自分の体の重さに驚いた。


 部屋の中にある鏡を見れば来た時とは別人の姿になっていた。


 それでも彼は劣等感を抱くことはなかった。


 どうせ後数分でこの体とはおさらばなのだ。


 どうでもいいと思うのも無理はない。


「これで帰れます」


 何やら装置が置いている部屋に連れてこられ装置に横たわる。


 次の瞬間電気のようなものが体を走り彼は意識を手放した。



 目が覚めると雲の上に浮かんでいて隣には知らない人がいた。


 どうして雲の上に浮かんでいるのかと下の方を見た瞬間、彼は悲鳴をあげる。


「何で……」


 それは体が幽霊のように色が薄かったからだ。


「誰か!」


 そう叫べば同じく色の薄い男がやってくる。


 どういうことかと問いただせば彼は言った。


「君はもう元の世界には戻れない」


「失敗したのか? それともあいつらが嘘をついてたのか!?」


「違うよ。君は栄養失調で死んだんだ」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あべこべの世界 相原梨彩 @aihararisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る