第5話 どこの世界でも
虐めという物は、何処の世界にでもある物だ。
それが勇者の花嫁候補を集めた才色兼備の集団であっても、である。
◇◆◇◆◇◆◇
異世界に召喚され、
俺は相変わらずボッチ街道まっしぐらだ。
取り敢えず、理事長室での一件は特に噂になっていない。
今日は天気がいい。
なのでさっさと部屋に戻ってネット三昧ではなく、外でも散歩しようと思い立つ。
え?
なんでネットが出来るのかだって?
流石に元の世界に帰る事は出来ないが、世界に小さな穴をあけてスマホを持って来る事ぐらいなら、今の魔改造された俺なら楽勝だった。
更にその明けた穴から、wifiも引っ張って来ている。
ま、そんな事はどうでもいいだろう。
放課後、学園内をうろついて回っていると――
「調子に乗らない事ね」
学園の裏手にある大きな湖のほとり辺りで、そんな言葉が聞こえてきた。
きな臭いなと思い、俺は声の方へと向かう。
「虐めか……こんな場所でもあるのかよ」
黒髪で長髪の女生徒を、5人の女生徒が取り囲む姿が視界に入る。
囲まれている女の子は俯いており、虐めのリーダーと思しき金髪縦ロールがその頬を扇子の様な物で叩いた。
大した威力ではないので、まあ威嚇的な物だろう。
取り敢えず、俺はその集団に迷わず近づく。
虐めとか見てて胸糞悪いからな。
必要ならぶん殴って止めるまでだ。
「おい、何やってんだ?」
ある程度近づいた所で声をかけた。
俺に全く気付いていなかったのか、全員が驚いた顔で一斉に此方に振り向く。
「あなたは……ふん、何をしているかなんて私達の自由でしょ。一々拘らないでくれるかしら、勇者様」
金髪縦ロールが俺が誰だか気づき、馬鹿にしたように鼻で笑う。
イラっとしたので、取りあえずこいつはぶん殴ると決める。
「何をするかお前らは自由なのに、俺が自由にお前らに関わるのはダメってか?」
「ええ、そうよ。他の勇者様方ならいざ知らず、貴方の様な出来損ないにその権利はありませんわ」
縦ロールの言葉に、取り巻きっぽい女どもがクスクスと笑う。
こんな場所で集団で虐めをするだけあって、全員性格が腐っている様だ。
「そうか、じゃあしょうがない。どっちが本当の出来損ないか勝負だ」
取り敢えず、一気に間合いを詰めて油断しきっている金髪縦ロールの顔面に拳を叩き込む。
不意打ち?
相手から喧嘩を吹っ掛けて来たんだから、その時点でゴーファイトだろ?
女は盛大に吹き飛び、ドバンと大きな音を立てて背後の湖に落下する。
一見強く殴り過ぎの様にも思えるが、そんな事はない。
殴る前にちゃんと相手の戦闘力は確認してある。
300万だ。
理事長室で俺を取り押さえようとした二人や、外の警備達は200万程だった。
そう考えると、金髪縦ロールはそこそこ強い方に分類される。
あの位じゃ死にはしないだろう。
「ベべべ!ベヒモス様!!」
何が起こったのか理解できなかったのだろう。
周囲の女生徒達は暫く固まっていたが、女の体が湖面に浮いてきた所で慌てて全員飛び込んで行く。
あ、虐められてた子は別な。
「様付けって事は、どっか良い所のお嬢様だった訳か」
他の女子は、その取り巻きって感じだな。
彼女達は、鼻が潰れて血をダラダラ流している金髪縦ロール――ベヒモスを、びしょ濡れになりながら引き上げてきた。
「ベヒモス様!今回復を――ぷげぇっ!?」
女生徒の一人が魔法を使って、寝かせたベヒモスのダメージを回復しようとする。
俺はそいつの顔面目掛け、蹴りを放つ。
当然回復などさせない。
因みに、今の蹴りはかなり弱めにしておいた。
女の戦闘力は100万もなかったからだ。
金髪縦ロールと同じレベルで攻撃していたら、確実に死んでただろうからな。
他の取り巻きも、だいたい100万前後だ。
「こんな……こんな真似をして……許されると思ってるの!!」
「誰に対して、何を許して貰うんだ?もしかして理事長か?なら問題ないぞ」
この学園のトップである理事長は俺の
何をしても許してくれるだろう。
ま、許してくれなくても気にはしないが。
あいつが死ぬだけだし。
「ふざけないで!ベヒモス様は王国4大家門、ゲンブー家の御令嬢なのよ!こんな真似をして!ただじゃすまないわよ!!」
4大家門か。
確か授業で名前が出てたな。
地水火風の属性を司る、この国――スタリオン王国建国からの名門だっけか。
さぞすごい権力を持ってるんだろうが、俺の知ったこっちゃねぇ。
何かあっても戦闘力10億なら切り抜けられるだろう。
なんせ、Aランク判定の勇者ですら2000万程度だった訳だしな。
ま、仮にどうにもならかったとしても行動を翻す気はないが。
相手の強弱なんて関係ない。
理不尽や悪意敵意には、相応の返礼で答えるのが俺の流儀だ。
まあそんな無茶な性格だからこそ、両親は俺にチート能力が行く事を願った訳だが。
「いくら勇者だろうとあんたはもう終わり――ぎゅぁっ!?」
ギャーギャー喚く女生徒の顎を、俺は爪先で蹴り上げる。
そしてそのまま踵落としを、顎が跳ね上がって上を向いている女の顔面目掛けて叩きつけた。
女生徒はそのまま地面に大の字に転がり、ぴくぴく体を痙攣させる。
「ひぃぃぃぃ!!」
俺に
それを理解した女生徒の一人が、恐怖から悲鳴を上げて逃げ出そうとする。
が――
「おいおい、どこ行くんだ?」
もちろん逃がす訳もない。
ちゃんとお仕置きしとかんとな。
俺は逃げ出そうとした女生徒の後頭部をがっちりと掴み、その動きを制する。
「痛い!放して!!」
「ああ、言われなくても直ぐに離すさ」
長々と掴んでいるつもりはない。
俺は暴れる女生徒の顔面を地面に叩きつけた。
良い夢見ろよ。
「さて、最後はお前だな」
「なんでこんな事を……私達が何をしたっていうの?」
女生徒がガタガタ震えながら聞いて来る。
自分達がぶん殴られた理由が分かっていない様だ。
「まず第一に、虐めが不快だから。見てて気分が悪い。第二に、ベヒモスって女に喧嘩を売られたから。以上だ。理解できたか?じゃあ覚悟しろよ」
「ひっ……ま、待って!私はベヒモス様に命令されてるだけなの!彼女には逆らえないから!本当は虐めなんてしたくなかったのよ!!勇者様に喧嘩を売る気だって、そんなのベヒモス様が勝手にやった事だし……だから!」
最後の女生徒が、涙ながらに訴えかけて来る。
4大家門のお嬢様には、立場的に逆らえないポジションなのだろう。
吹っ飛んだベヒモスを助けるため、迷わず湖に飛び込んだぐらいだしな。
「それは災難だったな」
「そう!災難なのよ!」
「じゃあこれから起こる事も、災難と思って諦めてくれ」
が、それはそれ。
これはこれ。
俺は女生徒の顔面に容赦なく蹴りをぶちかます。
「ぺぎゃあっ!」
まあだが、これは優しさでもある。
他の奴らが怪我してるのに彼女だけ無傷だった場合、周囲がどう思う事か。
そう考えると、仲間とそろっておねんねした方が良いに決まっている。
因みに、全員顔を攻撃して分からせた訳だが……
もちろん意図的だ。
女は顔面を攻撃されるのを嫌うからな。
女の心を折るには顔を狙うに限る。
まあこの世界には回復魔法があって傷は残らないので、元の世界程の効果はないだろうが。
「終了っと」
「……ありがとうございました。私はこれで」
虐められていた女生徒が俺に頭を下げる。
そして何事もなかった様に、その場を去って行った。
「随分とクールな奴だな」
助けてやった場合、大抵の奴は怯えて話にならない状態になる。
何せ目の前で、虐めてた奴を完膚なきまでにボコボコにする訳だからな。
虐められてる様な奴からすれば、俺も完全に恐怖の対象でしかないのだ。
「ほっといても、自分でどうにか出来たって感じだな……ま、どうでもいいか」
虐めの被害者を助けるというよりかは、単に見てて不快だったからという理由の方が強い。
だから本人が自力でどうにか出来たかどうかなど、俺にはどうでもいい事だ。
「さて、散歩続けるか」
ぶちのめした女生徒達に呪いをかけようかとも思ったが、止めておく。
理事長達の様に、俺に対して明確な悪意で攻撃してきた訳じゃないからな。
そこまでする必要はないだろう。
まあここから先、何かして来る様なら容赦しないが。
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